16 / 50
ピクニック エナ2
ドナと憑依した僕と、ドラゴン姿のティム、ノンは、空を飛んで草原から砂漠を横断した。
空の旅は快適だった。ドラゴンと伝説のドラゴンの精霊が飛んでいるから魔物もまったく近寄って来ない。普通ならコカトリスや、下手したらワイバーンの群れに遭遇するのに。
しばらく飛び続け、少し疲れて来た僕にティムは、
「オレに乗る?」
って言ってくれた。
「い、いいの?」
「もちろん。ほら、この上に乗るといい。」
いつの間にかティムの首に近い背中には、鞍のような物が付けられている。
「いつの間に?!」
「アイテムボックスから今出した。ほら、取れないように魔法をかけてるから、その騎乗具にしっかりつかまって。」
ティムの体は大きく背中の中心に跨がる事は不可能だけど、首に近く細くなっている部分なので辛うじて跨がれた。ちょうどいい高さに持ち手があったので、しっかりとそれをつかむ。足も自然と固定されていた。これも魔法なのかな?
「うわぁ!すごい、すごい!物語の主人公になった気分。」
子どもの頃に夢中になって読んだ、ドラゴンに乗って旅をする少年の物語。僕は今、その主人公と同じ事をしている。感動だなぁ。
「ふふ、少しスピードを上げるよ。しっかり捕まってて。」
そう言ったティムは、少しどころではないスピードで飛んで行く。ちょっと怖くなってティムの首にしがみついてしまう。
あっという間に目的地のオアシスに着いた。
「エナ?着いたよ。大丈夫か?」
ティムに声をかけられて、すでに地上に下りていた事にやっと気付く。
ノンが僕の目の前に浮かんでいて、ティムに向かって文句を言った。
「ティム、エナにいい所を見せたいからって張り切りすぎ。ドナが怖がってるじゃないか。かわいそうに。ドナ、おいで?」
フッと憑依がとけ、ドナが僕の中から飛び出し、ノンの手の中に収まった。
「ふにゃ~ん!ノン、ボク怖かったよぉ~」
ノンにグリグリと頭を押し付けるドナ。
そ、そうか、ああやって甘えるのか・・・うん・・・無理。
普通のエナに戻った僕だが、まだティムの首にしがみついているのに気付き慌てて手を離す。
「ごめん!苦しくなかった?」
「全然。ずっとしがみついてて欲しいくらいだ。」
ティムの体が光り、徐々に小さくなっていく。びっくりした僕は目をつぶって再度ティムにしがみついた。
光りがおさまったのでそっと目を開けて見ると、僕は人型のティムに背負われていた。
「えっ?!ちょっと、ヤダ、下ろして?」
ティムはしゃがんで僕を下ろしてくれたが、次の瞬間には抱きしめられた。
「やっぱり人型の方が、こうやってエナを抱きしめられるからいいな。」
真っ赤になってうつむく僕に、ティムは優しくキスをする。軽く啄むように何度も何度もキスされる。
「これ以上すると、キスだけでは治りがつかなくなるから止めておこう。まったく精霊はいいよな。ほら、あいつらもう精神的に繋がってるよ。」
ふにゃふにゃになってるドナを見てまた赤面する。
「エナ、あっちに綺麗な泉があるんだ。行こう。」
そう言って僕の手を取るティム。慌てて僕も立ち上がり、二人で泉まで歩いて行った。
そこは本当に綺麗な泉で、周りには緑がいっぱいだ。色んな果物もなっている。
「うわぁ!本当に綺麗だね。あっ、桃がある。僕好きなんだ。」
ティムがひょいと当たり前のように桃を数個取ってくれた。
「ティムありがとう!」
「どういたしまして。泉に浸しておけば冷えて美味いんじゃないか?」
「そうだね。そうするよ。ねぇ、お弁当食べる?」
「もちろん!」
「じゃあ、ここで広げちゃおう。ドナとノンはおやつの時間まで放っておいてもいいよね?」
「あぁ、寧ろ邪魔するなくらいの感じだろw」
ーーーーーーーー
ドラゴンの姿について。
ドラゴン族は、西洋のドラゴンの姿をしています。
ドラゴンの精霊は、基本伝説通りの姿で、大きさは猫科の大型猛獣程度。
完全憑依した際には元の大きさに戻りますが、巨大過ぎたり、醜悪な姿の場合は綺麗めで程よいサイズに変えている設定(ノンはこのパターン)です。
また、この物語では、龍という文字の場合は東洋の長いドラゴンの事になります。
ルコ
ともだちにシェアしよう!