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マジョリカ〜湖畔の城 エナ3
あっという間に週末になった。午後の診察時間も終わり診療所を閉める。
「よし、じゃあ行こう。今ならまだ夕焼けが見れる。」
ティムがそう言って僕の腰を抱いた。ドナも当然ノンの腕の中だ。次の瞬間、僕たちは湖畔の城の塔の最上部にいた。
「うわぁ・・・」
空と同じようにピンク色に染まった湖が、息を呑むほど美しい。沈む夕日が水面にキラキラと反射し、だんだんと暗くなっていく湖畔の景色を写している。
「すっごく綺麗・・・それ以外の言葉が出てこないね。」
「ふふ、良かった。まぁ、オレはこの景色よりエナのその顔の方が綺麗だと思うけどな。」
「もう、何言ってんの・・・んっ!」
ティムにキスをされる。僕を愛おしむような優しいキス。嬉しくなって、僕はギュッとティムを抱きしめた。
「こら、煽るな。夕飯も用意してくれているから、食べてからな。覚悟はいい?」
「う、うん。」
ちょうど夕日も沈みきって、夜空に月と星が輝き始めた。今日は三日月か。満月より三日月が好きな僕は何となく得をした気分になって、しばらく夜空を見つめる。
「そろそろ行くよ?」
「うん。僕、ティムとこの景色を見れて良かったよ。ありがとう。」
「・・・だから煽るなってっ!!」
え~?お礼を言っただけなのに。
塔を下りて城の中に入る。支配人のコイルさんという年配の魔族が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お部屋に食事の用意が整っていますよ。」
部屋にコイルさんが案内してくださったんだけど、正直逃げ出そうかと思った。
だって、超VIPなスイートルームなんだよっ?!部屋の中に部屋がいくつもあるんだよ?コウ兄とリン兄、いつもこんな豪華な部屋に泊まってるの?!
恐る恐るコイルさんに聞いてみると、
「リン様にはいつもお世話になっておりますので・・・」
と、言葉を濁された。う~ん、社員割引的な特典かな?
出された食事もすごく豪華で美味しかった。盛り付けも綺麗で前菜からテンションが上がりまくりだ。メインにティムはステーキを選んだけど、僕はオマール海老のテルミドールにしてもらった。大好きな海老をたっぷり食べて大満足!
デザートまでしっかりと堪能し、給仕まで担当してくださったコイルさんと、スタッフの方々にお礼を言い部屋を移る。
流石に食べ過ぎたからちょっと休けい。ティムとまったりしながら過ごす。ドナとノンはすでに一部屋にこもっている・・・早いなっ!
「ねぇ、ティムは後十日ほどしたら最南の島へ帰っちゃうんだよね。」
「あぁ、その話も今日はしようと思っていた。エナ、オレと一緒に最南の島に来てくれないか?」
「僕も考えてたんだけどね。行きたい気持ちはあるけど、エドナ診療所もあるし、急には無理だよ。父さんも心配だし。ティムは一年後にまたこっちに留学して来るんでしょ?それまで待ってるか・・・」
「エナっ!オレの話を聞いて?瞬間移動でこっちに連れてくるから!週の三日はこっちで診療所も開けて、後半の四日は島でオレと過ごすっていうのはダメ?」
「う~ん、せめて逆。週四で診療所は開けたい。けど、そんなに瞬間移動して大丈夫なの?かなり遠いから魔力もすごく使うでしょ?」
「本当なら週に二回、前半と後半に一回ずつ連れて来てやりたいけどな。一日に往復するのが毎週二回続くと流石に魔力的に辛いと思う。」
「やっぱり一年くらい待つよ。何回かは会いに来てくれるんでしょ?」
「そりゃ、もちろん来るが・・・やっぱりダメだ。そんなに離れてられない。」
「そんな事言ったって・・・あっ?!」
「??」
「ワープポイント!!あれ、最南の島と繋げないのかな?」
魔王城と主要な場所はワープポイントで繋がってるんだ。この湖畔の城にもワープポイントがあるらしい。
魔族で瞬間移動が出来るのは、魔王様、前魔王、カグヤ様、そして次代の魔王候補のショウくん、カグラちゃん、ルイくんだけだからね。けどワープポイントなら誰でも使える。
「ワープポイントか!考えてもみなかったな。あれは誰が考案したんだ?どういう原理で繋がってるんだろう?」
「確か、考えたのはロム先生のはず。ランさんの旦那様でルイくんのお父さん。そしてリン兄の師匠の建築学の先生だよ。ランさんは再婚だからリン兄のお父さんは別なんだ。」
「なら、リンに聞いてみるか。もし、最南の島ともワープポイントで繋げる事が出来たら、問題は解決する。よし、この話はここまで。
・・・エナ、目的を果たすよ?」
急に色っぽい目で見ないでっ?!
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