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第31話

 翌早朝、三鶴は体育館裏の倉庫にいた。緊張で手に汗をかいている。  なにをされようと、怯まない。もう二度と泣かない。  そう決意したのは、どこにいても、古賀が自分を探し出してくれると知ったからだ。  古賀が居心地がいいと言った化学準備室で香ばしいコーヒーのにおいを嗅いだからだ。  二人で並んで飲んだ不味いコーヒーで笑い合えたからだ。  扉が開き、閉じた。歩いてきた人物を真っ直ぐに見る。  今日も三人で来るのかと思っていたのだが、やってきたのは百地、一人だけだ。 「お疲れ。今日は撮影なしだとよ。今日、明日、編集して、明後日撮りたいんだと」  そう言うと、抱えている小さな紙袋を三鶴に押し付けた。三鶴が首をかしげながら受け取ると、百地は背中を見せて扉の方に歩いていく。 「明日は来なくていいからな」  言い残して出ていった。紙袋を覗くと、クロワッサンが二個入っている。奢ってくれるのだろうか。なぜだろう。  不思議な気持ちで見つめていたが、クロワッサンを一口食べてみた。少し甘くて、空腹に優しく沁み入った。  化学準備室で古賀と共に過ごす二日目の昼休み。三鶴のコーヒーは不味い。  斯波がコーヒーサーバーの代わりにビーカーを使い、一度に三人分を淹れることが出来た。が、多量に淹れたのが敗因かもしれないと斯波は言う。  斯波が買ってきたコンビニのサンドイッチと、古賀が持ってきたブルーベリーマフィンをご馳走になり、満腹になった。そこに不味いコーヒー。  なにやらとんでもなく申し訳なく、三鶴は赤面して道具を洗う。 「何度も淹れれば必ず美味しくなる。明日も……。なんなら放課後も練習するか?」 「いえ、それは」  古賀が即答した。 「なにか用事があるのか」 「はい」 「そうか。じゃあ、また明日の昼にな」  軽く手を上げた斯波に見送られ、化学準備室を出る。  古賀になにか予定があるなら、放課後は一緒にいられないと三鶴が思い暗い顔をしていると、古賀はその考えを読んだようだ。 「授業が終わったら、三鶴と二人きりになりたいからね」  古賀は、サッと廊下の左右に目をやり無人なことを確認すると、赤面している三鶴の頬にキスをした。  終業のベルが鳴るとすぐ、古賀は三鶴の席までやってくる。 「三鶴、帰ろう」  うなずいて立ち上がった三鶴と並んで教室を出る。古賀が友人たちに手を振った。このところ、古賀が三鶴にべったりくっついていることにも慣れた友人たちは適当に手を振り返す。  優等生の仮面をかぶった古賀の人望のおかげか、友人付き合いを少しばかり疎かにしても、友情がなくなることはないようだ。  三鶴は古賀が地球人から冷遇されていないことにホッとした。  下足室を出て、いつも通り倉庫に向かおうとした古賀の腕を三鶴が引っ張る。  見ると、青い顔をしてうつむいている。 「どうしたの?」  古賀に尋ねられても三鶴は黙ったまま首を横に振るだけだ。倉庫でどんな目にあったのか話すことは出来ないし、地球語で誤魔化すことなど三鶴に出来はしない。  戸惑う古賀の腕を引いて校門を出る。早足で住宅街へ向かう。 「真っ直ぐ帰るの?」  うなずく三鶴に、古賀が遠慮がちに聞く。 「俺も一緒に行っていいの?」  三鶴は力強くうなずく。古賀の頬に笑みが浮かんだ。  玄関を開けると大きな紳士靴があった。リビングからソファがギシギシ鳴る音と義母の嬌声が聞こえる。  三鶴はそれらを無視して、古賀の腕を引いたまま自室に入った。  扉を閉めたと同時に、三鶴は古賀に抱きついて唇を合わせた。驚いている古賀の頬を撫でながら、舌を古賀の口内に差し込み、ぬるりと古賀の舌を舐めあげる。  性感のスイッチを入れられた古賀が三鶴を強く抱き返す。  三鶴は古賀の腰に腕を回して抱きつく。キスはますます深くなり、二人の息が上がっていく。  古賀の太腿に押し付けられた三鶴の股間はすでに膨らんでいた。  唇を離した古賀が三鶴のシャツのボタンを外す。首に食らいつき、舐め上げながら三鶴を裸身に剥いていく。  三鶴も古賀のシャツに手をかけると、古賀はそっと体を離して「俺はいいから」とささやいた。  三鶴の服をすべて脱がせてしまうと、古賀は三鶴を味わい始めた。  手を取り、指を一本ずつ丁寧に舐める。手首にキスをして肘の内側まで舐めあげていく。  それだけで三鶴はびくびくと震え、力が抜けて座り込んでしまった。古賀が抱き上げてベッドに運ぶ。  横たわらせた三鶴の二の腕を唇で挟んでちろりと舐める。  三鶴はたまらず快感から逃れようと腕をもぎ離そうとした。だが古賀は強く手首を掴むと、逃げられないようにベッドに押し付けた。  左右に広げられた三鶴の腕にキスマークをいくつも付ける。その強く吸われる小さな痛みと、三鶴を喰らい尽くそうとする古賀の執着に、三鶴は酩酊し、うっとりと古賀を見つめた。  三鶴の腋をべろりと舐める。普段隠されている薄い皮膚を攻められて三鶴は仰け反って快感に震えた。その反応が愛おしく、古賀は何度も繰り返し舌を閃かせる。  三鶴の息が激しくなる。古賀は三鶴の胸に耳を当てて鼓動を聞く。 「三鶴、お前は何もかもきれいだ。心臓もきっと美しい色なんだろうな。胸を切り開いて舐めてみたい」  ぞくぞくと腰に震えが走った。恐怖、陶酔、逃げたい、離れたくない。  複雑に絡み合った感情が去来する。古賀から与えられるすべてが三鶴の魂を震わせる。  三鶴の首筋に顔を埋めて古賀が大きく息を吸う。 「良いにおい。美味しい」  首筋から耳までぺろりぺろりと舐めていく。耳朶を口に含み、ちゅうちゅうと吸う。  まるで赤ん坊のようだ。三鶴から栄養を摂取している。  荒い息に翻弄されている三鶴の唇に唇を合わせ、音を立ててついばむようなキスを繰り返す。  腰をこすりつけ合うと、三鶴も古賀も大きく勃起していた。  古賀が体を起こして三鶴の足元に移動する。脚を開かせようと手を掛けたが、三鶴は自ら脚を大きく広げ、膝を立てて見せた。腰を突き出し、股間をすべて古賀の前にさらけ出す。  なぜか震えながら両手を差し出す三鶴の必死な表情を古賀はすべて受け取った。今まで受けてきた三鶴の恐怖まで食べ尽くしたい。  伸ばした手を取り、指を絡める。暖かなものが指から伝わる。  もっとそれが欲しくて、古賀は三鶴の性器を口に含んだ。三鶴の太腿がびくりと跳ねる。古賀は一刻も早く飲みたいというのか、三鶴をあっという間に昇りつめさせる。  びゅるびゅると古賀の口に、甘くて温かくて愛おしくてたまらない液体が飛び込んできた。性器をいつまでも口に含んだまま、最後の一滴まで啜り飲む。  三鶴の体から力が抜け、ぐったりとベッドに頭をつけた。古賀が三鶴に覆いかぶさり、胸にむしゃぶりつく。  乳首をころころと転がすように舐め、吸い付く。そうしていれば母乳が出るとでも思っているかのように、力強く吸い続ける。  三鶴は痛みに顔を顰めたが、古賀の行為を止めようとはしない。それどころか、胸を古賀の顔に差し出すように張る。  腰も触れ合ってしまい、古賀の限界まで勃起した性器と触れ合って、三鶴の性器がまた硬さを持った。  古賀は上半身を起こすと、大きく開かれたままの三鶴の脚の間に膝を付き、三鶴の性器に己の性器を擦り合わせた。三鶴は強い刺激に震え、思わず目をつぶる。 「三鶴」  呼ばれて目を開くと古賀の顔が近づいてきて、キスが降ってきた。 「俺から目を離さないで」  何度もうなずく三鶴の指にもキスを落としながら、古賀は腰を振り続ける。ぬるぬると逃げる三鶴の性器を追いかけて強く弱く、早く遅く、緩急を付けた動きで三鶴を翻弄する。  すっかり勃起した三鶴の性器と己の性器を片手で包み込み、擦り上げる。三鶴も手を伸ばし、古賀の手を両手で握る。  いつまでもこうしていたい、快感を分け合っていたい。どこまでも気持ちよく、どこまでも堕落して。  そんな思いを断ち切るように、快感は頂点に達した。性器が一つの生き物のように、同時に精液を吐き出した。  息を切らして二人、ベッドに横になる。三鶴は古賀の手を握り、唇を付ける。 「三鶴、また勃っちゃうから」  苦笑する古賀の指を離さず、三鶴は指を舐めていく。くすぐったさに古賀が笑い出す。 「猫みたいだな。かわいい」  寝返りをうち、三鶴と向かい合った古賀は、三鶴の頬を優しく撫でる。 「三鶴が猫だったらいいのに。連れて帰れるのにな」  こくりと三鶴もうなずく。古賀は三鶴の頭をくしゃくしゃと撫でて起き上がった。 「服を着せてあげる。風邪を引かないようにね」  精液を拭き取り、ボディーシートで全身を清拭して、高価な人形にするように、丁寧に服を着せた。  翌朝、三鶴は誰よりも早く教室にいた。  いつもなら始業時間ぎりぎりまで姿をくらましているのに。  登校してきた古賀は驚いて三鶴の席にやってきた。 「どうしたの、今日は早いんだね」  毎朝、三鶴が開門時刻に登校して倉庫に身を潜めていたことを、古賀は知らない。  義母が、三鶴が視界に入ると喚き散らすため、出来るだけ顔を合わせないように早朝に家を出ているのだ。  もし古賀に気づかれれば、義母と対決しかねない。古賀が金切り声の地球語を浴びせかけられるのは我慢がならない。  仮面を被っていない古賀には地球語から離れていて欲しい。  なにも問題はないと古賀に伝えるために、三鶴は元気な様子を装って笑顔を見せた。  翌日も三鶴が早い時間に教室にいるかも知れないと、古賀は出来るだけ、いつもより早く登校した。三鶴の姿を一秒でも長く見ていたいのだ。  だが、三鶴は始業ギリギリまで姿を見せなかった。  教室に入ってきた三鶴の様子がおかしい。よろよろした足取りで、顔が真っ青だ。古賀が駆け寄る。 「どうしたの! 具合が悪いのか?」  三鶴は弱々しい笑みを浮かべ、首を横に振る。 「顔色が酷いよ。保健室へ……」  古賀のシャツの袖をギュッと握り、三鶴は強く首を振る。手を離して自分の席につく。普段見せない断固とした態度を、古賀は驚いて見つめた。  武藤がやって来て、古賀は優等生の仮面を被り席へ戻った。  休み時間ごとに三鶴の側に行ってみたが、三鶴はずっと力が抜けた様子で、ぐったりと机に伏せていた。熱でもあるのかと額に触れてみたが、どうやら平熱らしい。  保健室には行かないと首を横に振るし、いつも通り、古賀に言葉を聞かせてはくれない。  見慣れた脅えた顔でもなく、懐いた笑顔でもなく、古賀が知るどんな表情とも違う。  一番近いのは、性行為が終わった後の気怠げな様子だ。  三鶴の身になにが起きたのか分からず、古賀は苛立っていた。

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