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前魔王城 コウジンvsリンネル 1
あっと言う間に一週間が経った。何も答えは出せていない。が、とりあえず予定通り建築の勉強はきちんとする。それだけは決めた。鍛えるにしてもまず勉強ありきだ。
建築学を教えてくださるのは、前魔王様の所に居る上位魔族のロム先生。サーバルキャットのリューを契約精霊に持つ美中年さんだ。前魔王様がデザインした城を実際に設計して建てた魔族で、デザイン性と暮らしやすさとを兼ね備えた城を作る建築学の第一人者なんだ。
すでにユイ様が三ヶ月ほど前から勉強に通っており、僕も今日からそこで一緒に学ばせていただける事になっている。
前魔王様の城と母が経営するカフェ マジョリカはワープポイントで繋がっているので、一瞬で通えるからありがたい。ちなみに自宅はマジョリカの上にある。
ワープすると、僕の叔父でもある前魔王王妃様のレンさんと、ユイ様が待っていた。それぞれ契約精霊のクーとルーと一緒だ。
「いらっしゃい、リン。姉さんから聞いたよ。大変な事になってるんだって?」
「リンくん、今日から一緒に勉強出来るの楽しみにしてたんだ!よろしくね。それとコウくんの事聞いたよ。あのカグヤ様が絡んでるんだもん、大変だね。俺に出来る事があれば協力するから何でも言ってね?」
「レンさん、ありがとう。そうなんだよ。まさかこんな事になるとは・・・ユイ様もありがとうございます。」
「リンくん、様はやめて?言葉使いも普通でいいから。」
「いや、でも・・・」
「ふふ、前魔王王妃の俺には普通の口調なのに、ユイくんには敬語っておかしいもんね。」
「それはレンさんは僕の叔父で昔から知ってて・・・けどユイ様は人族の王子様であのシグ様の奥様であられるし。」
「もうっ!そんなのどうでもいいから。今日から一緒に学ぶ学友でしょ。友達なんだから普通にね。」
「はぁ、わかりまし・・・いや、分かったよユイくん。」
うんうんと頷くユイくんとレンさん。
レンさんとは授業後にまたお茶をする約束をしてワープポイントがある部屋から出た。
「さぁ、ロム先生に紹介しよう。」
そう言ったユイくんに連れられ、城の中の一室の前に来た。ノックをして部屋に入る。
本がいっぱいだが図書室というわけではなく、ロム先生の仕事用の部屋らしい。設計図を描く為の机や、城の模型もある。
「ロム先生、こんにちは。お邪魔します。リンくんが来ましたよ。」
「いらっしゃい、ユイ。それにリンですね?私がロムです。こっちは契約精霊のリュー。今日からよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願い申し上げますロム先生。リンと申します。こっちは僕の契約精霊でネルと言います。」
ネルとリュー、ルーもお互いにあいさつをしている。
「リンは建築デザインより機能性や利便性に興味があるんですよね?」
「はい、なのでユイくんのようなデザイナーと組んで仕事が出来るようにがんばりたいです。」
「機能性もデザインもどちらも大事ですからね。建築の基礎から勉強していきましょう。ユイは人族なので、魔族の建築の歴史から学んでいたんですが、リンは学校でその辺りは学び終えていますよね?
なので今日からは二人一緒に建物の構造と素材を勉強しながら、まずは設計図を読めるようになりましょうね。」
「「はい!!」」
初日からすごく有意義な授業だった。やっぱり自分が興味ある事は真剣に聞くし、一般教養を広く浅く学ぶ学校とは違うな。
授業の後は、レンさんとユイくんと僕と、ロム先生も交えてのお茶会だ。日当たりのいい部屋でゆったりとお茶をする。
精霊たちもお菓子をもらってみんなで食べている。うん、和むなぁ・・・
ロム先生の事も色々聞いた。一番ビックリしたのは、ロム先生があの魔王様親衛隊長のシグ様の叔父さんだったって事!シグ様の母君がロム先生の妹さんなんだって。
だからユイくんが勉強しにロム先生の所へ通うのを許可したんだな。あの魔王様に負けず劣らずの溺愛っぷりのシグ様が、よくユイくんに個人授業の許可を出したな、って思ってたんだけど、そういう事か。納得。
後、ロム先生は前魔王様が魔王様になる前の職場(もちろん建築系)の上司だったんだって。だから前魔王様がデザインした城の設計やその他もろもろを引き受けたんだな。で、デザインと機能性を兼ね備えた最先端な城のサンプルとして色々データを取りたいから、ってそのままこの城に居着いたらしい。
ていうか、前魔王様が普通に働いてた事にビックリだよ!
で、僕の事も話す。カグヤ様がコウを連れて行ったって話をすると、ロム先生はわちゃーって顔をした。
「で、リンはどうしたいの?」
再度レンさんに問われる。
「魔王様がおっしゃられた通り、僕が迂闊な事を言った所為なので、責任を取る為に相手はしますよ。みすみす半分も負けたりはしません。」
「だが、カグヤちゃんがそのコウくんを鍛えてるんだろう?正直コウくんは確実に強くなるよ?」
ロム先生は昔からカグヤ様を知っているようで、確信を持って断言した。
「ええ、そうでしょうね。実は僕、少しだけ楽しみでもあるんです。あいつは力も魔力もあるし、契約精霊もウンピョウなのにそれを全く活かしきれてなくて、見てて歯痒かったから。カグヤ様がそれを鍛えてくださるのはコウにとっても良い事だと思います。」
「もし、リンくんが半分以上負けちゃったら恋人になってもいいと思ってるの?」
ユイくんが心配そうに聞いてくる。
「カグヤ様にも『もしコウが十回中半分以上勝ち越したら真剣に考える』としか言ってないからね。真剣には考えるけど無理してまで恋人になる気はないよ。」
「そっか!なら良かった。」
「じゃあ、リンも特訓する?ジュンさんに頼んであげようか?」
「ち、ちょっと待ってレンさん?!子どもの馬鹿げた喧嘩に前魔王様を引っ張り出すわけには・・・」
突然部屋に二つの大きな影が現れた。
「よう!リン、おれはお前に付くぜ。特訓にも付き合ってやる。」
「前魔王様?!!!」
「カグヤが関わってるんだろ?おれも一応親だからな。責任っつーか、まっ、正直面白そうだしw?」
「リン、ジュンさんは興味ある事しかしないから大丈夫だよ。特訓してもらったら?
ちょうど週五日はここに通うんだし、ロム先生の授業が終わってからジュンさんに相手してもらいなよ。」
「・・・本当にいいんですか?前魔王様。」
「おう!おれも隠居生活で暇してるからよ。いい運動にもなりそうだってキルも乗り気だ。」
「ユキヒョウと戯れるのも悪くないからな。」
「では、前魔王様、キル様、どうぞよろしくお願いいたします。」
僕とネルは頭を下げた。
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