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第152話
152.
今日も僕はアンの様子を見に、先生の家に来ていた。って、いうか今、ナチュラルにアンの家って言おうとした。
うん、なんかもう、本当そんな感じ。
先生の家なんだけど、アンの家だよね。もう、ここってさ。
最初は緊張感で溢れていたのに、気付けば時間と共に馴染んでしまっていて、時間の流れの偉大さと不思議さを感じる。
大体二週間から三週間ってところだろうか。
アンと一緒に先生の家で過ごすようになって、なんとなくそれが当たり前に感じ始めていた。
アンとは特別何かを一緒にする訳ではなく、ただ同じ空間で過ごしているだけだけれど、それでも、それが当たり前になっていく。
まだ三週間なのか、もう三週間なのか。
どのように表現するのが適切なのか迷う、そんな不思議さもある。
そんな当たり前に普通で、たまに楽しい毎日。
健全な高校生はもっと外に遊びに出かけるのかな。
僕はといえば、大体、ダイニングテーブルを借りて、本を読んでいるか、勉強しているか、アンの隣で一緒にテレビを見ているか、そのどれかだった。
アンは頭もいいから、僕が聞けば勉強も教えてくれる。
しかも、結構分かりやすい。
保健室で自分で勉強してた時に躓いた所を聞いてみた時には、あっという間に解決してしまって、びっくりした。
いつもテレビを見ては、BLを書いてばかりのアンは、一体いつ勉強しているのか。
そう思って少し聞いてみたら、一体何年高校生やってると思ってるのよ、と返ってきた。
それにもかなりびっくりした。
じゃあ、一体お金の出所を聞いてみれば、それは言葉を濁される。
すっごい気になるけど、ここは突っ込むべきじゃないんだろうな。
そんな感じで、少しずつアンの事も知っていって、やっぱりそれが当たり前になってきた。
僕が吸血鬼になる前は、そんな事思いも寄らなかったのに、不思議だね。
僕の日常には、気づいたら先生とアンが居る。
だから、今日もそうやって、アンに何時ものように弄られながら、日常を過ごした。
勉強を教えてもらう代わりに、お茶を出したり、肩を揉んだり、甲斐甲斐しく世話をするのも当たり前になってきていた。
午後になれば、先生とも合流して三人で時間を過ごしたり、先生と二人で寝室に篭ったりも当たり前になっている。
先生の事は大好きで、アンの事もやっぱり好きで、それも僕にとっては普通に当たり前の感情だった。
それもやっぱりよくよく考えてみれば、不思議だなって思う。
そんな風に過ごして感じながら、僕は僕の夏休みを満喫していた。
そう。
満喫していたんだ。
楽しんでいた。
僕なりの充実した夏休みだった。
けれど、今日、先生が帰ってきた玄関の合図から全てが変わった。
いつものように、ベルが鳴り、インターホンを確認すると先生が映っている。
僕は、何時ものように、玄関に駆け寄るとカチャリと鍵を開けて、ドアを開いた。
けれど、その瞬間、突然出てきた知らない人に僕は捕まえられて、部屋から引っ張り出された。
「えっ、何?!」
僕は慌てて何事かと周囲を見渡そうとする、そんな余裕も無かった。
「突入!」
向こうから周囲に聞こえる程の僅かな声の合図がして、僕は身構えて抵抗する隙もなく力尽くで引き摺り出される。
それと同時に間髪入れず、僕の居た筈の先生の家に、数人の男性にドカドカと押し入られる。
「えっ!何これ。」
「しっ、君は森王子くんですね、無事で良かった。もう安全ですよ。安心してください。」
「え?何?!まって!」
まって、中にはアンが居るのに!
何があったの?!
どういうこと?
アンは?
アンは無事なの?!
「アンは?!アンは?!」
「さぁ、こちらに。向こうで太宰老中がお待ちになられておられます。」
「えっ!先生?!そうだよ、先生は何処?!」
「あちらですよ。安心してください。」
僕は引き摺られるようにして、向こうの方へと連れて行かれる。
そして、影に潜めてあった、車の中に押し込められた。
「わぷっ、えっ、ちょっ!」
「ご無事で何よりでした。それでは、太宰老中、こちらの方のことは宜しくお願い致します。」
そう言うと、助手席のドアをバタンと閉められる。
それと同時に車が急発進をした。
「わっ、えっ、なに?!」
僕が混乱したまま喚くと、隣で声がする。
「王子、すまない。俺もこんな予定じゃなかった。」
「えっ、先生?!あれ?!ちょっと、一体何があったんですか?!っていうか、アンは?!ねぇ、アンは?!」
「取り敢えずベルトしなさい。話はそれから。」
「は?!ねぇ、アンは?!無事なんですよね?!まさか、先生、アンを捕まえに来た訳じゃ無いですよね?!ねぇ、先生!!」
「すまない。」
先生が前を向いたまま、謝ってくる。
なに?
すまないって、どういう事?
何で先生は、僕に謝ってるの?
僕は先生を信じるよ。
信じる。
信じるから。
だから、無事だと言ってよ。
アンは、無事だって。
「アンは元老院に引き渡す事になった。君の事は、長い時間人質に取られて、極限状態の中、錯乱している事になっている。」
「は?何言ってるの先生?約束したじゃん!っ、守るって約束したじゃん!無事でしょ?!そうだよね?」
僕は必死で先生に問い掛ける。
先生は相変わらず無表情のまま、前を見ている。
「アンは、今後元老院の裁判で裁かれる事になる。」
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