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第11話
昼過ぎには荷物が届くから、早めに買い物に行こうと悠を誘った。車で家の近くのスーパーまで行くことにした。
そこは大型スーパーであり、輸入品の品揃えも豊富だ。食材だけではなく家電やキッチン雑貨なども揃っている。
隣に並んで歩く悠のつむじは、ワクワクしているように見える。
「何が食べたいですか?」
「へっ?」
突然話しかけられて、乙幡は間抜けな声を出してしまった。何が食べたいかと、乙幡からも悠に聞こうと思っていたからだった。
悠の好きなもの何でもいいよと、答えようとして言い留まる。何が食べたいかと先に聞かれたのは乙幡なので、悠は食事を作りたいと思っているんだとわかったからだった。
「んーっと、色々ある。日本食も食べたいし、ジャンクな物も好きだ。冷蔵庫空っぽだったろ?できれば色んなものを買い溜めしておきたい」
じゃあ…と言い、悠はあれこれ乙幡に確認しながら食材をカートに入れていく。確認された乙幡は、それは好きだとか、食べたことないから食べてみたいなど言いながらスーパーの中を歩き進む。
最初は探りながら乙幡に確認していた悠だったが、「こんなご飯は?」と具体的に言い始めた。
乙幡が「食べたい、今食べたい!」と、強く希望したので、悠が確認するほぼ全ての食材が、大きなカートの中にパンパンに詰まっていく。
インスタントの箱ご飯やシリアルは二人とも好きだが、冷凍食品は苦手だということもわかった。
みそ汁はここ何年も飲んでなく、おにぎりが食べたいという乙幡の希望も叶えてくれると言う。
「悠、ビール買いたい。他にも酒を買いたい」
炊飯器もキッチン雑貨も悠のエプロンも追加でカートに入れた。後は酒があれば完璧だ。これで当分食料には困らない。
「悠は今まであまり飲まなかった?」
「そうですね。たまに、水城ちゃんが家に来た時飲むくらいですね」
ふーんと言いながら、乙幡はワインを選んでいる隣で、ワインボトルに付いているラベルのデザインに悠は釘付けになっている。
「気になる?それ」
乙幡に声をかけられて、悠はハッと気がついたようだった。ラベルを長い間見つめていた。
「ラベルって綺麗なんですね。あまり見たことなかったから…猫とか描いてあってかわいいし、こっちはすごい高級な感じ。ボトルの曲線とデザインがあっていて素敵だなって思って…」
「じゃ、これも買おう」
ぽいっぽいっと摘み上げていくつか乙幡はカートに入れた。
「えっ、僕ワインわかりませんよ。美味しいとか、わかんないから…」
「いいんだよ。ラベルのデザインに惹かれて買うなんて生産者が知ったら、きっとすごく嬉しいと思うぞ。なんだろって興味からその先に発見する事は多いと思う。俺はそうやって買う事は、すごく好ましい。じゃあ行こうか」
無意識で、デザインを目で追ってるのかと、乙幡は改めて悠を見て思う。
最初は遠慮がちにしていた悠が、スーパーであれこれと想像を膨らませて、具体的なご飯の提案をしてきた。
それのどれもが好ましく、すぐにでも食べてみたいと乙幡を想像を掻き立てるものだった。
好みが似ているのもあるが、相手に想像させるように提案が出来るのは、デザインだけではなく言葉で伝えるのも、悠は上手いんだなと感じる。
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「疲れた?腹減ったよな。しまった、外で食べてくればよかった」
「せっかくこんなに買えたので、家で食べた方がいいですよ。すぐ作りますね」
どこにも寄らず自宅に真っ直ぐ帰ってきてしまった。近くで軽く食べてくればよかったと乙幡は後悔したが、キッチンに立っている悠は、真剣な顔をして、すぐ作ると言う。
さっき買ったエプロンをしているのが、更に可愛らしい。
「エド、すぐ食べたいですよね?あれ作ろうかな?すぐ作れるし…今は軽く食べて夜、色々作ろうかな…」
「いいよ。俺も夜は飲みながら食べたいな。もう少しで結構でかい荷物が届くんだ。だから、今は軽くかな。あれって何?」
「トマトスープとグリルチーズサンド。
ピーナッツバターとジェリーのサンドも付けましょうか」
「最高! 是非お願いします」
お腹が空いた時の、ど定番だ。ここ何年も食べていないが、聞いただけでお腹が鳴るくらい好きだ。
乙幡も手伝うとキッチンに入るが、手伝うのは夜のご飯でお願いしますと、悠に笑いながら断られた。
パンにスライスチーズを挟んでフライパンで中のチーズが溶けるまで両面焼いたグリルチーズサンドとトマトスープが、すぐにダイニングテーブルに並ぶ。
「悠、これ食べ方どうしてる?」
「えっと…浸して食べてました」
「俺も!」
あまりお行儀は良くないが、グリルチーズサンドはトマトスープに浸して食べる人もいる。二人同じ食べ方だから気にせず、浸して食べられる。
誰かと生活していく上、食事中や睡眠中などに感じる少しの不快が、大きな亀裂の原因につながる事がある。
相手の癖や感覚を、妥協をする事もなく一緒に過ごせるのは気持ちがいい。乙幡にとってそれは、非常に重要な事だと思っている。
「俺の友達は、グリルチーズサンドを両面焦げてるくらいの焼き過ぎが好きで、それを食べてるよ」
「そこまではないですね」
「だよな」
ほらな、またひとつ心地いいものを見つけたと乙幡は思っていた。
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