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第176話

176. 「おはよ!元気そうだね!昨日ぶりー!!」  今日も元気なミユキは、いつもの遠くまでよく通る声で僕を捕まえた。 「はよ。今日も滅茶苦茶調子良さそうだね。」 「へへ。わかるー?部活も夏休み終わる一週間前から練習再開したから、喉の調子もバッチリだよ!」 「うん。僕はやっと取り戻せてきたかな。」 「いいじゃん、いいじゃん!あ、アンだ!おはよー!」  ミユキは僕を押し退けると、扉の前に立っていたアンを捕まえて、そのまま教室に引き摺り込んできた。 「おはようございます。今日も元気ですね。」 「へっへー。今日も絶好調だよ!アンも良さそう何より。」 「そうですね。それなりに良い感じです。」 「そういえば、前から思ってたんだけど、調子良いっていえば、アンのお肌っていっつも滑らかピッカピカだよね。」  そう言うと、ミユキはアンの手を取って、そのまま腕まで撫で始めた。 「ミユキさん?」  アンはビックリしたまま、その場で硬直している。  そんな様子を気にも止めずに、ミユキは手を上下に移動させている。 「うわ、やっぱすっごい。思った通り、スベッスベのもっちもちじゃん。ボディクリーム何使ってるの?」 「え?いえ、別に特別な事は何も。」 「嘘だー。同じ人類とは思えない。絶対何か秘密がある。オーシもそう思うよね?」 「へ?」  突然僕に話を振られて、言葉を詰まらせる。  男の僕をいきなり女子トークの引き合いに出すなよ。  返答に困る、っていうか、本当の事なんて言えないし、かといって下手な事も言えないし、言おうものなら、後でこってりアンに絞られるのは目に見えてるしさぁ。  この場合何て返答するのが正解なのか、まるで解らないんですが。  そんな事を考えてじっとしていると、再びミユキに突っ込まれる。 「え、うわぁ。おーし、凝視し過ぎでしょ。エローい。」 「はい?!」 「いやもう、絶対ヤラシー目で見てたよね。アン気をつけなよ?」 「え?は、はぁ。」  いや、ちょっと待って!  何でそうなった?  完全に濡れ衣なんですが。 「いやいやいや、ちょっと待って、なんで僕そんなあらぬ嫌疑をかけられてるの?」 「なんでって、何で?そんなの決まってるじゃん。DKの頭の中なんてさ。99%ピンクでしょ?」 「いやいやいや、待って!それ、酷い偏見だから!少なくとも僕は違うから!」 「出たな!ムッツリ怪人。皆はそうかもしれないけれど、僕は違います的な程を装った、卑怯極まり無い極悪非道な友人A!目に海苔入り!」 「何それ?!いや、本当に何も考えてないからね?!」 「ほほーん?こんな可愛い彼女が居るのに?その彼女を前にして少しもやましい気持ちを抱かないと?それって逆に失礼じゃなくて?」 「えっ、いやあの、全くとも言って無いと・・・いうか?」 「やっらしー。やっぱ、オーシはムッツリじゃん。アン、ケダモノには気をつけよ?」 「はい。肝に命じます。」 「なんで?!」  僕には誰も味方が居ないのか!  アンまで、否定してくれないとかちょっと酷くない?  っていうか、心なしかアンがジト目でこちらを見てくるような気がするんですが。  いいように玩具にしやがって、くっ・・・。  朝から僕のHPは擦り切れる寸前です。  誰か助けてくれ。 「えー、何々?オーシがムッツリだって?」  突然背後からがっと肩を掴まれ腕を回され、体重をかけられた。 「その話、く・わ・し・く。」 「えっ、ちょ、吉丘まで酷くない?何で煽るの?!」 「ん?楽しいから!まぁ、いーじゃん。だってお前、アンちゃんのハートを射止めて全男子生徒の敵なんだぞー?」  くっ、し、かたない。  こんなに早くに公表する事になるとは思わなかったけれど、時期が早いか遅いかで、同じ事だ。  僕は一呼吸置くと、一思いに吐き出してゆく。 「いや、その節は本当皆に謝りたい。が、しかしだ。ここで重大発表があります。僕、森王子は夏休み中に坂口安子さんにフられました。だから今は皆のアンです。平等です。」 「えっ?」 「えっっ!」 「「「えっ?!」」」 「マジかよ。」 「マジです。」  僕は一斉に人混みの渦の中に飲まれてゆく。  掻き消されて見えなくなる前に、チラリと垣間見えたミユキの顔は、口を半分開けて目を丸くし、ポカンとしていた。 「え、オーシ。マジ話?」 「マジ。マジです。もう僕、彼氏じゃないです。」 「うっは。マジかー。でもま、高嶺の花に原人オーシなんかが釣り合うわけないっていうか、うん。お疲れ。」 「サラッと酷いな!」 「いーじゃん。俺達は仲間だ。おかえりドーテーくん。」 「だから、お前らヒドいな!」 「いや、オーシにしては頑張ったと思うよ?寧ろ大金星だろ。一番最初に告白して、玉砕せずにOK貰えたことだけでも奇跡だもんなー。その無謀で無計画な心意気と行動力だけは褒めて遣わす。ぅおらーっ!野郎ども今宵は宴じゃー!祝杯を挙げよー!」 「誰か、慰めるとか無いのかよっ!」  僕の二学期は、こうして騒がしく幕を開けた。  何で味方が一人もいないのかは、全くもって謎極まり無いです。

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