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第169話

169. 「すまないって。悪いと思ってるよ。でも、かもしれない、を言う訳にいかないだろう。しかもあの時、二人きりで相談する時間なんてなかっただろう?」 「まぁ、そーですけどー。」 「本当すまなかったよ。それで、どうする?聞きたい?今は辞めておくか?」 「聞きますー。寧ろ教えてくれないと、僕はもっと不機嫌になりますー。」  ほんとまったく、もー!なんだから、この位言ってやってもいいよね。  だって、僕がどれだけヤキモキさせられたか、本当に解ってるんだろうか、この人は。  少しくらい、僕にヤキモキさせられると良い。 「本当悪かったって。あの会話だけど、証拠品の話の時に煙草もあったことを話したのは覚えてる?」 「えーと、そんな事も話してたような?」  タバコ?うーん、そんな事話してたかもしれないけれど、僕は凶器をどうするか、どうであったか考えるのに必死でその他の事はあまり覚えてはいなかった。  タバコなんて、どうやったって凶器にならないし。 「夏目は現場に行っていないのに、煙草と聞いただけで、マイセンだと言い当てていただろう。しかも夏目は煙草は吸わない。禁煙者の筈なのに、メビウスの事をマイセンと呼ぶのは些か不自然じゃないか?」 「はぁ、言われてみればそうかも。」 「そうすると、本人が吸わないのならその周りが吸っていると思うのが妥当だろう?しかも、メビウスの事をマイセンと呼ぶ人物が近くにいるって事だ。そんなのアンくらいしか居ないんだよ。」 「はー、なるほど。え、でもそれなら、何でその後に中原老中を疑っていると夏目にバラしたんですか。あれ、ほんと心臓止まるかと思いましたよ!」 「あれはカマかけたんだよ。真犯人に対して、貴方が犯人だ!って告げるより、元より犯人に仕立て上げようとしてた中原が犯人だと思うんです。って告げる方が相手の警戒を緩めやすい。案の定、夏目はありもしない証拠を捏造してこちらに肩入れしてくれただろう?お陰で、夏目の家のセキュリティもそう硬く無くて助かった。」 「それもですよ。証拠の針の箱は小林さんに探させたんですか?僕には一言も教えてくれなかったのに?」 「危険な目に合わせたくなかったんだよ。親心みたいなものさ。もしアテが外れても、君の手が汚れて居なければ君は助かるだろう。」 「くっ・・・。」  結局何も言い返せない僕は、ただ悔しいばかりだった。  僕は最後まで蚊帳の外だった。  モヤモヤする。  解ってるけど!モヤモヤする。  親心とか言ってくれるよね、全く。  そんなの切り札に使われたら、こっちも言いたい事まだまだ沢山あるのに何も言えなくなるじゃん。  腹黒鬼悪魔吸血鬼め。好きだよ畜生。勝てない。  僕が仏頂面のまま、モヤモヤを抱え込んで居ると、向こうで一連の会話を聞いていたらしい小林さんが、僕らの会話に加わって来た。 「森殿、太宰殿の事をそんなに責めないであげて下さい。森殿にとって納得行かない事があるのも、私も承知しております。それでも中原を助けて頂きました。太宰殿が暴いて下さらなければ、今頃、死刑判決が下されていた事でしょう。感謝申し上げます。」 「あ、はい。」  小林さんにまでそんな事を言われてしまっては、僕の立つ瀬は無かった。  僕だって、そんなの解ってるよ。  だけど、なんか、ちょっと、悔しかった、だけじゃん。  小林さんだって危ない橋を渡ったんだし、その人に言われてしまったら、発言権まで無くなるような、そんな苦しさを覚える。  僕だって、何か役に立ちたかったって思うのは、そう思って拗ねるのは、ただの子供の我儘にしかならなくて、それもやっぱり苦しくなった。 「出過ぎた事を申し上げてしまいすみません。ですが側から見ると仲が宜しくて羨ましい限りです。良い父上をお持ちになりましたね。」 「え、あ、有難うございます。」  そっか。  僕等は周りからは、そんな親子に見えるのか。  褒められて嫌な気分はしないものの、というかちょっと嬉しさすら感じるものの、でも、やっぱりそれも複雑で。  良いカモフラージュになる事も解ってはいる、んだけど。 「太宰殿、改めてお礼申し上げます。中原を助けて頂き有難うございました。」  小林さんが隣に居る先生に声を掛ける。 「いえ、別に当然の事をしたまでですよ。お気遣いなく。」  先生の返答は酷くあっさりしていて素っ気ないものだった。  うーん、ていうか、小林さんがこんなに気を使うのはちょっと変だな。  秘書ってそういうものかもしれないけれど。  でも、それでも、流石にこの件は中原老中が直接お礼を言うべきなんじゃ無いだろうか?  そういえば、まだ中原老中と先生が会話をして居るところを一度も見てはいなかった。 「すみません。中原が直接お礼を申し上げるところ、私がしゃしゃり出てしまって。」 「いえ、いいんですよ。解ってますから。」  相変わらず先生の返答は素っ気ない。  勿論中原老中が直接言わなければいけないところ、小林さんがお礼を言うのは僕も不思議に思うけど、だからって、先生もそんな素っ気ない素振りをするのもおかしいよ。  って思うのは、何か間違っているのかな?  僕が変なのだろうか?  小林さんもそれを受け入れてしまっているし、よく解らないな。

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