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第23話

 昼休み、三鶴が弁当を持っていないことを確認してから、古賀は教室を出た。三鶴は大人しく付いていく。  体育館裏の倉庫は今日も鍵が開いている。忍び込んでマットに並んで座る。  一つのサンドイッチを二人で分けて食べる。運動部なのに、古賀はたったこれだけで足りるのだろうかと思っていると、古賀はあっという間に食べ終えて、三鶴に抱きついた。 「早く食べてしまって」  そう言いながら三鶴の首筋に舌を這わす。三鶴の腰に熱いものが生まれて、そこから背筋にぞくぞくと寒気にも似た感触が走る。  昨日与えられた快感、初めての欲情、古賀の逞しい性器。考えただけで三鶴は勃起した。  ほとんど噛まずに食物を飲み込むと、古賀に押し倒された。ぎゅっと抱きしめられ、身動きが取れない。  もう、古賀を怖いとは思わない。  古賀は三鶴を抱きしめたまま、腰を押し付けた。服越しに性器を合わせて腰を振る。  直接触れられないもどかしさが性器を膨らませる。腰を揺らして触ってほしいと古賀に訴える。  だが、古賀は決して腰を離さない。三鶴を抱きしめる腕の力を弱めない。 「三鶴……」  耳元で囁かれる名前。 「三鶴」  生まれて初めて自分の名前を愛おしいと感じた。  服の中で射精して下着がドロドロになってしまった。古賀が三鶴の服を脱がせてハンカチで拭く。 「三鶴くんのシャツ、生乾きじゃない? 傘を差して来なかったの?」  学校で夜明かししたことを話すことは出来ない。古賀が去ってからのことを説明したくはない。きっと、責任を感じさせてしまう。  三鶴は黙ってうなずいた。 「帰り、送るよ」  古賀は嬉しそうに笑った。 「俺、雨が嫌いなんだ」  放課後、古賀の傘に入れてもらって住宅街へ歩いていく。 「嫌なことが起きるのは、いつも雨の日だったから」  静かに語る古賀の横顔に表情がない。悲しいのか、寂しいのか、それとも過去に怒りを感じているのか。三鶴は知りたくて古賀を見つめる。  古賀はふっと微笑んで、三鶴を見つめ返した。 「でも、雨もいいな」  傘が雨から身を守ってくれて、触れた古賀の腕が温かい。三鶴はうなずいて古賀に寄り添った。  玄関の扉を開けると、キッチンから料理をしているらしい音が聞こえてきた。  古賀が黙って三鶴の腰を抱く。真っ赤になった三鶴が慌てて靴を脱ぎ、廊下に上がると、ギシッと床が鳴った。キッチンの扉が勢いよく開き、義母が飛び出してきた。 「どの面下げて帰ってきた!」  喚いた義母の目が古賀に留まる。 「また来たのか! 帰れ!」  義母の剣幕に三鶴が真っ青になる。古賀が義母と三鶴の間に立ち塞がろうと動きかけたが、三鶴は震えながらも首を横に振ってみせた。  不倫相手の靴はない。今日は父が帰ってくるのだ。追い出される心配はない。三鶴はもう一度、首を横に振ってみせる。  古賀はうなずいて出ていった。  ドアが閉まると、義母は三鶴の胸を強く押した。壁にしたたか背中を打ち付けたが、なんとか倒れずにすんだ。 「早く部屋に行け!」  義母が地球語で喚く声をこれ以上聞いていると、耳が壊れてしまいそうだ。三鶴は階段を駆け上がり、自室に飛び込み扉を閉めた。    父が帰宅した気配を感じて階下に下りた。父と義母が食事を終えるのを階段に座って待つ。  食後の片付けを終えて義母がキッチンを出た。  キッチンに入ったが、食卓にはたった一握りの白米がぶちまけられているだけだった。米をひと粒ずつ拾って大切に食べ、台拭きを取りにシンクに行く。  残飯入れが片付けられず放置されている。今日はステーキだったらしい。牛肉の脂身が捨てられている。三鶴に見せつけるために置かれているのだろう。  使い終わった台拭きを片付けるのと共に、残飯も片付けた。  翌朝早く、身支度を済ませてカバンを抱えて階段を下りた。父の靴はもうない。早出だったのだろう。義母のハイヒールが我が物顔で玄関の中央に置いてある。三鶴の靴は蹴り飛ばされたようで、隅の方に転がっていた。  義母と顔を合わせることに危機感を覚える。三鶴は足音を忍ばせて家を出た。  校門をくぐると、すでに部活動が始まっていて、人声が聞こえてきた。教室に寄ってカバンを置き、屋上に続く踊り場に向かう。  昨日の古賀が突然見せた捕食者の顔。すぐに優等生の仮面をかぶって隠したが、確かに三鶴に向けた攻撃性があった。  三鶴を甘やかす古賀、三鶴を喰らい尽くそうとする古賀。どちらも素顔で、どちらも本音だ。古賀が自分をどうしたいのか分からない。  斯波のことを聞かれた。古賀にとって大切なことなのだろうか。自分と斯波がなにをしていたかというのは。  ふと、屋上へ続く扉に手をかけた。鍵は開いていた。  扉を開けると、斯波が眉根を寄せた不機嫌な顔で煙草を吸っている。お気に入りの煙草がなくなったせいだろうか。  斯波がこんなに表情豊かなことを、地球人は知っているのだろうか。  斯波は横目でちらりと三鶴を見たが、話しかけはしなかった。煙草を吸い終えると、床に投げ捨て吸い殻を踏み潰した。  吸い殻は一本だけ。チェーンスモーカーのはずの斯波は、もう煙草を吸う気にならないようで、扉に向かって歩いてくる。 「その煙草は、美味しいんですか?」 「その質問は二度目だな」  斯波は立ち止まり、白衣のポケットから煙草の箱を取り出し、一本唇に挟んだ。火を付けて二度、三度、ふかす。  煙草を踏み潰すと三鶴に近づき顎に手をかけ、唇を合わせた。  ぬるりと斯波が三鶴の唇を舐める。三鶴は驚いて思わず口を開いた。斯波の舌が三鶴の口内に侵入してあちらこちらと舐め回した。  唇が離れ、三鶴は息を乱し、真っ赤になった。 「味、分かったか?」  勢いよく、何度もうなずく。苦くて、焦げ臭くて、不味い。なんでこんなものを吸うのか、まるで分からない。斯波が口づけたのも、なぜなのか分からない。 「こんな不味いもの、吸うもんじゃない」 「じゃ、じゃあ、先生は、なんで吸うんですか?」  狼狽したまま、どもりながら尋ねると、斯波は床に目を落とした。 「口を閉ざすためだ」  なにからだろう。なんのためだろう。斯波の真意は分からない。どこか寂しそうなのはなぜだろう。 「コーヒー飲むだろ?」  顔を上げた斯波は、いつも通りの無表情だった。三鶴はうなずいて斯波の後についていった。  始業の予鈴が鳴って化学準備室を出ると、廊下に古賀が立っていた。鋭い視線で三鶴を睨む。 「斯波となにしてたんだ」  暗い声、ぎらつく瞳、三鶴を見下そうとするような姿勢。三鶴は動けなくなって、ただ古賀を見つめた。 「屋上から下りてきたとき、顔が真っ赤だったのはなんでだ?」  見られていた。動揺すると同時に、斯波のキスを思い出し、また赤面した。  古賀が優しい表情で微笑みかける。 「俺以外のやつとエッチなことしたんだね」  三鶴の頬はますます赤くなる。 「許せないな」  古賀は優しく三鶴の手を握ると、階段を上った。  広い踊り場で、古賀は三鶴を壁に押し付けた。 「なにをされたの? 脱がされた?」  三鶴は首を横に振る。古賀は三鶴のシャツのボタンを外す。 「舐められた?」  三鶴は首を横に振る。古賀は三鶴の乳首に吸い付いた。カリッと乳首に歯を立てる。三鶴は顔を顰めて痛みに耐えた。  古賀は執拗に三鶴の胸をまさぐる。片方の乳首を噛みながら、もう片方を優しく捏ねる。痛みと快感を同時に感じて、三鶴はくらくらと目眩を覚えた。 「見られた?」  言いながら三鶴のズボンと下着を脱がす。三鶴は抵抗しない。古賀が満足するなら、なんでもしたかった。 「触られた?」  古賀は三鶴の性器を強く握りこむ。痛みに顔を顰める三鶴の首に歯を立てる。  強く握ったまま、ごしごしと三鶴の性器を扱く。三鶴の首を舐め上げ、耳朶を噛む。そのままぬるりと舌を耳の中に差し込み、味わうようにゆっくりと舐めた。  やわらかなその舌の動きに三鶴の性器が勃起する。痛むほど握られている古賀の力強さに、うっとりと酔いしれる。  すぐに射精した三鶴の精液を手に取り、古賀は三鶴の臀部をこじ開けようとした。三鶴が鋭く息を吸う。抵抗して古賀の手を振りほどこうとする。 「暴れるな!」  古賀がぎらつく目で三鶴を睨む。だが三鶴はそんな視線にも気づかず、手足をばたつかせる。古賀は三鶴の髪を掴むと、床に引き倒した。  足を三鶴の膝にかけて、大きく開かせる。蒼白になった三鶴が、古賀の腹を蹴った。  突然の反撃に、古賀は咳き込み、唾を吐く。 「てめえ、ふざけたことしてると、このまま突っ込むぞ!」  三鶴の両脚を腰に抱え込み、服越しに性器を三鶴の臀部に押し付けた。ふと古賀が動きを止めた。三鶴が紙のように真っ白な顔で、がくがくと震え、泣いている。古賀は三鶴の脚をそっと床に下ろす。 「もしかして、ヤられたことあるのか?」  三鶴は震えながらうなずく。 「斯波じゃないんだな」  またうなずく。 「あのおっさんか」  三鶴の涙がぼろぼろと零れる。両腕で顔を隠し、体を丸める。恐怖が三鶴の動きを奪う。古賀は三鶴の背中を抱いた。 「俺以外のやつのことなんか、考えるな」  三鶴の震えは止まらない。 「俺が、なにもかも忘れられるくらい、気持ちよくしてやる。脳みそ溶けるくらい、何度でもだ」  古賀は三鶴の背中に頬ずりする。 「俺だけがお前を救ってやれる」

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