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第156話

156.  ガラッと音をさせて扉を開けると、直ぐそこに、数人の人影が目に入った。  ああ、先生の言った通りだ。  部屋の外から、時折こちらを覗き込んでいたようだ。 「お疲れ様でございました。具合の方は如何ですか?」  向こうに居た人が、先生の側に駆け寄ってきて尋ねる。 「あぁ、大分落ち着いたようですよ。君達を追い出していまって、申し訳なかったですね。部屋の提供を有難う。感謝しております。」  先生が丁寧に挨拶をかわす。  すると、その女性は嬉しそうに微笑んだ。 「はい。お役に立てて光栄に御座います。」  うわぁ、先生ってば罪作りな。  狙ってるのか狙ってないのか、その笑顔で女性を蕩けさせている。  アンによると、学校中の生徒が虜になるくらいだもんね。  そうなるのも無理はない。  嫉妬とかそういうんじゃ無くて、先生が単に人誑しである為に相手をさせられる女性に同情の心理が働く。  普段、そんな口調でも無いでしょうに。  いや、口調とかあんまり関係ないのか??  生徒に対しては、僕に対するのと同じような口調で接して居てモテるのだから、丁寧に接されても蕩けるし、ぞんざいに扱われても蕩けるのか。  誠にけしからん。  本当に純粋に同情するよ。  芥川さんに対して抱いた感情なんて、ここでは全く出て来ないし、本当にただ同情するだけだった。  そう思うのは、きっと先生の方に気持ちが無いから。  優越感から来る余裕の現れかもしれない。  僕って、心底嫌な奴だな。  先生に対して、誰かが恋心を抱いていても、僕は何も思わない。  先生が相手に好意以上の気持ちを抱かないのなら、僕は別に何だってどうだっていい。  あぁ、でも、相手にベタベタされてたらちょっと嫌かも。  うん、それは嫌だな。うん。  そんな事を考えていると、脇から声を掛けられた。 「大丈夫ですか?落ち着かれましたか?」  振り向くと、少し背の低い白衣を着た女性が視界に入った。  ふんわりとした髪が、彼女の柔らかそうな両頬を縁取っている。 「有難う御座います。大分落ち着きました。」 「それは良かったです。」  彼女が柔らかく笑う。  僕はその雰囲気に、緊張していた気持ちが少しばかり解けて気が緩む。 「それでは少し検査をしましょう。こちらにどうぞ。」  そう言われて、再び医務室に案内されて、簡単に心音や心拍、血圧なんかを診てくれた。  当たり前だけど、僕に異常は見られない。  それが終わり僕が立ち上がると、向こうで女性達の相手をしていた先生が僕に近寄ってきて、そのまま肩を抱き込まれた。  危うくバランスを崩しそうになる。 「うえっ。」 「お世話になりました。今から夏目老中と会見をしたいのですが、どちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?」 「はい、それでしたらあちらの応接室でお待ちになっていると思います。」 「有難う御座います。失礼します。」  先生が会釈するのと同時に、僕も身を屈める。  それから、先生に肩を抱き込まれたまま引き摺られるようにして、夏目老中のところに向かった。  再び僕は緊張してくる。  ここまで上手くやれているだろうか?  それにしても、割と人がいる前で、こんな風に抱き込まれながら歩くなんて恥ずかしい。 「あの、先生、これ・・・。」  僕が遠慮がちに尋ねると、先生はこちらに視線を向けた。 「ああ、回復したと言っても、この位はしておかないと信憑性に欠けるからな。俺が君の事を心配していると、皆に思わせ見せ付けるのが良いだろう。」 「はい。」  ああ、そういうことね。  成る程。  僕は回復したのなら逆に不自然な気がして気になっていたんだけれど、先生の言う通りこの方が自然なのかもしれない。  僕は先生に促されるまま歩調を合わせていると、一つの扉の前で立ち止まった。  多分、この部屋の奥に夏目老中が居る。  僕は上手くやれるだろうか。  緊張してきた。  先生がドアをノックする。  すると、ガチャリと、向こうから扉が開いた。 「お待ちしておりました。」  扉を開けた主を確認すると、見覚えがあった。  元老院の老中の控え室で会った、秘書の方だった。 「お入りください。」  先生が部屋の中に入るのに続いて、僕も後から中に入った。  中には、簡単なローテーブルとソファが二脚置かれている。  その左側には、夏目老中が座っていた。

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