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九月第四週①-② ※※※
足首を波がくすぐる砂の上へ、丁寧に汀を寝かせた。どんなに高級なベッドも敵わない、ふかふかと柔らかくてどこまでも広い、最高に贅沢な寝床だ。脱げてしまった麦わら帽子を、波に攫われない場所へと放り投げ、足首に引っ掛かっていた水着を抜き去り、タンクトップも丸めて放った。一糸纏わぬ裸体が、真夏の真昼の太陽の下で、隅々まで惜しげもなく照らし出される。
汗の滲む、小麦色の肌。なだらかにくびれた腰。浅く窪んだおへそ。薄い胸に、ちょこんと乗った淡い色。まるで細い絵筆で描いたような、二つの突起。汀は、もじもじと膝をすり合わせ、体を隠すように自分自身を抱きしめた。俺はすかさずその手首を掴み、地べたに縫い付ける。
「ちゃんと見せろよ」
「っ……はずかしいよ……」
汀は、顔を背けて目を伏せた。首筋を汗の玉が流れて、俺はそれを舐め取った。潮風の味がした。首筋から鎖骨、そして肩口へと、汗ばむ肌を滑るように唇を這わせると、汀はくすぐったそうに身動ぎをする。やっぱり、潮の香りがした。
「しょっぱい」
「あ、汗でしょ、もう……舐めないでよぉ」
「でも、不味くねぇよ」
「やぁだぁ」
腕を掴んで万歳させると、腋の下が剥き出しになる。胸元や肩と比べると蒸れていて、舌を這わせるとより濃厚な味がした。さすがの汀も羞恥を抑えられなかったと見え、俺の手を外そうとして暴れる。が、そんな些細な抵抗は抵抗のうちに入らない。俺は汀を押さえ込んで、もう片方の腋も舐めた。腋の窪みを下から上へ舐め上げると、汗が滲み出してくる。
「すげぇ汗。暑いな?」
「あたりまえ……く、くすぐったいし」
「くすぐったいとこは性感帯だって、前も言っただろ」
「で、でも……そんなとこ、汚いんじゃ……」
「んなわけあるかよ」
湧水のように溢れる汗は、まるで媚薬のように俺に効いた。腋を舐めるなどというアブノーマルな趣味は元々持っていなかったのに、芳醇な香りに惹かれてやめられない。汀の汗だか俺の唾液だかよく分からない液体に塗れ、腋の下も胸の付け根もべとべとになってしまった。
ふと目が行くのは、薄い胸にちょこんと乗ったサクランボ。全然触れていないのに、既にぷっくりと膨らみかけている。まだ生り始めのように繊細で、愛らしく、大切に世話をしてやらなくてはと思わせるようなささやかさだ。俺は、小さなそれをそっと舌にのせた。
「ふぁ……」
ピク、と汀は体を揺らす。舌先をゆっくりと這わせ、優しく突ついてやると、さらに丸く、固く膨らんでくる。なんだか、小粒の飴玉を舐めているような感覚だ。くすぐるように表面をなぞれば、汀は悩ましげな声を漏らし、胸を突き出した。
もう一方の乳首にもゆっくりと舌を這わせ、口に含んで吸い付いた。汀は、ビクッと腰を跳ねさせる。サイズはうんと小ぶりだけれども、舌触りはまさしくサクランボのそれで、甘噛みすると程よい弾力が返ってきた。
「やッ……ん、んぅ……っ」
一方を舐めつつ、もう一方を手で愛撫する。胸全体を――といっても質量のない胸だが――掌に包んで揉みながら、指先で尖端をくりくり擦る。口内を真空にして乳輪ごと吸い上げて、舌先で尖端をころころ弄ぶ。軽く押し潰してみても、ハリがあるのでツンと跳ね返る。唾液と汗でぬるぬる滑り、それが一層性感を高めていった。汀は、自由になった左手で縋るように俺の腕を掴む。
「ひっ、あ、んぁぁ……! き、きもち、がくとさんっ……!」
「乳首、気持ちいいな」
「んっ、ぅんっ……ちくび、きもちいいっ……! んっ、んも、イッちゃ……、ぁ、い、イッちゃいそ……!」
つま先は白砂を掴んで引っ掻き回し、太腿は小刻みに痙攣していたが、俺がぱっと手を放すと、汀は全身を震わせて砂に沈んだ。息を切らして、恨めしそうに俺を見る。
「そんなに睨むな」
「……いけそうだったのに……!」
「でも、せっかくならナカでイキたいだろ」
「ぁ、んん……」
腰を撫でるだけで、ぶるりと震える。膝裏を持ち上げて脚をM字に開かせると、秘められた果実が白日の下へと曝け出された。一切隠すものはない。何もかもが詳らかに、俺の知るところとなる。魅惑の窄まりを指で押し広げてみると、イチジクの果肉のようなのが中でヒクヒク引き攣れた。
「ぁ、あんまり見ちゃ、やだぁ……」
汀は羞恥から顔を覆うが、脚は大胆に開いたままだ。まるで、もっと見てくれと言わんばかりに。
俺はシャツとサーフパンツを脱ぎ捨てて、リュックのポケットから必要なものを取り出した。透き通った青い海には似合わない、人工的などぎついピンクの薄皮を、猛り狂った己に被せる。潤滑ゼリーをチューブから押し出し、果実にぶっかけて塗り込むと、ただでさえ潤んでいたそこは大洪水の様相を呈する。
一瞬見つめ合い、汀の手を握って指を絡めた。瞼や頬、唇にキスをして、ゆっくりと腰を進める。
「あっ……!」
切っ先が触れ、ほんの僅かに埋まっただけで、汀はくねくねと身を捩り、地べたに背中を擦り付けた。
「んぁ……っ! あ、あぁっ……は、はいっ、て、……くっ!」
「あんまし暴れんな」
「だ、って……おっきいからっ……」
「苦しい?」
「ちが……っ、き、きもち、いいっ……!」
つい、大きくしてしまった。汀は苦しげに喘ぎながら悦びの涙を流し、俺が終点まで辿り着くと、中をキツく締めて白い蜜を飛ばした。
「ゃ、ふぁ、っ……、ッい、イッちゃ、た……」
腹にべったりとついた薄く濁った粘液が、小麦色の肌に映える。指に取ってみれば、精液であることは明白だ。恥ずかしそうに皮を被ったままの、穢れを知らないあどけない茎から、成長した雄の証たる精液が飛び出したのだった。
「なのに、挿れられただけでイクなんてな」
海水を掬って、汀のお腹を洗い流した。茎の付け根まで丁寧に流すと、汀はいやいやと尻を揺らす。
「なに、そんなに奥がいいの」
「おく……?」
「ほら、ここ」
「っ!!」
俺はまだ三分の一ほど入れていないが、汀にとっては紛れもなく奥だ。ぐりぐりと押し込むようにすると、汀は両足をバタつかせて波を蹴った。
「~~~ッ!! やっ、やだやだぁっ、おくいやっっ」
「じゃあ、こっち?」
腹側の浅瀬にある性感帯を、雁首の段差で押し潰すように擦る。汀はブリッジのように腰を仰け反らせ、高く悲鳴を響かせた。
「ひぃゃぁっ……! あっ、ぁんっ、だめ、だめぇ、そこもだめっ、だめだからっっ……!」
だめと言うのに、果肉は嬉しそうに収縮して吸い付いてくる。奥へと誘うように蠢くが、俺はあえて浅いところだけで抜き挿しを繰り返した。
「もう一回くらいイけそう?」
「やッ……! もぉ、やぁぁっ! きもちいの、やだっっ!」
「でも、好きなんだろ、ここ。気持ちいいな」
「やぁあんっっ!」
まるで囚われたタコのように、手足も胴もぐにゃぐにゃさせて身悶える。汗に塗れ、砂に塗れて、波を蹴散らす。かぶりを振れば、汗なのか海水なのか分からないが、濡れた毛先から水滴がキラキラ飛び散る。やがて激しく腰を跳ね上げて、ビクンビクンと何度か跳ねて、果てた。
か細く震える青い茎から、ほとんど水のように薄まった粘液がとろとろと溢れ、汀の下腹に小さな水溜まりを作った。水溜まりはすぐに決壊して滑り落ち、波に攫われて流れていった。熟れた果肉は余韻に打ち震え、絶対に離すまいと纏わり付いてくる。
汀は放心状態で激しく胸を喘がせていたが、俺が唇を寄せると、力の入らない腕をどうにか持ち上げて抱きついてきた。まだ息が整わないのに、鼻を鳴らして舌を吸う。俺は、汀の弛緩した体をしっかりと抱き、そのまま勢いよく抱え上げた。
「ふぁっ?! へ? あぇ……」
汀は目を白黒させながら、俺の腰に脚を絡ませて抱きついた。所謂駅弁の体勢だ。自重によって結合部が沈み、奥を突き破ってしまいそうになる。それに気付いた汀は、俺に抱きついたまま力なく藻掻いた。
「あっっ!? あっや、やだ、やっこれ、やだぁっ……!」
「大丈夫だから、しっかり掴まってろ」
汀は慄きながらも、振り落とされないよう必死にしがみついた。海に入り、体を沈めると、浮力が働いていくらか楽になる。胸の高さまで波が来て、火照った体を優しく冷ました。
「冷たくて、気持ちいいな」
「ん、ん……」
「もう苦しくないだろ? まだ怖い?」
「んーん」
汀は、もう振り落とされる心配はないのに、朝顔の蔓のように手足を絡み付かせてしがみついた。一滴の水すら入り込めないほど、下から上まで全身がぴったりと吸着する。
「……すき」
吐息混じりの甘い声が、俺の心臓を揺らす。繋がったまま、ゆりかごのように寄せる波に、しばらくの間身を任せた。
濡れた肌が、触れて擦れ合う。互いの境界が曖昧になる。そもそも、そんなものがあったのかどうかさえあやふやだ。むしろ、ない方がいい。体だけでなく意識まで溶け出して、水平線の彼方へと消えていく。もうじき、潮が満ちる。
大きく成長した入道雲が、もくもくと上空へ昇っていく。俺達は、岩場の陰で寄り添って横になり、そよぐ潮風に濡れた体を乾かしていた。
「あっ……ハートの岩」
浅瀬に佇む逆三角形の奇岩に目をやり、汀が言った。ずっとそこにあったはずなのに、今まで全く目に入らなかった。
「そんだけ夢中だったってことか……」
「何が?」
「いや……そういや、お前が前に話してた、琉球の王子と恋に落ちた村娘も、ここで愛を誓い合ったりしたのかね。あの、変な形の岩でも見ながらさ」
「変じゃなくて、ハートだよ。その話、覚えてたんだ」
「そりゃ覚えてるだろ。何だよ、にやにやして」
「だって、覚えててくれたの、嬉しいなって」
汀は俺の腕に枕して、小さな頭をぐいぐい押し付けた。潮と汗でベタつく髪を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「でもさぁ、王子様も酷いよね。子供までできたのに、国に帰っちゃうなんてさ。置いてきぼりにされた娘が可哀想だよ」
「まぁ、王子様にも事情があったんだろ。禁断の恋なんて、なかなかうまくいかないもんだし」
「実は、伝説には続きがあってね。王子に棄てられた娘は、結局死んじゃうんだよ。食べ物も喉を通らないほど泣き続けて衰弱死したとか、悲しみのあまりに身を投げたとか、いろいろ説はあるんだけどね」
汀の指の先に、険しく切り立った崖が見える。鋭い岩盤が海に迫り出しており、飛び降りれば確実に命はないだろう。
「……なんか、お前が教えてくれる話って、いつも悲しい伝説ばっかだよな」
「あ、娘の幽霊が出たって噂は聞かないから、安心していいよ」
「バッッカ、別に怖がってねぇから。大人をあんまり揶揄うなよな」
俺は腕枕を外して、にやにやとふざけた笑みを浮かべる汀の、細い脇腹をこちょこちょくすぐった。
「きゃーっ! あはっ、あははっ、やぁだぁーっ、岳斗さんのえっちー」
「何がえっちだ、このっ」
汀は砂の上ですじりもじりしながら、きゃらきゃらと笑い転げた。甲高い笑い声が浜辺に響き、波に吸い込まれて煌めいた。
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