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マジョリカ エナ

 ティムは本当にワープポイントを最南の島へ設置する許可を取って来た。 設置するのはリン兄。ティムが最南の島へ帰る時に一緒に行く事になった。もちろん僕も。 父さんはまだ渋っているけど、ティムが約束通り魔王様からワープポイント設置の許可を取って来たし、それを使って週に二回はこっちに戻ってエドナ診療所を開ける事、その内の一回は実家に泊まる事を条件に何とか許してくれた。 最初にリン兄が一緒に行くってのも大きかったみたい。   そして今日はマジョリカでティムのお母様、ローゼ様に会う日だ。ランさんが「どうせならアキさんとコウくんとリンも参加したら?」って言ってくれたので、ティムと僕を含めた五人と世界最強女性四人でのお茶会となった。 コウ兄とリン兄はマジョリカの上に住んでいるので、僕とティムと父さんでマジョリカに行く。 「いらっしゃ~い。ティムくんは初めましてね。ランです。奥に居るリンと、王宮に居るルイの母よ。こっちは契約精霊で豹のファー。よろしくね。」 「ランさん初めまして。ローゼの息子のティムです。こっちは契約精霊でテュポンのノン。リンにはこれからかなりお世話になると思います。」 「ワープポイントを設置するんだってね?エナちゃん良かったわね。アキさんもそれなら何とか納得ってとこでしょ?」 父さんは無言だ。無視して話を進める。 「ランさん、今日はありがとうございます。この為にマジョリカを貸切にしてくださったんでしょう?」 「まっ、私もお喋りに参加したいからね。」 そう言って笑いながら、奥の席に案内してくださった。 うわぁ・・・緊張するなぁ。すでに座っているコウ兄とリン兄も顔が強張っている。ごめんね、こんな面子のお茶会に参加させて。 「エナちゃん?私がティムの母のローゼよ。こっちは契約精霊のリヴァイアサンで名前はスー。ティムを受け入れてくれてありがとう。息子をよろしくお願いします。」 「ロ、ローゼ様?!やめて下さい。こちらこそよろしくお願いします。ドラゴン族の事もよく知らない魔族の僕が、王子様であるティムについて行くなんてご不快ではないですか?」 「何言ってるの?そんな事、息子がやっと見つけた番に思うわけないじゃない!安心して?夫のボビーも、ティムの妹のレニも弟のマニも、エナちゃんを大歓迎してるから。」 「あ、ありがとうございます。」 良かった・・・安心して気が抜けちゃったよ。ていうか人型のローゼ様、絶世の美女なんですけどっ?!リヴァイアサンも猫科の大型猛獣と同じくらいのサイズになっているけど、すごい迫力だ。 横を見ると、優しく微笑んでいるティムと、惚けた顔の父さん・・・?父さんどうしたのっ?!ローゼ様に見惚れてるの? 「とりあえず座りましょ。何飲む?お茶請けに色々出してるから適当につまんでね。」 ティムと父さんはコーヒー、僕はミルクティーを頼んで空いている席に座る。 まずはカグヤ様にあいさつだ。 「カグヤ様、今日はお茶会に便乗させて頂いてすみませんでした。」 僕に続いてティムもあいさつをする。 「カグヤ様、最南の島以来ですね。今日はありがとうございます。」 「いいえ、逆に楽しみにしてたんだから。エナ、おめでとう。それに・・・ふふっ、面白い事が起こりそうよ?」 ??面白い事って? あっ、とりあえずエリン様にもあいさつしなきゃ。 「エリン様、初めましてエナと申します。イアンくんのお母様なんですよね?」 「エナ?ワタシがエリンだよ。こっちは黄龍のリンゼ。よろしくねっ!」 何と言うか、人型のエリン様は可憐で儚げな美少女だった。本当にイアンくんを産んだのっ?! 「エナ、騙されるな。エリンはこのまま無邪気に微笑みながら国の一つくらい余裕で破壊するぞ?強さもおふくろやカグヤ様に引けを取らない。」 「もうっ!ティムうるさい!ワタシはエナちゃんと喋ってるの。まったく・・・捻り潰してやろうか?」 頬を膨らませながら喋る姿は本当に可憐なのに、言っている事は物騒極まりない。 「エ、エリン様とおっしゃるんですか?俺はエナの父でアキと申します!!こっちは契約精霊でアジアチーターのフィーです!」 えっ??・・・父さん?! キョトンとした表情で父さんを見るエリン様。めちゃくちゃ可愛いのは確かだけど・・・マジで惚れちゃったりしたのっ??!!! カグヤ様もランさんもローゼ様も生暖かい目で見守っている。 ティムは何か言いたそうだったが、ローゼ様に睨まれて口を閉ざした。 僕とコウ兄、リン兄はあまりの衝撃に言葉が出ない。 いつの間にか父さんとエリン様を残して、カグヤ様とローゼ様は隣のコウ兄とリン兄がいるテーブルに移動していた。 慌てて僕とティムも移る。 ローゼ様が、エリン様は成人したての頃、イアンくんとミランちゃん(イアンくんの双子の妹)の父親に騙されるようにして卵を産んだ後、その父親が嫌すぎてドラゴンの谷を出た話をしてくださった。 「ドラゴン族のババ様が育ててたイアンとミランの事は、気にして時々見に行ってたみたいだけどね。それからずっとエリンは男に興味ないの。だからアキさんが頑張ってくれたら嬉しいわ。」 ローゼ様の言葉にティムが反応する。 「しかし、無邪気な破壊兵器の異名をとるエリンだぞ?見かけに惚れてどうにかなる相手じゃない。う~ん、男気がある父君ならなんとかなるのか?」 だんだんと衝撃から立ち直って来た僕たち三人もコソコソと話をする。 「いいんじゃないかな?親父もおふくろが亡くなってからずっと一人だし。一目惚れしたのなら応援してやりたい。」 とコウ兄。 「そうだね。エリン様はなかなかにすごいドラゴンみたいだけど、アキさんなら大丈夫な気がする。」 リン兄も賛成のようだ。僕も反対する理由はない。 「もし、エリン様が父さんといてくれるなら僕も安心して最南の島へ行けるよ。」 まぁ、でもまだどうなるか分からないし・・・って事で、そっと見守る方向で、とこの場に居た全員の意見が一致した。  こうして僕とティムの親族初顔合わせは、父さんとエリン様の出会いの場となったんだ。

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