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目的地に着いたことを知らせるチャイムが鳴り、開いた扉から我先にと人が出て行く。
その波から遅れないように六階に降り立った俺の背後で、エレベーターの扉が閉まった。
ギリギリセーフという奴だ。
やはり一階と同じように、絵画なんかの高そうな装飾品で飾られていたエレベーターホール。
ソワソワと落ち着きなく廊下を見回していた俺たち新入生の耳に、突如としてどデカい声が突き刺さった。
「ようこそ、ミネルヴァ・アカデミー学生寮へー!」
キーンという耳鳴りの音がする。
驚いて耳を塞ぎつつ、声のした方向を見れば、そこには片手に拡声器を持ち、もう片手で手作り感溢れる手旗を振る男が立っていた。
真っ黒の髪に金の猫目。軽薄そうな印象の男だが、ゲーム内では見たことがない。
「この階の案内係、風紀委員の猫俣 礼央 だニャー! よろしくネ新入生諸君!」
至近距離で拡声器を通して話す猫俣。
なんだコイツ俺たちが耳塞いでんのが見えないのか? アホみたいな満面の笑み浮かべてっけどやめろソレ。つーか風紀委員って言ったか?
風紀委員というと、西園寺シナリオの中に少しだけ登場した気がする。
確か、雨宮に手を出した西園寺親衛隊の過激派隊員を断罪するイベントで、風紀委員会が事件の調査に乗り出していた。
シナリオに直接関わって来るのは風紀委員長と副委員長のみで、その他のメンバーがどんな奴か明かされてはいなかったが……。
この奇妙な男が風紀委員だと言うのなら、他のメンバーもぶっ飛んでいる可能性がある。
そこまで考えて、はたと思い出した。
エントランスホールで受付をしていた眼鏡の男。あの男は副委員長じゃなかったか?
糸目眼鏡キャラで紳士的な副委員長と、豪快でまさに漢! と呼ぶに相応しい風紀委員長。
出番が少ないにも関わらず、この対極的な性格のおかげで、一定の人気があるCPだと姉貴が話していた。
「この学校、校舎も寮もちょー広いっしょ? キミたちが迷わないように、しっかり案内してあげるニャ!」
猫俣が拡声器を通して喋るたびに、空気がビリビリと揺れる。
どいつもこいつも耳を塞いでいるが、得体の知れない上級生に声をかけるつもりはないらしい。
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