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第8話

 朝礼が始まるギリギリの時間に教室に入った。古賀は友人たちと談笑していたが、三鶴がやってきたことを目の端で確認したことは、はっきりとわかった。  武藤がなにか怒鳴りながら教室に入ってきて、生徒たちのざわめきが収まった。  非常階段への出入り禁止、屋上への立入禁止。それを不必要なほど大きな声で通達して、朝礼は終わった。武藤はあからさまに生徒たちから目をそらしたまま教室を出ていった。  いつもなら授業開始時間ぎりぎりまでなにか喚き散らす武藤があっという間に朝礼を終えたことに興奮した様子で、地球人たちは噂話を初めた。  三鶴はぼんやりと窓から空を眺めた。雨は本降りになっていて、真っ黒な雲が広がっていた。  昼休み、することも行く場所もない三鶴があてもなく廊下をうろついていると、古賀が背後から声をかけた。 「東谷」  図書室に近い、蒸し暑い廊下に人はいない。三鶴は振り返りはしたが、古賀と視線を合わせることなく床を見つめる。 「来いよ」  そう言うと、古賀は階段に向かって歩いていく。最上階へ行けば屋上へ出る扉があるが、非常階段同様、いつも施錠されている。  古賀は最上階、屋上へ出る扉の前の広い踊り場で立ち止まると、黙って付いてきた三鶴の腹を強く蹴り飛ばした。壁に背中を打ち付けた三鶴は、声もなくうずくまる。 「武藤先生からの呼び出しがないじゃないか。先生になにかしたのか?」  古賀は貪欲に三鶴の恐怖と嫌悪を引き出し、嗤う。 「それとも、なにかされたのか? たとえば、こんなこと」  うずくまった三鶴の股間に足をかけて小刻みに左右に揺らす。ささやかな刺激に三鶴の脚はピクリと跳ねた。 「いじられたのか? まさかしゃぶられてはいないよなあ。武藤がドスケベだからって、さすがになあ」  武藤が暴力を振るう教師だということは広く知られている。それと同等に、生徒に性的暴行を加えたことがあるという噂も囁かれている。  三鶴の耳にもその噂は入っていて、生徒指導室で二人きりになることに危機感と嫌悪感を持っていた。 「否定しないんだ。本当にヤラれたのか?」  古賀は三鶴が反応しないことに苛立ったのか、不機嫌そうに眉根を寄せた。三鶴を踏みつけている足に力を込める。痛みで身を引こうとする三鶴の背は壁にぴたりとついていて、逃げ場はない。 「俺が確かめてやるよ。ズボン脱げ。」  古賀に命じられても、三鶴は動かない。古賀はゆっくりと足に体重をかけていく。三鶴は痛みに顔を歪ませて首を振る。不機嫌な様子の古賀が足をどけると、三鶴は恐る恐るズボンに手をかけた。  ベルトを外し、前を寛げる。羞恥と恐怖で手が震え、うまく動かせない。  古賀はそんなのろのろとした動きに苛ついたようで、三鶴の手を払い退けズボンを握って思い切り引っ張った。  三鶴は後頭部をしたたか壁に打ち付けられ、くらくらとめまいを起こした。古賀は力任せにズボンを引き、三鶴の膝下まで下着とともにずり下ろす。三鶴は横倒しになり、抵抗しようと手を伸ばしたが、古賀に強く手を打ち払われて床にくずおれた。 「お前、これ小学生並みじゃねえか」  古賀が三鶴の股間をまじまじと観察する。成長しきれていない性器は、たしかに少年のような姿だ。古賀が靴の爪先で、つんと突くと、ぷるりと揺れた。 「しょんべんの役にも立たねんじゃないか? これで射精出来んのかよ」  にやにや笑いながら三鶴の性器を突き続ける。突かれるたび、三鶴の脚はぴくりと反応する。古賀は目をぎらつかせながら三鶴に柔らかな悪意を突き付け続ける。 「扱けよ」  すっと足を引いて、古賀が命令する。 「勃起してみせろよ。一応、出来るんだろ? 子どもじゃねえんだから」  顔を伏せて動かない三鶴にイラついた古賀がしゃがみ込み、三鶴の手を性器に触れさせる。三鶴はされるがまま、自分の性器を握りこんだ。小さな性器は三鶴の手の中にすっぽりと隠れてしまう。古賀はそれを見て噴きだした。 「小さすぎだろ! 精液出るのか?」  笑われても三鶴は表情を変えず、命令通り、性器を扱きだした。自慰行為などしたことはなかったが、義母が家に引っ張り込む男に無理やりされたときのことを思い出し、性器をいじる。手の中に握りこみ、やわやわと揉む。少し硬くなり上を向くと、人差し指と親指で作った輪で性器の根元から先端まで扱き上げる。男のごつごつした手の感触を思い出し、顔が青ざめた。  のろのろとその動きを繰り返すだけの三鶴を見ていることに飽きた古賀が、三鶴の髪を握り、床に押し倒した。 「床でやってみろよ。気持ちいいらしいぞ、床とヤるの」  うつ伏せた三鶴の尻に足をかけ、ぐいぐいと揺する。三鶴の性器が床に擦りつけられる。生身の性器と硬い床の摩擦で酷い痛みを感じる。悲鳴も出ないほど痛めつけられ、三鶴は身を捩って古賀の足の下から逃げ出そうとした。  だが、古賀は体重をかけて三鶴を踏みにじる。三鶴の蒼白な顔に涙がぼろぼろと落ち続ける。 「校内での淫行は認められていない」  突然の声に古賀が飛び上がるような勢いで振り返った。斯波が階段を上ってくる。白衣のポケットに両手を入れたまま、いつもの感情の見えない表情顔つきだ。 「先生、違うんです、これは……」  掠れた声で言い訳をしようとしている古賀と、痛みで動けない三鶴の脇をすり抜け、屋上への扉の鍵を開けた。二人の存在に全く興味を持っていないらしい斯波の様子に安心したのか、古賀が足音を立てないようにしながら階段を下りていった。  斯波は扉を開けると、強い降りになっている雨雲を見上げた。ポケットからライターを取り出し、手の中で転がしている。  三鶴は痛みをこらえてなんとか起き上がった。性器は散々に擦り上げられ、赤剥けて血が滲んでいた。  扉が閉まり、鍵をかけた音が聞こえた。性器を隠そうと下着を引っ張り上げたが、布が当たっただけで激痛が走る。思わず呻いて両手で性器を守るように包み込んだ。 「立てるか?」  問われて、そっと床に手を突いた。少し動くだけでズキズキと痛むが、なんとか立ち上がることが出来た。  下着もズボンも上げることが出来ず、性器を晒したままの三鶴の肩に、ふわりと白衣がかけられた。

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