27 / 39

第27話

 撮影が始まった。  佐治から指示されたのは、服を脱ぐことだけ。三鶴は首元のボタンを外す。なにも見えない状態で素肌を晒していくと、恐怖心が湧き上がる。自分を守るものがなにもなくなるのだ。  早く済ませてしまおうと思うが、手が震えてうまくいかない。モタつくと、殴られでもしないかとソワソワしたが、三人が近づいてくることはなかった。  ボタンを外し終えてシャツを肩から滑らせて落とす。  ズボンのジッパーを下ろす。チキチキと小さな金属音がする。その音が頭の中に響く。時限爆弾の秒針が進んでいく音に聞こえる。爆発すれば、自分のわずかな自尊心が粉々に砕けて散るだろう。  古賀のことを考える。古賀を助けるためなら、自尊心なんて必要ない。古賀が自分を求めてくれるなら、それだけで生きていていいと赦される。  そう思うと、震えが止まった。ズボンから脚を引き抜く。  下着に手をかけると、荒川が声をかけた。 「もっとゆっくり。見てる人を焦らしてみせて」  焦らせと言われてもどうすればいいのか分からない。しばらく戸惑って動けずにいたが、ゆっくりという指示を守ればいいのだろう。  手をそっと動かす。1センチ引き下げるのに三秒かける。少しずつ肌を擦っていく布の感触に、三鶴の性感が高まっていく。  息が上がり、口を小さく開いて呼吸する。 「三鶴くん、エッチだね。服を脱ぐだけで感じてるよ」  佐治が上機嫌で声をかける。三鶴の顔が一瞬で赤く染まった。 「エロいこと命令されて、見られて、一人で気持ちよがってるなんて、真正の変態だな」  百地に蔑まれる言葉が耳に突き刺さる。視界を遮られているせいで、地球語がナイフのように切れ味を増す。  痛い。けれど、その痛みは三鶴を傷つけ血を流すことはなかった。痛さまで快感に変わる。  ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込む。三鶴の性器が膨らむ。 「おいおい、貶されるのも好きなのかよ。救えねえな」  百地の言葉には純粋な悪意がある。普段なら脅えて逃げ出すはずだった。だが、ここには佐治と荒川がいる。好奇心を抱いているはずの二人の存在が助けになっている。自分に向けられた欲望に嫌悪感を抱いていない。三鶴は途方に暮れた。  男たちの欲望を突きつけられて、いつも絶望していた。理解出来ない地球人の気味悪さだった。自分のなにが男たちを惹きつけるのか分からない。愛や恋ではあり得ない。三鶴を貪り、汚したい。そんな剥き出しにされた欲望に打ちのめされていた。  下着が性器の上を擦っていく。ビクリと腰が揺れた。  荒川が監督気分なのか、指示を出す。 「勃起してるところ見せつけるみたいに、下着で上下になぞって」  収縮する布で性器を擦る。出来るだけ性器に触れる布の面積を小さくしようと、布を左右に引っ張り真っ直ぐにした。  悪手だった。性器を擦る布の感触は硬くなり、触れ方も焦らすようにささやかになった。  突き上げるような快感が背筋に走り、三鶴は手を止めた。 「手を動かして。次は勃起してるやつを下着から出して」  荒川の指示が靄の向こうで発せられたかのように、薄っすらと聞こえた。三鶴の手はもう止まらない。下着を太腿まで一気に下ろす。性器はまだ膨張している途中で、中途半端に立ち上がっている。 「いいね、かわいいよ。下着は全部脱いじゃって」  下着から足を引き抜くために前に屈む姿勢になるのが辛い。今すぐに性器を握りしめて揉みあげたかった。 「次はM字開脚ね」  指示されたのは知らない言葉で、三鶴は快感でぼうっとした頭のまま、首を傾げた。 「かわいこぶってんじゃねえよ。あれだけ毎日ズコバコしてるくせに」  百地の言葉に、佐治が愛想良いセリフを返す。 「三鶴くんは、かわいこぶってるんじゃないの。かわいこちゃんなの。ほら、荒川、演技指導してあげなきゃ」  くすくす笑う佐治に「おー」と気のない返事をして荒川が指示を出す。 「足を大きく開いて、ゆっくりしゃがんで。腰を前に突き出すようにね」  それにどんな意味があるのか分からないまま、三鶴は膝を曲げ始めた。 「両手、後ろに突いて、腰をもっと突き出して」  言われたとおりに動こうとして、三鶴はハッとした。これではカメラに性器を見せつける格好になる。  途端に恥ずかしさが込み上げ、体が動かなくなった。 「あれ? けっこう体硬いの? 困ったねえ」  佐治が口を出すことに荒川は文句はないのか、指示出しは止まった。 「百地、手伝ってあげてよ」 「なんで俺が」 「だって俺達の中で一番、力持ちじゃない」  佐治と百地が、なぜか和やかに話し始めたのをいいことに、三鶴はそっと座って股間を隠した。 「三鶴くん、股間は隠さない」  荒川は、やはり監督気取りなようで、注意する口調が生真面目だ。それに比べて、佐治はふざけた様子で、百地は暇を持て余しているのかだるそうだ。 「なれない撮影で疲れちゃったんだよね、三鶴くん。ほらほら、百地。人助けだと思って」  チッと舌打ちの音が聞こえて、マットに上ってきた足音がする。きっと百地だ。身が竦み、三鶴の性器が縮みあがった。  百地は無言で三鶴の腕を強く引っ張り立ち上がらせた。

ともだちにシェアしよう!