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マジョリカ〜湖畔の城 エナ2

 「ランさん、僕今日はリン兄に会いに来たんです。上にお邪魔しますね?」 「あらそうなのね。じゃあ、店の残り物を詰めておくから、帰りに取りに寄りなさい。今、マヤさんはお休み中よね?けど、どうせアキさんは何もせずにエナちゃんの帰りを待ってるんでしょ?」 「わぁ!ありがとうございます。その通りなんですごく助かります。」 そう、父さんって全然家事をしないんだよ。 母さんは僕を産んで一年後くらいに亡くなってしまったし、コウ兄はリン兄と結婚してここに住んでいるから家には僕と父さんだけ。 昔から通いで来てくれているお手伝いさんのマヤさんがいるんだけど、今は一週間ほどお休み中なんだ。初孫が産まれたんだって! ランさんもマヤさんとは知り合いだから初孫の件も知っていたのだろう。  僕はランさんにお礼を言って、二階のコウ兄とリン兄の家に行った。 「こんばんは~エナです。」 「いらっしゃいエナ、ドナ。上がって?」 リン兄が迎えてくれる。ランさん直伝の美味しい紅茶を淹れてくれた。お茶請けには、これまたランさん特製のマカロン。 リン兄はマカロンを精霊用にも用意をしてくれていた。ドナはネルとともに少し離れた場所に置いてあるクッションにもたれ、マカロンに齧り付いている。 ネルはユキヒョウ。白い猫科動物二匹が一緒にマカロンを食べる姿は微笑ましい。兄弟みたいだね。 「リン兄、ティムに聞いたんだけど、湖畔の城の宿泊の権利を譲ってくれたんだって?本当にいいの?コウ兄との記念日とかに押さえてたんじゃないの?」 「いきなりだなぁ。 僕はエナからまだ何の報告も受けてないんだけど?」 「えっ、あ、うん。あの・・・僕、ドラゴン族の王子、ティムと付き合う事になったんだ・・・」 「うん。良かったね。おめでとうエナ。僕は応援するよ?コウとアキさんはどうか分からないけど。」 「やっぱりコウ兄は反対してるのかな・・・?」 「う~ん、反対と言うより心配してるんじゃない?だってティム様は一か月したら最南の島に帰るんでしょ?後、半月ほどか。次に来るのは一年後。その間エナはどうするの?」 えーっと、そうなんだよね。分かってたんだけど、色々いっぱいいっぱいで考える暇がなかったというか・・・ 「・・・どうしよう?」 「ほら、そういうとこをコウは心配してるの。」 「・・・はい。」 「別れる気はないんだよね?なら、ついて行くか待ってるかの二択しかないよ。エナはどうしたいの?」 「そりゃ、ついて行きたい気持ちはあるけど・・・現実的に考えたら厳しいと思う。エドナ診療所もいきなり辞めたくはないし、ドラゴンだけが住む島に行くのも正直不安。」 「だよね?そういう事を話し合ってる風に見えないからコウは心配なんじゃないかな。僕だって心配だよ。それにティム様は王位を継ぐの?それならエナは王妃様になるんだよ?その覚悟もあるの?」 そうか、その可能性もあるんだ。本当に何も考えてなかったな。 「・・・ごめんなさい。なんて言うか、僕、いっぱいいっぱいすぎて先の事を考えるのを放棄してた。」 「まぁ、分かるけどね。湖畔の城で初体験するつもりなんでしょ?その後で話し合えばいいよ。」 ブハッ!紅茶吹いちゃったよ! 「リン兄!そんなあからさまなっ!」 「だってそうなんでしょ?だから宿泊の権利を譲ったんだよ?」 「・・・本当に譲ってもらっていいの?」 「いいよ。僕たちは何度も泊まってるからね。可愛い弟の初体験に協力してあげる。」 は、恥ずかしいんですけどっ?! 「その代わり、帰って来たらちゃんとアキさんに報告するんだよ?僕とコウも行くから、今後の話をきちんとしよう。 だからそれまでにティム様とも話し合いをする事。分かった?」 「はい。ありがとうリン兄。」 僕には母さんの記憶はないけど、物心ついた頃からはリン兄が母さんみたいな存在だった。だって父さんもコウ兄も脳筋寄りでちょっと残念な感じだったから。その三択ならいつも冷静なリン兄に相談するよね? 本当にリン兄は頼りになる。ここにコウ兄が居なくて良かった。居たら絶対感情的になってうるさいし。 僕は改めてリン兄にお礼を言い、ランさんに残り物を詰めたお弁当を頂いて、家に帰った。  案の定何もしないで僕を待っていた父さん。 「ただいま。ランさんにお弁当もらって来たよ。」 「ん?お帰り。コウの所に行ってたのか?」 「うん。正確にはリン兄に会いに行ったんだけどね。父さん、今週末の夜は空けておいて?僕、紹介したい人がいるんだ。」 「・・・嫌だって言ったら?」 「もうっ?!子どもじゃないんだから嫌とかはなしっ!!」 「分かった・・・嫌だけど。」 はぁ、父さんが面倒くさうざい。

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