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前魔王城〜カフェ マジョリカ 1

 帰り道も順調だ。僕もコウも憑依して軽快に飛び続ける。行きにオークを殲滅した場所に着いたけど、もうオークキングの氷漬けはなかった。そりゃそうか?氷が解ける前に回収しなきゃ意味ないもんね。 何事もなく無事に前魔王城に着いた。 「コウは夕方から仕事だし、もう帰らなきゃね。」 「ヤダ。リンと離れたくない。」 子どもかよっ?! 「・・・僕、ちゃんと仕事が出来る男が好きだなぁ。ねぇ、ネル?」 『そうだよね!ちゃんと仕事が出来る男を支える精霊ってカッコいいよね。』 憑依しているから頭の中にネルの声が響く。コウの頭の中にも響いているはずだ。   『コウ、頑張って仕事に行こう!』 ジンの声が僕の頭に響く。 「うん。けど最後にお願い。リンネルになってくれない?」 注文通りリンネルになる。コウもコウジンになったようだ。 尻尾をお互いの体に巻きつける。そのまま抱きしめられて深いキスをされた。 舌を絡ませ合い、お互いの口内を舐め合う。コウから唾液を流し込まれ、それを飲み込んだ瞬間から、精神的な愛撫が始まった。 コウジンの感情が僕の体内を駆け巡る。 あぁ、リンネル、好き、好き、大好き、愛してる。離れたくない。一つになりたい。食べてしまいたい・・・ ・・・僕だってコウジンが好きだよ。一つになってもいいくらい。食べられてもいいけど、僕だって噛み付くよ?ユキヒョウも猛獣だからね。 「本当?オレと一つになってくれる?あぁ、嬉しい。好き。これから仕事じゃなきゃ今から一つになるのに・・・」 ・・・そうか。完全憑依したままでヤルと、この精神的な繋がりも加わるから本当に心も体も相手と同化したみたいになるんだ。今なら想像出来る。そりゃあ気持ちいいよね?! 「また今度ね。今日は仕事頑張って?僕もロム先生に報告しなきゃ。」 渋々コウジンが離してくれた。 「ほら、もう完全憑依も解くよ?ひぁっっ、ん、んん~?!」 最後に思いっきり精神的に攻めてきたなっ??頭の上に生えた耳から尻尾の先にまで、コウジンの愛情が詰め込まれて行く。うわぁ、ヤバい。気持ちだけでイッちゃいそう・・・ 「その感覚、覚えておいてね?次は絶対に一つになるから。」 「・・うん・・・」 ダメだ。頭の中が蕩けてる。これからロム先生に報告しないといけないのに何してくれてんのっ?!ネルじゃないけどふにゃふにゃだよっ!! 最後にチュッっと軽いキスをされ、空に羽ばたいて行くコウジンを見送ってから完全憑依を解く。僕から飛び出して来たネルは案の定ふにゃふにゃだった。 「ネル・・・大丈夫?」 「うぅっ、まだ繋がってるから・・・」 流石ジン、しつこいね。 僕は精神的な繋がりから解放されたから大丈夫。ちょっと余韻は残ってるけど。  前魔王城に入るとレンさんとユイくんが出迎えてくれた。 「お帰り、リン。ネルもお疲れ様・・・って大丈夫??」 「お帰りリンくん。何となく状況は察してるよ。話を聞きたくて待ってたんだ!」 「ただいま。レンさんもユイくんも伝言を伝えてくれてありがとう。僕も話したい事はいっぱいあるけど、まずはロム先生に報告しなきゃ。」 「そりゃそうだよ。ロム先生もお待ちかねだから行っておいで。」 レンさんに促され、二人とは後でお茶をする約束をして、ロム先生の仕事部屋に向かった。 「ロム先生、リンです。ただいま戻りました。」 ノックをして部屋に入る。 「お帰りリン。色々とすまなかったね。けどすごいじゃないか!原因をつきとめて応急処置までして来たんだから。 さっ、レポートを見せて?」 僕はロム先生にレポートを渡す。すぐに目を通して、再び僕に向き直る。 「うん。リンの見解で間違いないと思うよ。魔道具の耐熱設定が甘かったんだ。これほどまで夏に気温が上がると思ってなかったからね。」 本当に今年の夏は異常気象だった。連日三十五度を超える猛暑日が続いたんだ。例年なら三十度を超える日さえそんなにないのに。 「原因は分かった。氷魔法で冷やすととりあえずは正常に作動するようだし、あの魔道具の手直しは然程難しくないよ。 あっちに行く前にここまで分かるとはね!いや~本当に助かったよ。」 「お役に立てて光栄です。」 「ちゃんと給料も出すからね?リンの分だけになってしまうけど。」 「そんなっ?!いらないですよっ?!言わば偶然の産物でしたし。」 「それでも君の今回の働きには対価が生じるから。そこはちゃんと自覚しなさい。」 「はい、ありがとうございます。」 「で、湖畔の城はどうだった?」 「最高に美しかったです!!しかも中は快適に過ごせる空間になっていて・・・僕が目指す所がより明確になりました。」 「それは良かった。五日後に修理に向かう事になったよ。それにユイがついて行きたいって言ってて、ちょうどシグも休みみたいだから一緒に行って来るよ。だから、その日と次の日は授業はお休み。」 「はい。分かりました。」 「お疲れ様。レポートありがとう。今日はもう帰っていいよ。」 そうロム先生に言われ、部屋を後にした。 そして、レンさんとユイくんとお茶をする為に別室へと向かう。

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