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第5話
初めて会ったその日の夜から『エド』の連絡は頻繁に入るようになった。
ちょっと怖そうな人だなと思ったけど、メッセージアプリに送られてくる内容は面白いものが多かった。
『悠、これ何だと思う?』とか『甘すぎる』など日常生活の写真やドリンクの写真とメッセージが、日に何度も送られてくる。
悠は、ほぼ家から出ないで生活しているので送る写真はなかったが、『今日のごはんは何を作った』など送ると、食べてみたいという返信がきたり、『掃除が好きなので思いっきりやった』というと、俺は苦手と、面白いスタンプが送られてくる。
お互いの好きなもの、気に入っているもの、小さい頃の話、好きな映画など、メッセージアプリを通して話すことは楽しく、共通点もいっぱいあり二人で驚くこともあった。
毎日、毎日、深夜までやりとりが続く。悠はベッドの中で、声を出して笑ったこともあり、明日もまた連絡来るかなとか、あの話どうしたか聞くの忘れた、など彼のことを常に考えるようになっていた。
たまには電話してもいいかと聞かれたが、和真が家にいるので電話は出来ない。それでも彼は気にすることなく、『OK』とスタンプが送られてきたが、悠も直接声を聞き、話をしたいと思うようにもなっていた。
そんな生活が続いていた時、悠は和真に呼ばれた。
「悠、最近機嫌いいな。なんかあったか?」
「ううん。特に何も。変わらないよ」
とっさに『エド』のことを隠してしまう。和真に伝えると何を言われるかわからない。携帯電話を取り上げられたら、彼と連絡が取れなくなってしまうと、瞬時に考えたから隠してしまった。悠は和真の態度にビクビクしてしている。
「大きい仕事がまた入りそうなんだよ。悠さ、もう仕事を辞めて家にいろよ。じゃないとデザインする時間ないだろ」
デザインの仕事は罪悪感があるからもうできないというと、このままここを出ていくか、生活費を入れろと言われた。
いつか言われるだろうと思っていたので、それほど驚きはしなかったが、給料は全て家に入れているから手持ちはほとんどないのが現状だ。
だったら今すぐ出ていくか、塾をやめてデザインの仕事をしろと、続けざまに和真に言われてしまった。
どうしてこうなってしまったのだろう。デザインの仕事は後ろめたい、罪悪感がある。だけど、今すぐ出ていけるお金も場所もない。
ひとり部屋で考えていた悠のメッセージアプリがピコンと光った。
『エド』からの連絡で、『何かあった?』と書いてある。何も伝えていないが、彼は何かを感じたのかもしれない。
つい本音を伝えそうになったが、悠は『何もないよ』と返した。
塾講師の仕事は週に2日、それもなくなってしまう。どうしても仕事を辞めろと和真に言われ、さっき塾長に話をした。
急な話なので、「それは困る、オンラインの授業に切り替えることもできるから、自宅からでも仕事ができる」と塾長に言われたが、やはりそれも難しい。
後ろ髪をひかれるようだが辞めるしかない。申し訳ないと塾長に伝えると、いつでも戻ってきていいから落ち着いたら連絡して欲しいと言ってくれた。
このまま家に帰ったら外に出ることはほとんどなくなるだろう。
悠は、覚悟を決めて『エド』に連絡を取る。
『この後連絡が取れなくなるかも知れません。日本での生活で困っているのに、助けてあげられなくてごめんなさい』
と書いて送った。
メッセージを送った後によく見てみたら、『少しの時間でいいので会いたい』と彼からメッセージが来ていた。
恐らく二人同時に送信していたのだろう。なんだか、気が合うようで合わないのかなと、悠は苦笑いをした。
毎日楽しみにしていたことも無くなる。
メッセージが来るかなと期待して、そわそわしていたら必ず和真にバレてしまう。その前に、連絡を取らないようにした方がいいと悠は思い行動した。
少しの間だったけど、毎日楽しかったと思い出しながら、悠は家路を急ぐ。
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