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第10話
「……っ……ふ、んっ……今日は……どうっ……」
「今日はどうしてしつこいかって?」
「いや……そこまでは……いって……な……ん、あっ……」
親父から見合い話をされて数日後、質の良い反物が数本揃ったこともあり東雲に連絡をすると、いつも通りホテルへ呼び出された。今回のホテルは老舗百貨店加賀屋が経営しているので、どこか和洋折衷な趣きが漂う。しかも今日の部屋はベッドルームの他に和室もあり、床の間には高そうな水彩画の掛け軸が掛かっている。恐らくスイートルームなのだろう。毎度毎度よくもまあこんな高い部屋を用意するのか、俺には理解ができない。
「しつこくしているつもりはないんだけどね……っ……どうもキミを抱くと欲張りになってしまうんだよ……もっともっとってねっ……」
ベッドが軋む音と混ざるように、荒い息遣いのままの東雲が腰を振る。奥に届くように突き上げながら丹念に身体を開き、どうにか心まで手に入れたいと透けてみえるのが厭らしい。東雲に抱かれている時は快楽を最優先させ、他には何も考えないようにしている。もちろん、心など伴わないし圭を重ねたりもしない。考えたところでロクな思考に辿り着かないからだ。
「だったら……っ……忘れ……」
「どうした?」
「いえ……」
だから、東雲ごときに圭のことを忘れさせて欲しいなんて思わない。なのに、なのにだ。シーツを掴む手を絡め取られながら、思考は少しずつ破壊されていく。
「忘れたい女でもいるのかい?……いや、男かな?」
東雲にしては勘が鋭いと思った次の瞬間、不意打ちに口を唇で塞がれた。心は伴わないと誓っているのに、今日の俺はおかしい。生温い舌が蠢き咥内を荒らされながら、その理由を考える。
多分……いや、絶対そうだ。圭がふらりと実家に帰ってきた時に抱きしめられた、アレが原因だ。
「……っ……そんな人……いません……」
口では否定しても身体は素直に反応してしまう。中が締まったと言われ、これ以上無理だと身体を離そうとすると、更に奥まで突き上げられた。
「……っ……もうっ……」
「素直だね、身体も心も。だから手放せないんだよ」
気持ち悪いことを言われているのに、身体はいつも以上に感じてしまう。圭に抱きしめられたように東雲に抱きしめられ、泣きたいほどに想いが募るのに、太く硬いソレに突かれる度に圭ではない他の男によって快楽に落ちていく。ダメだと思う度に、自分から腰を押し付け求めてしまう。
「東雲っ……さ、ま……」
「いいよ、啓吾 って呼んで……」
よりによって東雲の下の名前は啓吾 だ。気が遠くなる最中で耳元で囁かれ、催眠術にでもかかったように俺はその名前をすんなりと口にした。
「け、い……」
決して抱かれることのない、好きで好きでたまらない男の名前を……。
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