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第2話
東雲は、一泊数百万するスイートルームを商談用に毎回用意する。けれど、モダンな内装に相応しい質のいいソファーに座り、商談することはない。
代わりに使うのは、二つ置かれたダブルベッドのどちらかだ。今日は窓側のベッドだったから、壁側はまだ使われていない。
今度はそっちを使う気なのか、それともさっきまで使っていた方なのか。恐らく東雲の性格上、前者だろう。
いつもは紳士的なのに、こういう時はしつこい。単純に抱きたいだけなのだと透けて見えるが、本人は必死で気づいてないのだろう。まだ一緒にいたいという裏側にはセックスが存在する。そうやって、大抵はいつも予定時間よりもオーバーして商談は終わる。
「もう一反ということですか?」
「もちろん。反物の一反や二反、キミとの時間が増えるなら安いくらいだよ」
背後から抱かれ、前に回った手が厭らしく胸を掠める。
「んっ……。ちょっ……とっ……ダメだって……」
次第に荒くなる息が耳元で聞こえる。触りたいだけと言いつつ、あわよくば挿入まで持ってく気なのだろう。既に硬く勃った胸の突起を摘みながら、もう片方の手が太ももをなぞり様子を伺う。
「今みたいに、抱くと敬語じゃなくなるのがたまらないんだ。キミの中を覗けたみたいで嬉しい」
気持ちよくなると前後不覚になるだけで、別に覗かせたつもりはない。厭らしい言い方が全てを台無しにしていると気づいてない東雲が、優越感に浸りながら誘う。
「だから、どうだい?」
どうもこうもないと口には出さず、代わりに身を捩りやんわりと掴まれていた手を外した。
「今日は帰らないといけないので、また今度」
資産家の東雲は、年齢が五十はとうに越してるのにジム通いを欠かさないらしい。その成果なのか、足腰もしっかりしている。適度に筋肉が付いた腹筋も雄を感じさせ、厭らしい色気が漂う。いまだに現役の下半身を擦り付けられると、既に熱を持ち硬く形を変えていた。それに気づかないフリをして、後ろ手にウエストのラインをひと撫でする。
「仕方ないな。じゃあ、次は和服姿のキミを抱きたい。いいだろ?」
どんなプレイを強いられるか考えたくもない。それでも取って付けたようにはらりと笑み浮かべ身体を反転させ向き合うと、期待するようにもう一度腰から下半身へと手を滑らせた。
「……上質な反物が揃ったら、ご連絡差し上げます」
「まったく……キミは魔性だな。そこがまたたまらないんだけど」
「ありがとうございます」
めんどうな会話をぶった切るように礼だけ言って、もう一度営業スマイルを浮かべた。
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