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第16話

動けない。 睨まれただけで。 汗が吹き出し、シャツが濡れていく。 ベータは自分が震えているのを知る。 「動くな」 アルファは命令した。 本能が身体を動かせなくする。 ベータは本能とは無関係だと思ってた。 本能なんてモノに振り回せるのはアルファとオメガだけだと。 ちがった。 ベータもだと知る。 アルファへの憧れや恐怖や威圧感は。 本能から来ていたのだと理解した。 「知らないよな。アルファが本気を出せば、ベータは逆らうこともできない。動けなくなるんだよ。ベータのためにアルファは黙ってる。知らない方がいいだろ?アルファのための下僕が本能なんだと。そう、アルファの命令に従うのはベータの本能だよ」 アルファは笑った。 「まあ、そんな本能など使わなくても、いくらでもベータを従わせられるし、アルファは最初からベータ等相手にしない。アルファが競うのはアルファだけ、そして、愛するのはオメガだけ」 アルファはそう言うと、足元で裸で震えているオメガの髪を掴んで引きずりおこした。 破かれた服と手首や肩にある指の跡。 恋人が暴力を振るわれたのは確かだった。 アルファは椅子に座ったまま、オメガを膝に抱き、顎を掴んで顔を覗き込む。 恋人の美しい顔には殴られた痣があった。 それに怒りを感じたが、でもベータは動けない。 動くなと言われたから。 僅かに腕は動く。 頭も動く。 でも、脚が動かない。 動かないのだ。 自分のモノではないかのように。 「可愛い私の番。やっと取り戻した」 アルファは目を細め、オメガの美しい髪を撫でる。 「お前を手に入れるために、私は最初に何をしたのか覚えているか?」 アルファは言う。 オメガは震えた。 泣いていた。 怯えきっていた。 「お前の幼なじみのアルファを殺したのだったな。覚えてるか?」 その言葉にオメガが悲鳴をあげた。 「違う違う違う違う・・・」 オメガがガタガタ震えていた。 その話は聞いてなかった。 犯されたのだとは聞いた。 家族を人質にとられたのだとも。 幼なじみのアルファがいたとは聞いたけど、殺されたとは聞いてない。 でも。 確かに。 オメガに恋人のようだったアルファがいたのなら、そのアルファがオメガを諦めるはずがないのだ。 そして、アルファはアルファを一番警戒する。 生かしておくわけがない。 「お前は忘れたいのだろうけど、事実だよ。お前の前で殺しただろ?お前が誰のものか忘れないようにするために」 アルファはオメガの唇をなぞりながら言った。 まだ高校生でも、アルファはアルファ。 アルファは敵を許さない。 そういう風に殺したのだ。 「違う違う違う・・・」 オメガが壊れたようにさけぶから本当だと思った。 恐ろしすぎて忘れてしまった記憶なのだと。 「もう今度は忘れないようにしなければ。あの時みたいに沢山イかせてあげよう。初めてなのにお前は沢山イって可愛かったよ。あのアルファの目の前で。そしてあのアルファは死んだのだったな」 泣いて叫ぶオメガの口の中に指を入れて、かき混ぜていた。 オメガはその指を噛もうとしていたはずなのに、口の中を擦られ、舌をかき混ぜられ、ヒクンヒクンと身体が痙攣し始めていた。 番の指だと、オメガの身体が理解しているのだ。 一番嫌いな男なのに、オメガの身体はこの男のために反応してしまうのだ。 「今度はよりによってベータか」 吐き捨てるように言われた。 だが何を言われても、ベータの身体は動かない。 少し動く腕を必死にオメガへと伸ばそうとする、それだけが精一杯だ。 でもオメガは泣いた。 懇願する。 自分から指をしゃぶりもした。 お願い。 ころさないで。 この人を殺さないで。 お願い。 帰るから。 帰るから。 必死でアルファが口に入れる指を舐めしゃぶり、扱くように動く。 それがアルファのペニスであるかのように。 この人を殺さないでぇ!! オメガの声は痛切で。 でもそんなの意味ないと、ベータもアルファも思ってた。 「ダメだ。私のモノに手を出した以上は死ね」 アルファは言った。 オメガが泣き悲鳴をあげて。 アルファは笑ってオメガを床の上に組み敷いた。 そこから始まることをベータは見るしか無かった

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