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第154話
154.
「吸血鬼界最高権力保持者、太宰老中と森補佐官だ。」
先生がきっぱりと言い放つ。
僕はその横顔から視線を逸らすことが出来ない。
僕が沈黙していると、先生が再び口を開いた。
「いいか、解らなければもう一度言うぞ。」
「いえ、大丈夫です。」
「よし、ここまで良いか?」
「はい。」
慌てて返事を返す僕に、先生は表情を変える事はない。
そうだった。
今の先生は老中だ。
例え代理が付こうとも、その権威が色褪せるなどという事は無い。
僕はすっかり失念していた。
一緒に居過ぎるから、すっかり感覚が麻痺していた。
だって、先生は先生のままだから。
あまりにいつもと同じだったから。
僕の日常には、学校保健師の太宰先生がいつも居たから。
言い訳をすれば、老中の太宰先生なんて僕の日常には居なかったんだ。
「そういう事だ。俺は老中という権限をフルに活用してあらゆる手段を講じていく。タイムリミットは、アンに判決が下るか、中原が定例会で老中に返り咲くまでの約1ヶ月。君は、俺に付いて居るだけで良い。君は俺で、俺は君だ。それだけ覚えておきなさい。」
「はい。」
「いいか、まだ実感が無いようだから付け足すが、老中なんて物は民主主義の仮面を被った独裁者だ。やりようによっては、クーデターだって起こる。それだけの絶対的な権力を持つ。扱い方次第で生かすも殺すも自由自在だ。心しろ。そして、自分を見失うな。」
「はい。」
僕は先生に届くように返事をする。
それから拳を握り締める。
一体僕にはどれだけの事が出来るのか解らない。
解らないけれどやるしかない。
僕は、以前の自分の裁判を思い返す。
あの時、確かに老中の3人だけで僕等の処遇が決められた。
そうだ。
たった3人が、僕らを生かすか殺すか決めたんだ。
まずは、証拠だ。
証拠を掴め。
老中の権限を行使し、証拠を探し見つけ出すんだ。
そうすれば、必ず全てをひっくり返せる。
「さぁ、着いた。」
先生が車を停める。
僕が外を見渡すと、見慣れない場所に車は停車していた。
駐車場の向こうには、植樹された木々が等間隔に間を開けて並び、その向こうには、芝生が広がっている。
そして、芝生の突き当たりには、白い箱のような建物がポツンと建っている。
「夏目老中がいらっしゃっている。今回は夏目老中が中原の所在を掴んだんだ。いいか、用心しろ。判決を覆す時の決め手になるのは夏目老中だ。絶対にアンと俺達の不利になるような情報を与えるな。知っていて当然の事だけで話を進めろ。そして、敵として対峙するのでは無く、懐柔して必ず味方につけるんだ。」
「はい。」
「君は今回、アンが立てこもる際の人質として捕らえられていた事になっている。俺はアンから脅迫されて、王子救出作戦兼アン捕縛の指揮を執った。君は今、精神を憔悴させて、検査に来ている。錯乱している演技をとれ。余計な事は絶対喋るな。夏目老中に情報を与えてはならない。」
「解りました。」
「降りるぞ。」
僕は助手席の扉を開ける。
それから、足元を態とフラつかせながら、先生の脇に並び、先生にしがみ付いた。
先生は、僕の肩を抱きかかえる用にして、僕を誘導する。
僕は今、憔悴している。
僕は今、恐怖に震えている。
僕は今、錯乱している。
僕と先生が芝生を突っ切るように歩いて行くと、目の前の建物から、誰かが飛び出して来て、僕らの方に向かって来た。
夏目老中だ。
「森くんだね?大丈夫か!!」
夏目老中に小走りに駆け寄られて、声を掛けられる。
僕は、先生にしがみ付いたまま、夏目老中と対峙する。
「夏目・・・老中。怖い。怖かった。怖かったです。ああぁあ。」
ヒステリックに叫ぶと先生のスーツに身を伏せた。
先生は僕を力一杯抱き締めてくる。
夏目老中が何か言ってくると思って居たのだけれど、その後何も返事がない。
あれ、僕、やり過ぎた?
先生の声が僕の頭の上で響く。
「夏目老中、挨拶も碌に出来ずに申し訳ありません。まだ、救出されて間も無くて、錯乱状態にあるんです。一般病院に連れて行く訳にもいきませんでしたので、研究所の医務室をお借りしたく思います。」
「あ、あぁ、そうだね。その方がいい。落ち着くまで、ゆっくり休んでいらっしゃい。」
「有難うございます。失礼致します。王子行くよ。」
僕は、ぐっと肩に力を籠められる。
僕はもう一度、ダメ押しに声を震わせた。
「あああ、うぁぁぁ。」
先生が歩き出すのに合わせて僕も歩き始めると、背後で声がする。
「可哀想に、まだ子供なのに怖い思いをしたんだね。太宰くん、ゆっくり落ち着かせてやりなさい。」
「はい。」
少しづつその場から遠ざかり、建物内に入る。
僕は相変わらず先生にしがみ付いている。
ガチャリと扉を開ける音がして、また、知らない人の声がした。
「あ!太宰老中、ああ、あの、お話は伺っております。準備も整えております。」
「有難う、助かりますよ。まずは、森くんを落ち着けてやりたいので、暫くお人払いをお願いして宜しいですか?錯乱状態では、初対面の人はかえって緊張するでしょう。」
「畏まりました。そ、それでは、失礼、致します。」
暫く、バタバタ、ガチャガチャと慌しい音が響いたかと思うと、ガチャと扉が閉まり、辺りが静かになった。
僕は相変わらず先生にしがみ付いたまま、顔を伏せていると、そのまま、向こうへ誘導されベットの上に腰を下された。
僕は先生から離れて、やっと、先生の顔を覗き込んだ。
「あ、あのう。」
「よし。」
その時になってやっと、先生がニヤリと笑みを浮かべているのに気づいた。
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