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第36話

 三鶴は両手で隼人の手をぎゅっと握ってやる。強張っていた隼人の肩から力が抜けた。 「それは本心だ。でも、父が俺を殴る理由もわかる。俺は出ていった母にそっくりなんだ。見ていたら怒りがぶりかえすだろうってのは、わかるんだ」  隼人は顔を伏せた。指先が小さく震えている。 「小さい頃から殴られ続けた恐怖が消えない。今でも父の足音を聞くだけで身が竦む。そんな気持ちを、三鶴、俺はお前にぶつけてた」  続きを話すことを恐れているようで、隼人の視線がさまよい、三鶴を見ることが出来ない。繋いだ手も離そうとしている。 「僕はここにいるよ」  しっかりと見つめると、隼人の視線も定まった。三鶴がいる、それだけで隼人には力が湧いてくるようだった。 「父にされたことを、そのまま三鶴に……、大っきらいな父にされたことを」  三鶴は黙って隼人の頭を撫でてやる。母がそうしてくれたように、父から守ってくれたように。幻の母を見るたびに思い出せる感触を、隼人に与えたかった。  暖かくて、柔らかくて、良いにおいがして。地球の言葉はいらない。どんな言葉も必要ない。心の奥まで届く愛撫だ。  隼人は三鶴に抱きついた。まるで母を愛してやまない子どものように。三鶴は隼人を抱きしめた。最愛の子を守るように。  どのくらい、そうしていただろう。  いつの間にか隼人は眠ってしまった。三鶴は隼人の頭を撫で続け、愛し児を見る眼差しを向けていた。    隼人が身じろぎして顔を上げた。 「おはよう」  まだ夢の中にいるようで、隼人からの返事はない。ただ、またぎゅっと三鶴に抱きつく。 「三鶴は俺のこと、嫌いだよな」  そうでないことはわかっているのに、どうしても確認しなければいられない。何度でも、違うと言ってもらえないと、立っていることも出来ない。  そんな隼人の気持ちが、抱きついている腕から伝わってくる。  三鶴は隼人の腕から抜け出した。隼人が打たれたように顔を上げる。真っ青で小刻みに震えている。  それをしっかり見つめながら、三鶴は服を脱いでいった。 「隼人がいないと生きていけない」  目を丸くした隼人に見せつけるように、脚を大きく広げて、股間を晒す。 「隼人が僕を変えたから」  ごくりと唾を飲む音が聞こえた。  臀部を突き出し、柔らかく揉む。すぼみの回りも揉みほぐし、穴に指を入れる。  指を出し入れすると、穴が軟体動物のように指に吸い付く。その出し入れのたびに、性器が勃ち上がっていく。  指はゆっくりと穴を広げ、二本になり、三本になった。  股間を凝視して動けなくなっている隼人に、三鶴は微笑んでみせる。なにもかも赦すという(しるし)。なにもかも差し出すという(あかし)。  隼人はベッドの上を這い進むと、間近から三鶴のすぼみを見つめた。三鶴が指をすべて引き抜くと、隼人が恐る恐る人差し指をひくついている穴に差し入れた。  はあっ、と艶めいた声が三鶴の口から漏れる。 「気持ちいいの?」  こくりと頷いた三鶴に覆いかぶさり、隼人は性急なキスをした。何度も角度を変えて唇を貪りつくそうと、強く吸い付く。  三鶴は隼人の首に抱きついて、もっと深くと隼人の舌を誘い入れる。  舌を絡め合い、口内を隅々まで舐め尽くす。息が荒くなり、全身が火照っていく。  熱い。隼人の熱に当てられて、三鶴は勃起した。  隼人は服を脱ぎ捨てると、三鶴の太腿に手をかけ大きく広げる。すでに隼人の性器も太く大きくなっている。  性器の先端を三鶴の穴にピタリと当てる。そのまま戸惑って動きが止まった。  三鶴は腰を揺らして隼人の性器に小さな振動を与えて誘う。入ってきて。喰らい尽くして。  今、隼人のすべてが欲しかった。隼人にすべてを与えたかった。  隼人が腰を進めて、穴の中に入り込む。 「……っう!」  潤滑剤がないままの挿入で、隼人の性器を強い刺激が襲う。それは痛みであるはずなのに、性感を高められていく。  三鶴は臀部からの刺激で勃ち上がった性器を扱き、すぐに精液を吐き出した。  手を伸ばし、未だ入り切らない隼人の性器に滑る体液を塗りつける。 「うっあ……」  その滑りを借りて、腰を進め、一気に三鶴の中に入った。  三鶴が声もなく喉を反らす。強い刺激に達しそうになる。だが、まだだ。もっと、もっと足りない。  隼人のすべてが欲しい。己を食らう獣を、内臓から食い破りたい。喰われたい。食い殺したい。  相反するようでひとつの欲望。  三鶴は身の底から湧き出る思いに翻弄されて、欲に身を任せ、隼人の腰に脚を絡めた。 「三鶴」  呼ぶ声は絶え間なく波のように響く。 「隼人」  呼ぶ声は凍る大地を融かすように温かい。  隼人の性器は三鶴の欲でぬるりと滑り、自由自在に腔内を蹂躙する。  三鶴の弱い場所を突いては、あえかな喘ぎを引き出し、擦る壁面に自身の精を塗りつける。 「三鶴」 「ん……、隼人?」 「出すよ」  三鶴は光り輝くような笑みを浮かべる。 「うん、うん、隼人」  隼人の首に抱きついて、腰を強く振る。隼人は抽挿をガツガツと進め、三鶴の反応など見はしない。  それは隼人が三鶴のすべてを飲み尽くしている証拠だ。見はしない、聞きはしない。  三鶴はもう自分だからだ。三鶴のすべてを飲み干して同じ生き物になっているからだ。  隼人はもう、三鶴の腹の中に取り込まれて、とろけている。  隼人が三鶴を呼び寄せ、絡め取る。地球に産まれたことを祝福する。  熱い飛沫がすべてを浄めるかのように、白く瞬いた。

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