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「ご入学おめでとうございます、お名前を伺ってもよろしいですか?」
メガネをかけた真面目そうな生徒が、人の良い笑みで問いかける。
暗い緑の髪にいわゆる糸目。派手ではないが地味でもなく、なんとなーく見覚えがあるような、ないような……。
なんて、考え込んでいる場合ではないか。
「橘伊吹です」
「橘くん、橘くん……。ああ、ありました。キミの部屋は西棟六階の六〇三号室ですね。あちらのエレベーターから上がってください」
メガネの生徒が指し示した方向を見れば、自室に向かおうとする新入生たちが、到着したエレベーターにギュウギュウと押し込められているところだった。
どうやら、重量オーバーのブザーが鳴る一歩手前まで人を乗せているらしい。
これだけの新入生が一堂に会しているのだ、あのくらいしないといつまで経っても捌ききれないのだろうが……。
狭い空間で、名前も知らない誰かと肌が触れ合う距離に置かれるのは、ちょっと嫌だと思う。
まぁ、階段で六階まで登るのも、ここで待ちぼうけを食うのも嫌だから、文句は言わないが。
「各階のエレベーターホールには係の者が待機していますので、何かあったらお声がけください」
「ども」
軽く頭を下げてから、エレベーターの方に向かう。
順番待ちをしながらフロア案内表を眺めて知ったのだが、学生寮は西棟と東棟に分かれており、双方七階まであるらしい。
二つの棟はこのエントランスホールと渡り廊下で繋がっているとのことだが……何かの拍子に間違えたら、確実に迷子になれるだろう。
「こちら、西棟に向かうエレベーターです! 東棟に向かう方は間違えないようにしてくださーい!」
エレベーター係と見られる上級生が、大きな声で呼びかける。
フロアごとに係の人を待機させるくらいだから、毎年よっぽど迷子が出るのかもしれない。
数回エレベーターが行ったり来たりした後に、俺はようやくその中に押し込められた。
鮨詰め状態の箱内に会話はなく、誰もが移り変わる回数表示を見上げている。
この学生寮は七階まであると先ほど言ったが、各フロアはこんな風に分けられている。
一階には食堂や大浴場といった施設が入っており、二階と三階に三年生、四階と五階に二年生、六階と七階に一年生の部屋があるのだ。
ゲーム内では生徒数が多い程度にしか触れられていない部分だったのだが、こうして実物を見ると圧巻である。
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