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八月第三週③ ※※

 旧暦七月十五日。盆の送りの日だ。朝から、親類縁者の人達が仏壇を拝みにやってくる。亡くなった曾おじいちゃんの弟妹とその子孫、亡くなった曾おばあちゃんの弟妹、島内に住むおじいちゃんの姉弟などだ。もうどうせ覚えられないので、汀はいちいち紹介してくれなかった。    汀もまた、親戚の家を訪問する用事があるらしかった。おばあちゃんの実家である。汀とおばあちゃん、健一さんと嫁の綾子さん、息子の海くん陸くんの六人で行って、線香をあげてくるそうだ。おばあちゃんのお母さん、つまり汀にとっての曾祖母はいまだ健在で、盆と正月には必ず顔を見せに行っているらしい。    汀の曾おばあちゃんがどんな人なのか、興味がないわけがなかったが、部外者が突然押し掛けるわけにもいかず、家長であるおばあちゃんのお兄さんが少々気難しいこともあって、俺は同行を諦めた。    島中が何となく忙しなく、家の中も慌ただしくて落ち着かないまま、一日が終わろうとしていた。大勢詰めかけていた親戚の皆々は、午後の最終便で帰っていった。健一さん家族は残ったものの、昼間まで賑やかだった桃原荘は、数日ぶりの静けさを取り戻していた。    夕ご飯は、重箱に入ったごちそうだった。島の言葉でウサンミといい、お馴染みの豚の三枚肉や魚の天麩羅、蒲鉾や昆布、厚揚げ、煮物などがぎっしりと詰まっている。同じ料理が皿に取り分けられて、仏壇に供えられた。今夜が、ご先祖様と一緒に過ごす最後の日だ。初日から最終日まで、ご先祖様と同じものを食べるのが習わしらしい。    午前0時を回った頃、先祖を送る儀式が始まった。まだ幼稚園生の海くんと陸くんは既に寝てしまっていたから、少ない人数でしめやかに行われた。    まず、家長であるおじいちゃんが線香を供え、島の言葉で拝む。続いて、家族が順番に線香を拝する。ここまでは普通だが、ここからがユニークだ。ウチカビと呼ばれる、黄色い紙に丸い銭形が刻印された、先祖があの世で使うお金とされているものを、仏壇の前でじゃんじゃん燃やすのだ。    水を張って網を敷いた金属のたらいを用意して、その上でウチカビに火をつける。親族が訪問の際に持ってくるので、ウチカビの量はかなり多い。炎の勢いが盛んで、メラメラと火柱が上がったりするが、おじいちゃんは上手く火箸を使って粛々と燃やしていく。    ウチカビがあの世へ送金されると、今度は先祖にお土産を用意しなくてはならない。供えてあった料理や、餅、団子、米、果物、生花、泡盛などを、ウチカビを焚いたたらいにどんどん放り込んでいく。少しもったいない気もするが、こういう風習らしい。    最後に、門前でお見送りをする。お土産でいっぱいになったたらいを供え、線香を灯し、おじいちゃんが島の言葉で拝みを捧げ、家族も手を合わせて拝む。こうして、旧盆の行事は無事終了した。    見送りが終わると、あっという間に仏壇が片付けられる。いつまでも賑やかにしているとご先祖様が後ろ髪を引かれてしまうので、そうならないようにという心遣いらしい。普段使わない灯籠などは戸棚に、果物などは冷蔵庫に仕舞われ、皆が手土産に持ってきた缶詰や菓子などは脇に除けられて、仏間は綺麗さっぱり片付いた。    長いようで短い非日常が終わった。俺は一抹の寂しさを感じつつ、少しほっとした。昨晩までのどんちゃん騒ぎが嘘のように、家の中はひっそりと静まり返っている。宿泊客は相変わらず俺一人で、残った親族も健一さん家族のみ。昨晩のように、汀の部屋を借りる必要はない。俺は今まで通り、床の間の部屋に一人で泊まらせてもらった。       「……岳斗さん」    月影に揺れる汀の姿が、障子紙に映った。   「起きてる? よね?」    汀は、おずおずと障子戸を開ける。昨日着ていたのとは違う、水玉模様のパジャマを着ていた。   「一緒に寝たい。いい?」 「……」 「いい?」 「……お前、昨日ので懲りたんじゃねぇのかよ」 「懲りる? なんで?」    汀は、音を立てないよう慎重に障子を閉め、持ってきた枕を俺の枕と並べて置いた。   「うわバカ、来んな、帰れ」 「だっておれ、昨日のでもっと好きになったもん」 「ひんひん泣いてたくせに、何言ってんだよ」 「泣いてなんかないよぉ」    汀は、まんまと俺の布団に潜り込んだ。横になり、俺の袖を引く。   「ねーぇ、いいでしょ。一緒に寝ようよ。何もしなくていいから」 「バカ、何をするっつーんだよ」    俺は、布団の隅に寄った。その分、汀が隙間を埋める。   「おい、くっつくな」 「いいじゃん。くっつきたい」 「いや、マジで洒落にならねぇから……」    俺は、汀に背を向けた。これ以上密着するのはまずい。実によくない。何がまずいって、とにかく諸々まずい。そう、頭では理解しているのに。汀を冷たく突き放す勇気がほしい。距離が一ミリ詰まるだけで、汀の匂いが百倍濃くなる。微かな息遣いを首筋に感じる。大地が震えるほど、心臓が脈を打つ。   「……岳斗さん……?」 「な――ッ!?」    いきなり、股間を掴まれた。掴まれたというのはつまり、ただ単にそうされたということではなく、知らず知らずのうちに変形していた俺のあそこが、汀の手の中に抱かれていたと、そう言った方が正確であろう。   「が、岳斗さん、これ……」 「……何も言うな。大人しく手を放せ」 「でも……」    状況はますますまずい。こうならないように頑張っていたのに。意識しすぎたのがよくなかったのだろうか。まさかこのタイミングで勃起するなんて。俺の下半身は稀代の大馬鹿野郎だ。   「でも、これ……岳斗さんも、おれと同じ……?」    ぎゅう、と強く握られた。   「! 痛ぇよ」 「ご、ごめん」 「もうちょっと優しく」 「う、うん。わかった……」    何が、もうちょっと優しく、だ。中学生に大人の場所を触らせてはいけないんだ。これはれっきとした犯罪だぞ、と理性が叫ぶ。こんな不健全なことは、一刻も早くやめさせなければいけない。それが大人としての務めだ。分かっている。今ならまだ間に合う。まだ引き返せる。まだ……  しかし、“まだ”が“もう”に変わるのに、大した時間は要しなかった。   「が、岳斗さんのここ、なんか、すごい……」    汀は、興奮したように瞳孔を開き、目を爛々輝かせて、俺の上に圧し掛かってきた。昨晩俺がしたのを真似て、けれどもずっと稚拙な手付きで、俺のそこを掌で擦る。   「ね、ねぇ、これでいいの? 痛くない?」 「……ああ」 「ね、ねぇ……なんか、どんどん……」    どんどん硬くなっていると言いたいのか、濡れてきていると言いたいのか。情けないことに、どちらも正解である。汀の声は困惑そのものだったが、小さい手は俺のそこに張り付いたまま離れていかなかった。   「な、なんか……なんか、おれ……」    汀の声は、何やら憐れなくらい、変な調子で上擦っている。   「ど、どうしよう、おれ……なんか、変……かも……」    汀は、自分の股の間を突然両手で押さえると、力が入らないといった具合に、ぺたんと尻をついて座り込んでしまった。   「ど、どうしよう、岳斗さん……」    酷く戸惑い、涙目で訴えかける。俺は、汀と向かい合うように座り、崩した脚の間に汀を座らせた。あんまり距離が近いので、それこそ唇がぶつかりそうに近いので、汀はぎょっとして身を引いた。   「あ、なに……」 「いいから。ちょっと腰浮かせ」    俺は、汀の下着をズボンごとずり下ろした。汀は咄嗟にそこを隠したが、俺はそれを視界から追い出し、左手で汀を抱き寄せた。そして、右手で自身の下着をずらして、浅ましい欲の塊を引きずり出した。   「な、なに? なにするの?」 「昨日の続き」 「つづき? 続きがあったの?」 「静かにしてろよ」 「う、うん……」    汀の腰を抱いて引き寄せる。熱源が、限界ぎりぎりまで近付いて――とうとう、触れてしまった。一番敏感な場所で、一番敏感な場所に、触れてしまった。汀は、ビクッと体を強張らせた。   「やッ……」 「声出すなよ」 「あ、で、でも……」 「いいから、もっとこっち来い」    俺は胡坐を掻いて、膝の上に汀を跨らせた。すると、否応なくあそこが密着する。   「ぁ、あ、つい……」 「暑いか」 「ぅ、ん……岳斗さんの、あつい……」 「……お前のも熱いよ」    汀のそれは、至極滑らかで柔らかかった。毛の一本も生えておらず、つるつるぷるぷるしていて、まさに子供のそれという感じがして、俺は後ろ暗い興奮を覚えた。   「俺の服、噛んでいいからな」    俺は、我慢汁でベタベタになった自分のものと、汀のそれとをまとめて握り、擦り合わせるようにして扱いた。汀は目を剥いて、「あっ!」と叫びかけたものの、俺の肩に顔を埋めて凌いだ。袖が、汀の唾液にじっとりと濡れていく。いくら声を抑えようとしても、微かに息が漏れる。汀は、その吐息すらも押し殺そうと、必死になって藻掻く。   「っ、ふ……ぐ……ぅ、ん……」    我慢されればされるほど、声を聞きたくなるのが男の性というものだ。俺は、廊下を隔てた向こうの部屋に他人が寝ていることも忘れて、汀を責め立てた。   「やッ……だめ、ゃ、んん゛……」    汀が全身で俺にしがみついてくるので、最早俺が汀を抱き支えてやる必要もなく、両手を自由に使って敏感な場所を刺激してやった。尖端を撫でると涙を流して悦び、裏筋同士を擦り合わせれば、いやいやと首を振って善がる。何をしても、甘い吐息が俺の首筋を掠めていく。俺自身もますます昂って、もう後戻りできない段階まで来ていた。   「が、くとさッ……も、やだ、これ……きもちいの、やだぁ……っ」 「……俺もだよ」 「ふぇ?」 「俺も、お前と同じだよ」    どういうこと? と汀の目が訴える前に、俺はその唇を塞いだ。汀は、一際激しく腰を震わせた。右手が、二人分の温かい液体に濡れた。    唇を離すと、汀は過呼吸気味に息を吸い、後ろ向きにばたりと倒れた。親指大のあれが白い粘液に塗れているのがちらりと見え、俺は目を逸らした。急いでティッシュを取って、両手を拭き、下腹部を拭き、パンツを履いた。汀はまだぐったりとして、息を弾ませている。   「……おい、大丈夫か?」 「ん……うん……」    全く大丈夫そうではない。   「そのままだと、風邪引くぞ……?」    俺はそっと近付いて、汚れたところをさっと拭いてやった。すると、汀は大袈裟に体を跳ねさせる。   「いやっ……!」 「な、何だよ、騒ぐなよ」 「……まだ、気持ちいの残ってるから、いや……」    羽化したての蝶の翅のように、汀の体は敏感で繊細だ。   「……パンツくらい自分で履けよな」 「ん……」    そう答えた汀だが、タオルケットを巻き込んで体を丸め、すっかり寝る姿勢に入っている。俺ももう諦めて、汀が寝入った頃を見計らい、下着とズボンを履かせて布団を掛けた。

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