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九月第四週② ※※※
宿のミニバンを借り、お客さんを何人か連れて、南の岬まで星を見に行った。夜といってもまだ宵の口で、血のように真っ赤な三日月が、遠い南西の水平線に沈みゆくところだった。そのすぐそばにはさそりの火が光っていて、90度見上げると、織女星と牽牛星と北十字が、壮大な三角形を描いていた。白い雲のような明るい光と、瞬く無数の星々から成る天の川が、天空を横切って海に流れ落ちていた。
「ほんっとにキレイ! 汀ちゃん、教えてくれてありがとね」
「やっぱり、こういう場所は地元の子が一番詳しいのよね。ほんと、来れてよかったわぁ」
「……別に……」
女性客が嬉しそうにお礼を言うが、汀は素っ気ない。そっぽを向いて、たたっと俺の元へ駆け寄ってくる。満天の星に皆の目が釘付けになっているのをいいことに、汀は俺の腰に纏わり付いた。何やら不満そうに頬を膨らませている。
「何怒ってんだよ。星見に行きたいって、お前が言い出したんだろ?」
「そうだけど……」
「なに、想像と違ったとか?」
「……」
汀は、抱きついたまま俯いて、空を見ようともしない。肉眼で見える限界の明るさの星まで光っている、ありったけの輝きを散りばめたような美しい星空なのに。都会では絶対に、いや、並みの田舎であっても、ここまでたくさんの星を一度に味わうことは叶わないだろう。唯一無二の星景色だ。一時間ほど堪能して、宿に帰った。
布団を敷いていると、汀がそっと障子を開けた。なかなか部屋に入ってこないで、じっとこちらを見つめてくる。
「もう電気消すから、早く来いよ。今日はちょっと遅くなっちゃったな」
呼んでも、汀は動かない。よく見ると、いつも抱きしめているはずの枕がなく、服装もパジャマではない。さっき星を見に行った時に着ていたタンクトップに、薄手のパーカーを羽織っていた。
「……どっか出かけるのか?」
汀はこくりと頷いた。
足音を忍ばせてこっそりと家を抜け出し、納屋から自転車を引っ張り出して、二人乗りで漕ぎ出した。自転車のライトだけを頼りに、息を殺して集落を抜けると、満天の星が降ってくる。荷台に跨る汀が思い切り抱きついてくるので、少しハンドルが乱れた。
「こら、あんまくっつくなよ。危ないだろ」
「……だって……」
まだご機嫌斜めらしい。余計に強く抱きつかれて、背中に頬の柔らかさを感じた。
深淵なる闇は不気味で、まるで黄泉の国へ続く道のようにも思われたが、星影は案外明るく、進むべき道をぼんやりと照らしてくれた。暗いのに明るいとは、妙なことだ。風はなく、世界中が眠りについたような静けさで、果てしなく続くサトウキビ畑もざわめかない。
南の岬は、集落からはかなり離れている。生活の灯りは一切届かず――とはいえ、深夜ともなれば灯りの灯っている家などほとんどないが――星を見るには最適の場所だ。だからこそ、ただいま絶賛閉鎖中の天文台も、この地に建てられたのだろう。
自転車を減速させると、まだ停止する前にも係わらず、汀は器用に飛び降りた。夜目が利くのだろうか、夜道を物ともせずに駆けていく。原っぱにごろんと身を投げ出して、その黒い瞳いっぱいに、輝く夜空を映した。
「岳斗さーん、早くぅ、こっちー」
声色からして、機嫌は直ったらしい。自転車のライトを消してしまえば、人工の灯りはゼロになる。短い草を枕にした汀の横顔を、さやかな星影が照らす。
「ねーぇ、早く来てよ」
「はいはい」
俺は汀の隣に腰を下ろした。月はとっくに沈んで、仄かな星明かりだけが暗い世界を照らす。天の川も大分西へ傾いて、海と接していた。光が注いで、水平線がぼんやりと明るい。
「今夜、何かあるのか?」
「何かって?」
「流星群とか」
「さぁ、知らない」
「知らないのかよ」
「何かなくちゃダメ?」
ダメなんてことはない。何もなくても、この空は何物にも代え難いほど美しい。
「おれ、ただ岳斗さんとこうしたかっただけだよ。なのに、お客さんも連れてくなんて、ひどいよ。裏切りだよ」
「そりゃあお前……宿の車借りるんだから、そうなるだろ」
「岳斗さんと二人っきりのつもりで、星見に行こうって言ったのに」
汀は、むすっと唇を尖らす。
「何だよ、やきもちかぁ? 可愛いやつ」
俺は、汀の髪をわしゃわしゃ撫で回した。風呂上がりにしっかり乾かさなかったのか、若干湿っていた。
「そうだよ、やきもち」
てっきり、怒るか照れるかすると思っていたが、汀は素直に認めた。もっと撫でろと言わんばかりに、ぐいっと頭を押し付けてくる。
「子供っぽいって思った?」
「いやぁ、別に普通だろ。むしろ、ちょっとくらい子供っぽい方が、俺は可愛いと思うし」
「えへ、ほんとに?」
「なんで嘘言わなきゃいけないんだよ」
汀の黒髪は本当にさらさらで、撫でていると気持ちがいい。指に絡めると、まるで絹糸のようだ。つむじからうなじまで、丁寧に梳いてやる。
「やだぁ、くすぐったいってばぁ」
「これ好きだろ」
「うん。好き」
汀は身を起こし、もたれるように抱きついてきた。俺も汀を抱きしめた。ゆっくりと汀が目を瞑り、どちらからともなく引き合うように唇が重なる。そこからはもう勢い任せで、汀を膝にのせて抱き、夢中で舌を擦り合わせた。密着し、貪るように唾液を啜る。
「んぁ……ふっ……ん、んん、ぅ……」
キスの合間の息継ぎも、媚びるような鼻声も、上手になった。酸欠気味に「ちょっと待って」なんて、きっともう言ってくれない。ちょっと寂しい。
「やぅ、ふ、んぁぅ、……ちょ、とま、って……っ」
前言撤回。やっぱり、まだ完全には慣れていないらしい。だが、閨での“待って”は“もっと”の意だと心得ている俺は、逃げる汀の腰を抱き寄せ、後頭部を押さえて、ねちっこく口内を舐め回した。
「や、ふぁ……っ、ふ、ん、んぅっ……」
洋菓子職人が手作りした瓶入りの高級プリンのように、原形を留めないほど舌が蕩けた頃を見計らって解放した。仕舞い忘れた小さな舌先から、甘そうなカラメルソースがとろりと零れ落ちる。痺れて感覚を失った舌と同じように、汀はくったりと脱力して俺の胸に倒れ込んだ。
「もっ……やってゆったのに……」
「やだった?」
「ん……くぅしかった」
少し呂律が怪しいが、意味は通じる。
「ごめんごめん。お前が可愛いからさ」
「んも……また……」
「それに、お前のベロ、なんか美味いんだもん」
「っ……い、いみ、わかんないし」
怒ったように呟きながら、満更でもなさそうにはにかむ。俺は汀を四つ這いにさせ、ハーフパンツを脱がした。下着は、尻側にクジラのゆるキャラがプリントされた可愛らしいもので、こちらも手早く脱がした。
「……するの?」
期待を滲ませて、汀が小声で言う。
「んー、まぁ、するための準備をな」
「あ、けど……ぬるぬるのやつ、ないよ?」
「ああ、だから――」
俺の唾液で代用する。暗くてよく見えなかったが、いざ口づけると、まだ青い果実の感触が、唇から伝わった。
「ひぁっっ!?」
驚いた汀が腰を引くので、逃がさないよう両手でしっかりと捕まえた。そして、そっと皮を剥き、実を割り開いて、イチジク然とした果肉に舌を突き入れる。
「やっっ……、ふぁぁん……っ!」
気の抜けるような悲鳴と共に、汀の体から力が抜けた。
「ふぇ、ぁ、えぁ……っな、なに、? ゆ、ゆびぃ……?」
「ちがう」
侵入者の正体を確かめようとしてか、果肉が敏感に収縮する。俺は、ハリのあるまろやかな尻に顔を埋めて、入れるところまでぐっと舌を差し込んだ。
「やっ! ぅ……う、そぉ……き、きたない、きたないよぉっ、やだぁ……っ」
風呂に入ったばかりだから綺麗だと伝えたいが、喋るのさえもったいない。潤み始めた果肉を掻き分けて軽く抜き差ししながら、たっぷりと唾液を送り込み柔らかく解していく。
「やッ……は、やだぁ……んぁ……っ」
汀は、地べたに顔を伏せて、尻だけを高く突き出す。表情は見えないが、吐息混じりに漏れる声が快感を物語っている。ヒクヒクと引き攣れる果肉もまた然り。
「ゃ、あ、こんな……はずかし、のに……っ、がくとさぁんっ……」
口が二つ、いや、三つあればいいのに。むしろいくつあってもいい。そうしたら、キスしながら全身の性感帯を愛してやれるのに。
「あっ、ぁあっだめ、だめっ、そこ、だめぇ、もっとぉ……っ!」
ダメなのかもっとなのかどっちなんだと思いながら、ご要望通りに気持ちいいところを舌先でくりくり擦ってやる。同時に、前で微かに震えている夜露に濡れた茎を、優しく握って擦った。
「やっぁ、んぁ――ッ!!」
その瞬間、とろとろと蜜が溢れ出て、草の上に落ちた。ちゅぽ、と音を立てて舌を抜くと、こちらも蜜が糸を引いて、十分に熟れた果肉が物欲しげに震えていた。俺はすぐさま前を寛げる。が、しかし。ここに装着するべき薄い皮膚が手元にないことに気付いて、躊躇した。
「……がくと、さん……?」
汀が、催促するように尻を振る。涎が出るのを我慢して、俺は言った。
「一旦帰っか」
「ふぇ、なんでぇ……?」
「ゴムがないから……」
「ごむ?」
「いつも使ってるだろ、ピンクの薄いやつ」
「ないとだめなの?」
「後が大変だぞ」
「……でもぉ……」
汀は俺の方へ向き直り、俺の手を握りしめて迫った。上目遣いはズルい。
「いましたいよぉ、いーま! だめぇ?」
「だめっつーか……」
「このままじゃさみしいもん……」
ふに、と控えめに唇が触れる。俺は、もたれかかってくる汀を抱いて、後ろへ倒れ込んだ。汀は一生懸命舌を伸ばして、俺の口を吸う。時々尻が揺れて、臨戦態勢の己を擦るので堪らない。そして、結局のところ俺は、目の前にごちそうをぶら下げられたまま走り続けられるほどの理性的な大人ではなく、欲望のままに汀の腰を掴み、己の腰を突き上げていた。
「ひぁ゛っっ――!!」
「くっ……」
挿れた瞬間、奥の方が締まって痙攣した。
「やっっ、ぁあん……ま、って、まって……!」
「っ……生ですんのは、初めてだからな」
「な、まぁ?」
「あれ着けないで、生身のまますること。あとはいつもと一緒だから、力抜いて、深呼吸しろ。ほら」
落ち着かせようとして腰を優しく叩くと、汀はかえって激しく腰を反らせて喘いだ。奥が不規則に締め付けて、俺も辛い。
「やッ、んぁ、なまやだぁ、あっ……つい、なか、あついよぉ……っ」
「ん、俺も熱い」
「が、がくとさんも?」
「お前ン中、すっげぇ熱いよ。すっげぇ熱くて、すっげぇ気持ちいい」
気持ちいいなんてもんじゃない。熱と熱が混ざり合って、骨の髄まで蕩けそう。汀の微かな息遣いや心音を、取り零すことなく直に感じる。プライドだけで余裕ぶっているが、意識しないと声が裏返りそうだ。たかが0.03ミリ、されど0.03ミリ。薄皮一枚隔てないだけで、こんなにも感じ方が違うとは。
「が、くとさん、も、きもちいの……?」
「当たり前だろ、お前としてるんだから」
切なげに、奥が震えて吸い付いた。潤んだ果肉が蠢いて、あの独特の凸凹とした感触がはっきりと伝わってくる。俺は、舌の上に溜まった唾液を呑み干した。もう、取り繕うことさえままならない。
勢いよく体を起こし、汀を押し倒して覆い被さった。大きく見開かれた黒い瞳に星が煌めくのに、俺はそれを遮って、汀の太腿を掴んで股を開かせて、ひたすらに自身の快楽を追い求めた。
「ぃあっ、あっ、んぁ! ん、まっ、やっ、ま、はやっ……!!」
「悪い……ちょっと、一回……」
汀は苦しそうに悶えて、しかし胎の中はお祝いムードで。今はとにかく上り詰めることしか考えられない。汀が切なげに両手を差し出してくるから、強く抱きしめて夢中でキスをした。上顎を撫で、頬の裏側を撫で、舌の付け根をくすぐると、思いっ切り吸い付かれた。もう限界だった。
「んン゛っ――!!」
「く、……」
自ずと腰が震える。いくら吐き出しても、一滴残らず吸い尽くされそうだ。とりあえず一旦引き抜くと、いまだ痙攣を続ける赤い果実の割れ目から、白い液体がどろりと溢れ出てきた。その光景があまりにもいやらしく、目眩がするほどいやらしくて、たった今達したばかりだというのに、俺はあっという間に復活してしまった。
「へぁ……? ぁ、や、うそ、まだっ……!!」
汀の腕を掴み、弛緩した体を引き上げて膝立ちにさせ、細い腰を掴んで引き寄せて、一息に貫いた。通常のバックではなくて、所謂背面座位と呼ばれるような体勢だ。普通にすると腰の高さが合わなくて挿入すら難しいが、このやり方なら動きやすい。汀に少々無理を強いている自覚はあるが。
みだらな襞肉が、媚びるように絡み付く。俺は堪らず引き抜いて、再び奥まで突き上げた。右手で汀の腰を、左手で汀の腕を掴んで、頽れそうな体を抱き支える。生まれたての小鹿のように、汀は膝をガクガク震わせる。
「んぃ゛、ひっ、いゃっ、あ゛、やだっ、ふかいぃっ……!」
乱暴な律動に合わせて、細く高い悲鳴が星空にこだまする。秋の夜風が涼しいのに汗ばんできてしまい、俺は邪魔なシャツを脱ぎ捨てた。そうなると汀の服も邪魔に思え、パーカーもタンクトップも一纏めにして剥ぎ取った。
艶やかな褐色の肌が、吸い込まれるような闇の中にぼんやりと浮かび上がる。黒々とした髪は闇夜に溶けて、輪郭がぼやける。触れるのさえ躊躇してしまうような神聖さ。思わず、その首筋に齧り付く。
「なぁ……もっと奥、入りてぇ。いい? だめ?」
「んぁ゛、ぅン゛……む、りぃっ……!」
「っ……でもここ、入りそうだけど」
突き当たりの壁をぐりぐり擦ると、汀は喉を反らし、腰を仰け反らせて悶えた。初めてした時には、かなり痛がっていたはずなのに。やはりこの先に、秘められた何かがあるのだろうか。期待は確信へと変わり、俺はひたすら奥を目指して突き続けた。
「だめっ、だめぇ、もぉ、……はいっちゃ、ぁあっっ」
「だいじょうぶ。ほら、気持ちいい気持ちいい」
「あ゛、や゛、……っき、きもちいい……ッ!」
きつく固く閉ざされていた扉が、とうとう開いた。その僅かな隙間を逃さず、俺は真っ先に切っ先を食い込ませた。そうして扉を抉じ開けて、己の全てを捻じ込んだ。
「~~~っっ!!」
扉の向こうは天国だった。旬を迎え、甘い蜜をたっぷりと含んだ果肉が、俺を誘い、迎え入れるように纏わり付く。片時も離れたくないとばかりに、愛らしく震えて吸い付いて、どこまでも俺を求める。
汀は、張り詰めた弓のように全身を痙攣させた。幼い茎から、ぷしゃッ、と何かが噴き出した。ビクビクッと腰が跳ね、胎の中もギュンギュン渦を巻いた。搾り取られる、と思ったのも束の間、俺は再び、欲望の塊を吐き出していた。
「んぁ゛、……あ、つい……なかぁ、……」
汀の声は、酷く掠れていた。それでいて、砂糖を煮詰めたように甘ったるく、耳に残る。苦しげに喘いでいるにも係わらず、恍惚の表情を浮かべて腰をくねらせるその妖艶さに、俺の目は釘付けになる。ほとんど無意識のうちに、腰を打ち付けていた。
ぷちゅ、ぷちゅ、といやらしい水音を立てながら、二回分の白濁液が掻き出されて溢れ出てくる。汀が、赤い舌をちろりと覗かせて、切なげに背後を振り仰ぐので、息も吐かせないほど深い深いキスをした。ねっとりと舌を舐って、涎をだらだら垂れ流して。
「んぅ゛っ、ふ、んン゛っっ」
ぴゅる、ぴゅる、と断続的に、汀はまた透明な液体を噴いた。所謂潮吹きというやつなのだろうか。本物は初めて見た。潮を吹く度に蜜壺がキュンキュン締まり、奥が食むように痙攣するのが堪らない。どこもかしこも、汀は甘くて柔らかい。ぼんやりと滲んだ視界の隅に、一筋の流れ星が煌めいた。
俺の腕の中で、汀は身を捩った。可愛い瞼がゆっくりと持ち上がる。
「疲れたろ。もう少し寝てくか?」
俺が言うと、汀は俺の胸に顔を埋めて息を吸った。
「ううん……。そろそろ、帰んないと」
「夜中抜け出してるのが知られたら、ばぁちゃんに怒られちゃうもんな」
「……ふふ。岳斗さんの方が、きっといっぱい叱られちゃうよ」
「そうなったら、お前身代わりになれよ」
「えー? やだぁ」
汀がくすくす笑う。潮風が原っぱを駆け抜けていく。
「寒くないか」
「うん。だって、ぎゅってしてくれてるもん」
汀は幸せそうに頬をすり寄せて笑う。
「お前子供体温だから、抱き枕にしてるとあったかいんだよな」
「もう子供じゃないもん」
「全然子供だろ」
「もーぉ、ちがうったらぁ」
触れるだけの甘やかなキスを、幾度となく交わす。今この瞬間、幸せで尊い一瞬一瞬の積み重ねこそが、間違いなく、疑いようもなく、俺にとっての価値の全てだった。
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