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九月第四週①-① ※※
待ち望んだ週末がやってきた。台風前から数えて六日間も欠航していたフェリーが運航を再開したおかげで、桃原荘の客足も通常通りに戻った。
「岳斗さーん」
宿の雑用を終え、食堂で軽く昼食をとっていたら、以前買ってあげた麦わら帽子を被って、汀がひょっこりと顔を出した。上は臙脂のタンクトップ、下はネイビーのショートパンツを履いている。
「今日、海に行くって約束だったじゃん」
いつになったら出かけるの、とでも言いたげだ。もう準備万端なのにいつまで待たせるつもりなのか、と。きっと、休日に家族サービスを求められるお父さんも、妻子から同じことを言われているのだろう。
「ああ、行くか」
「うん!」
海といえばいつもはニシの浜だが――近いし泳げるので――、今日は観光客も地元民も滅多に来ない閑静なプライベートビーチに行きたい。リゾート開発されていないこの島に、そんな都合のいい場所があっただろうか。
あった。集落から遠く、港からも遠い、島の最南端に位置する、崖の下の小さな砂浜。集落を離れ、サトウキビ畑の間を縫い、鬱蒼と茂った草藪を抜け、さらに断崖を下りなければ辿り着けない。わざわざこんなところまで足を運ぶのは余程の物好きか、こそこそと人目を忍ぶ必要のある者だけだろう。
崖の下のビーチは、満潮が近いのか、前回来た時よりも狭くなっていた。猫の額ならぬ、赤ちゃん猫の額といったところか。背後にそびえる断崖の迫力と、足が沈み込むふかふかの白砂は、以前と変わらずそこにあった。紺碧の空と純白の雲の共演は素晴らしいし、視界を覆い尽くすロイヤルブルーの海は溜め息が出るほど美しい。
汀は早速島草履を脱ぎ、海に飛び込んだ。珊瑚礁より手前の浅瀬は、砂の白を照り返して鮮やかなミントグリーンに輝く。キラキラ揺らめく波の模様が、汀の太腿に反射する。麦わら帽子の白いレースが、潮風に翻る。思わず息を呑むほどに、一枚の絵として完成しすぎていた。
「……遊泳禁止じゃなかったっけ」
「ちょっとだけだからいいの! 冷たくて気持ちいいよ」
膝まで濡らして、汀は笑う。両手で海水を掬って空に振り撒くと、雫が煌めいて儚く消える虹を作る。
「岳斗さんも、こっち来て!」
差し伸べられた手を、俺は逆に引き寄せた。バランスを崩した汀を抱きとめて、そのまましばらく波の音を聞く。汀が身動ぎ、顔を上げると目が合って、気恥ずかしさを覚えた。汗の匂いが、潮風と混ざって香る。
「岳斗さん……?」
誘うように薄く開いた淡い桃色の唇に、目が眩んだ。触れると吸い付いてきて、俺の入るのを待っているように思えた。
優しく舌を差し入れる。汀は、俺の背中に腕を回してしっかりとしがみつく。白砂を踏みしめてつま先立ちになり、顎を上向かせて口を開けて、まるで餌をねだる雛鳥のように一生懸命だ。
「んぅ……ふっ……ん、ン……」
上顎を撫ぜ、反った背中を撫でて腰を抱く。柔らかい波が足下を濡らして、包んで、また海へと返っていく。
「ん……はぁ……」
口を離すと、真っ赤な肉片がちらりと覗いて、銀の糸を引いた。汀は頬を上気させ、瞳にはうっすらと涙の膜が張っている。
「……するの?」
「お前、言うようになったな」
「えー、なにが?」
汀は、くすくす笑ってはぐらかす。俺も曖昧な返事をして、汀のショートパンツに右手を突っ込んだ。「ひゃっ」と可愛い声を上げ、汀は俺の首に腕を巻き付けて抱きついた。
「やだぁ。岳斗さんのえっち」
「男はみんなスケベなんだよ。お前こそ、なんでノーパンなの」
「え? だって、水着だし」
確かに、俺もサーフパンツの下は何も履いていないのだが、汀が履いていないとなると事情が変わってくる。布一枚を隔てただけの状態で、自転車のサドルに跨っていたというのか。あまりに無防備すぎる。この、焼きたてのクリームパンのように小ぶりで可愛らしい尻が、水着の隙間からちらりとでも見えてしまったらどうするつもりだ。
「……なに?」
「いや、何でも」
左手もショートパンツに突っ込んで、両手で双丘を撫でた。じっとりと汗ばんでいるが、もちろん不快感なんてない。むしろ、汗のおかげで触り心地がより滑らかになってさえいる。双丘を掴んで互い違いに揺らし、マッサージをするように揉みしだくと、汀は一層強く抱きついた。恥ずかしそうに顔を伏せて、体を密着させる。
「ん、ん……っ」
「声、我慢しないでいいんだぞ。誰も聞いてない」
「でも……」
汀は唇を噛み、首を振る。
「はずかしい。明るくて……」
じんわりと汗が噴き出して、俺の掌を濡らした。
「恥ずかしいか」
「ん……はずかしい」
「明るいから?」
「外だし……丸見えになっちゃう……」
また、汗がどっと垂れてきた。ぬるぬると滑る。
「そのために外でしてんだろ」
「ぇ? あっ……!」
双丘を割り開いて、その谷間に指を這わせた。濡れた指でそっと撫でると、汀はいやいやと尻を振った。
「お前それ、悦んでるようにしか見えねぇからな。気を付けろよ」
「そ、そんなんじゃ……」
つぷ、と中指の先を埋める。汀は、ビクッと体を強張らせ、脚を突っ張った。尻の筋肉も緊張して、少し硬い。
「もうちょい力抜いてみな」
「ん、……ち、力いれてない、けど……」
脚を開かせると、指が入れやすくなった。浅いところを慎重に抜き挿ししていると、内側も外側もだんだん解れて、柔らかくなってくる。それどころか、汀は更なる刺激を求めてか、自らゆらゆらと腰を揺らめかせ始めた。
瞼をきつく閉じ、俺の胸に全体重を預けてもたれながら、カクンカクンと腰を動かす。ただ、脚に力が入らず、膝も笑ってしまっていて、思うようには動けていないようだった。立っているのも辛そうで、俺に掴まっていなければすぐにでもへたり込んでしまいそうなのに、それでも健気に腰を振る。
「んっ、ぁんっ……がくと、さん……ッ」
「うん、気持ちいいな」
「ふぁ……んん、ぅんっ……」
俺も、汀の頽れそうな体を抱き支え、無理やり立たせて愛撫した。くちゅくちゅと音がしてきそうなくらい濡れているけれども、残念ながら波の音に掻き消されて聞こえない。あえかに漏れる吐息と、胸に押し付けられる頬の感触だけが、やけに鮮明だった。
「一回イッとくか?」
一応訊いてみると、汀は黙って首を振った
「あっち……」
汀が指差したのは、砂浜の隅にある岩場だ。ちょうど陰になっていて、太陽の真下よりはいくらか暗い。とはいえ、真昼の屋外であることには変わりなく、家の中よりはずっとずっと明るいだろう。
「あっちがいいのか」
縋るようにこくこく頷きながらも、誘うような腰付きは止まらない。俺は、ショートパンツを一気に膝までずり下ろした。小麦色の艶やかな下腹部が、鼠径部が、太腿が、白日の下に晒される。とろ、と透明な露が糸を引いて、汀の頬に紅が差した。
「やっ……」
「もうこんなにして、やらしいの」
「い、言わないでよぉ……」
俺は波の上に膝をついて、今度は前から、汀の蕾に指を埋めた。中指に人差し指を添えたが、何の抵抗もなく呑み込まれた。汀は膝をガクガク震わせて、掴まるところを探すように両手を彷徨わせる。俺はその手を取って、自身の頭上へ導いた。肩でもよかったが、高さ的に頭の方がちょうどよかった。汀は、俺の短い髪に指を絡める。
「一回イッとけ、な」
お腹側にある小豆のような膨らみをぐりぐり擦ると、汀はもう堪らないという風に腰をくねらせた。踏ん張っていなければ、今にも全身が崩れ落ちてしまいそうだ。必然的にガニ股になって腰をグラインドさせるのだが、その姿は目眩がするほどいやらしい。
「ぁんッ……! ぁ、あっ、んぁ……っ! や、っだ、だめぇっ……」
だんだん、腰が落ちてくる。腰が落ちるほど指が深く入るという好循環。俺は思い切って薬指を追加し、三本の指をばらばらに動かした。「きゃあっ!」と汀は悲鳴を上げて、髪を振り乱す。拍子に、帽子がふわりと浮かんで脱げて、俺は咄嗟にそれを掴んだ。
「んぁぁあッ……! も、だめ、ほんとに、だめぇ……っ」
切迫した声が、波に乗って響く。もう腰を揺らすこともできないようで、汀はただ太腿を小刻みに痙攣させた。俺の指に吸い付く果肉もまた、小刻みに痙攣している。俺の目の前で揺れる芽もまた――いや、もはや芽などではない。若くて青い、成長中の茎だ。――小刻みに痙攣して、物欲しげに露を零す。俺は、それをぱくりと頬張った。
「ッッ――!!」
汀が目を剥く。かと思えば、若い茎が爆ぜた。口の中で膨らんで、パンと弾けた。甘くて苦い蜜が、俺の口腔を満たす。
汀は、完全に腰が抜けてしまったらしかった。自立できる力が残っているわけもなく、ぐったりと脱力して、俺にもたれ掛かってくる。俺は、その弛緩した体を持ち上げて、お姫様抱っこで抱き上げた。距離の近くなった口を塞ぎ、甘苦い蜜を流し込むと、汀はまた別の意味で目を剥き、海に向かって吐き出した。
「ぷぁ……なに、いまの……」
「お前が出したやつ」
「うそぉ……おれ、あんな……?」
「不味くないだろ」
「んぇ……まずいよぉ」
しかめ面で舌を出す汀を、お姫様抱っこのまま波打ち際まで運んだ。
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