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プロローグ2 ティム十歳
オレは十歳になった。
人型になると、ノンの上半身とほぼ同じ姿だ。オレはよく人型になる。ドラゴンの姿と半々くらいだろうか。
オレとノン、双子のような人型の子ども二人は、ドラゴン族の中では異端だ。そもそも普段から人型をとるドラゴンはそういない。奇異な目で見られるが、オレにはそれをねじ伏せるだけの力がある。
もちろん完全憑依も出来る。
ノンがオレの中に入ると、ノンの気配と意識が体中を駆け巡り、オレと同化して行く。血が沸き立つような感覚とともに、人型の上半身にはドラゴンの翼が生え、下半身は蛇のようにうねり龍となる。オレの体がノンの姿になるんだ。そしてオレはティムノンとなる。
ティムの時よりも大人で獰猛。荒ぶる気持ちのまま戦うティムノンに勝てるのは、親父とおふくろくらいだ。
十歳にして、魔力の量も強さも成体のドラゴンに引けを取らないからな。契約精霊を持たない普通のドラゴンに負けるはずがない。
そもそも、基本、ドラゴンの精霊は王族としか契約をしない。
伝説のドラゴンの精霊は個体数が少なく、一種一体で全部で二十体ほどしかいないからだ。精霊は魔力の多い者を好むので、どうしても契約者は王族中心になってしまう。
魔族が契約する猫科動物の姿をした精霊には、同じ種類の個体が何匹もいるようだが。まぁ、伝説のドラゴンの種類自体がそれほど多くないので仕方がない。
猫科動物のように簡単に繁殖出来るものでもないしな。精霊もその姿と同じような生態になるようだから。
ノンには、テュポンとしての記憶がある。ドラゴンの精霊は、伝説のドラゴンの生まれ変わりのような存在らしい。遥か遠い昔、神話の時代に存在した伝説のドラゴン。それと全く同じ存在ではないが、そのドラゴンだった自覚はあるようだ。
ノンは幼いオレに、テュポンの妻だったエキドナの話をよくした。
「エキドナはテュポンの番だよ。テュポンだった私の唯一だ。だが私は今、ノンだからね。おそらく精霊にノンの番もいるはずなんだよ。で、その契約者がティムの番なんじゃないかな?」
「オレの番か・・・本当にいるのかな?会えば分かるもんなの?」
「分かるよ。コイツしかいないって。自分の唯一はすぐに分かる。
私の番はドラゴンの精霊の中にはいない。だから魔族の国の猫科動物の姿をした精霊の中にいるんじゃないかと思ってるんだ。ティムの番も魔族なんじゃないかな?」
「魔族か・・・人型だと男の方が好きだな。ノン、番が男でもいい?」
「精霊には明確な性別がないからね。一応契約者の性別と同じ性になっているけど、雄でもあり雌でもあるんだ。だからティムの番が男でも女でも私には大差ない。」
「ふうん?まぁ、どっちでもいいか。番は番だもんな。あぁ、早くオレも番に会いたいな。」
「そうだね。けど今のままじゃ魔族の国に行けないよ?この最南の島だけに閉じこもっていないで、他のドラゴン族と交流を持つべきだ。そうやって外に出れば魔族とも出会えるかもしれない。」
ここは最南の島と呼ばれるドラゴン王族が統治する島だ。鎖国状態で、他のドラゴン族との交流もない。昔から伝説のドラゴンの精霊は、あまり多くの者に関わるのを嫌う傾向にある(ノンを除く)。
魔族の国の近くにドラゴンが住む谷があるというが、トラブルばかり起こしているので、こちらからは干渉しないようにしているみたいだ。
「う~ん、おふくろの家出に付き合ってみようかな?」
おふくろの家出は趣味みたいなもんだ。この最南の島だけでの生活に息が詰まると家出する。そしてあちらこちらを旅しているようだ。
「それもいいかもね?」
オレはオレの番にいつ会えるのかな?
早く会いたいな。
オレの唯一に。
オレだけの番に・・・
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