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第25話
どれくらい唇を重ねたままでいただろう。一つの生き物になったような安心感が湧いてきて、もう二度と離れたくないと二人は願った。
互いの髪を、肩を、背を撫でて、ここに間違いなく存在していることを確かめる。自分がいることを、二人でいることを、確かめる。
指を絡めて、ふと目を開ける。ほんの少し先にうるんだ瞳がある。三鶴が唇を離し、古賀の目尻を舐めた。透明な雫はとても甘く、いつまでも味わっていたい。いつでも、古賀の涙を味わいたい。
古賀はついばむような軽いキスをして、体を起こした。
「腹減ったな」
三鶴は微笑み、うなずく。
「三鶴の精液が飲みたい。それ以外の栄養はいらない」
古賀が三鶴の服に手をかけたが、三鶴はその手をそっと外し、自ら服を脱いだ。その動きのすべてを、古賀はうっとりと酔ったような瞳で見つめた。それは信仰にも似た陶酔だ。
すでに勃起している性器を見せつけるように、三鶴は脚を大きく広げ、膝を立てた。
性器にそっと手を添えて唇を付け、招き入れた古賀の口の中、三鶴の性器がぴくりと震えた。その愛らしい小さな反応を大切にしようとしているようで、古賀はしばらく動きを止めた。どくんどくんと性器が脈打っているのを舌で感じる。
三鶴の脚を抱え込み、ゆっくりと頭を動かす。性器に舌を絡めながらそっと吸う。唇で柔らかく揉みながら、三鶴の会陰に指を沿わせる。そのたび、ぴくりぴくりと快感を得ていることを三鶴は体で示す。性器は少しずつ大きく育っていく。
古賀が動きを速くした。三鶴が両手で口を押さえ声を飲み込む。どくんと精液が飛び出した。ずるずると吸い出して古賀が飲み干す。射精が終わっても口を離さず、いつまでも三鶴を味わい続けた。
数十分もして、やっと口を離した古賀は、三鶴を抱きしめ耳元で囁く。
「俺だけを見て。俺もお前しか見ない。世界中の誰がなんて言っても、三鶴は俺のものだ」
三鶴は抱きしめ返し、古賀に口づけた。
早朝に登校しても、三鶴はもう科学準備室には行っていない。インスタントコーヒーはなくなった。三鶴が行かなくても斯波は美味しいコーヒーを飲めるだろう。
その代わり、朝の居場所になったのは、いや、昼でも放課後でも、三鶴は体育館裏の倉庫にいる。
武藤に反抗心がないと示すために、授業には問題なく出席している。古賀は部活を辞めた。ずいぶん引き留められたらしいと古賀の友人たちの噂話が耳に入った。三鶴は申し訳なさを感じたが、それは感情のほんの一部。胸の中に湧いたのは古賀を独占できる喜びと、古賀が自分に与えるすべてのものへの愛おしさだった。
三鶴に与えられる古賀のすべてが愛おしい。
昼休み、二人は同じものを食べる。三鶴が噛み取った食物を、口移しで古賀に食べさせる。古賀の脚の上に座り、向かい合って抱き合いながら。時には舌を絡め、抱擁しながら食事を終える。
古賀はまだ足りないと三鶴の性器を扱き上げ、精液を貪り飲む。三鶴の性感は鋭く深くなり、古賀に一舐めされただけで達しそうになる。
放課後には下半身を重ねて何度も腰を押し付け合う。言葉も交わさず、口づけだけで思いを伝える。たった一瞬でも離れているのが辛い。もしも絡めた指が溶けて混ざり合い、離れられなくなったなら。
三鶴は夢見て古賀の指を握る。
いつも通り、早朝に登校し体育館裏の倉庫に入る。マットに顔を付けてにおいを嗅ぐ。古賀と自分の精液のにおいがこびりついているようで、生臭い。そんなにおいの中にも古賀を求めて鼻をマットに擦りつける。
においだけで三鶴は古賀の指の動きを思い出せる。どうやって三鶴の服を脱がせるか、どんな強さで乳首を捏ねるか、思い出すだけで勃起して、三鶴は自分の股間に手をかけようとした。
倉庫の扉が開閉した音がする。古賀が来たのではないかと起き上がったが、入ってきたのは見知らぬ生徒達だった。
「三鶴くん、おっはよー」
いかにも素行が悪そうな三人、そのうちの一人、黒髪を肩まで伸ばした生徒がドカドカとマットに上がり込み、三鶴の肩に腕を回した。
見たこともない人物に名前を呼ばれ、動きを制され、三鶴は竦みあがった。
「今日は一人なんだねー。ってか、朝はいつも一人か」
何の話か分からず、三鶴は体を硬くして目だけをきょろきょろと動かす。肩まで伸ばしている髪の下に隠されているリング状の五個のピアスが光っているのが見えた。校則を守るつもりはないようだ。
「こんなに早くから学校にいても暇でしょ。俺たちと遊ぼうか」
「佐治 、うぜえ。とっとと用件済ませようぜ」
「えー、そんなこと言わないでさ、三鶴くんとお友達になりたいじゃん? 三鶴くん、こっちのいかついのが百地 。こっちの頭悪そうな茶髪が荒川 。んで、俺が佐治ちゃんね。覚えた?」
三鶴はこくこくとうなずく。佐治が三鶴の肩をぽんぽんと叩く。
「よしよし、えらいえらい。これで俺たちお友達ね。でね、親愛なる三鶴くんに見てもらいたいものがあるの」
佐治は三鶴の後ろに回って、逃げられないように両肩を強く掴んだ。
ああ、いつもの地球人の遊びが始まるのか。三鶴の目から光が消えた。両腕をだらりと垂らして、殴られる痛みにそなえる。
「これだよ、見て見て」
佐治が明るく言い、荒川がニヤニヤしながらタブレットを三鶴に差し出す。再生ボタンを押されたタブレットの映像に、三鶴は愕然として目を見開いた。
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