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第13話
ここに来てまだニ日目だもんな…と、乙幡は寝ている悠の髪をまたそっと触る。
さっき悠が携帯で撮って送ってくれた写真を乙幡は確認する。写真の中の悠は、はにかんでいる。
奥ゆかしいと言う言葉が合うなと思う。ついでに、寝ている悠の横顔をこっそり乙幡は携帯の写真に収めた。
ロッキングチェアをゆらゆらと揺らしていたら、そのまま二人で寝てしまった。
順応しているような、気を使っているような、悠の気持ちを考えると、なんとも複雑な気持ちでいた。
買い物に行っている時は年相応に見えたが、部屋着に着替えると少し幼く見えるのは、オーバーサイズの服のせいだろうか。悠の体が服の中で泳いでるように見える。乙幡はそのまま寝ている悠をもう一度見た。
男を腕の中で眠らせるのは初めてであり、どちらかというと考えたこともなかったが、悠に限りしっくりとくるのは何故だろうかと乙幡は考えていた。
(さっきも、買ってきたエプロン見て、可愛いと思ったし…なんなんだこれ)
そういえば昨日は手を繋いで寝ていた。
女を横に寝かせている時も、手を繋いだり、腕枕をしたりは煩わしくてしないなと、乙幡は苦笑いをする。
日本とアメリカのミックスである容姿を褒められることもある、社長だとわかると財力欲しさに近寄ってくる人もいる、その時々でその人達にあった対応をしてきたのが、乙幡の体に染み付いている。
ただ、わかっていることは、悠にはそのどの対応も当てはまらないことだ。
それより、デザインのこと、この後どうするか考えなくてはならない。
このまま無かったことには出来ない。
「あ、もう夜になっちゃいました」
急に悠が起きた。ちょっとぼんやりしている顔が可愛い。また、可愛いと思っちゃったのかよと、自分に問いかけてもみている。
それまで考えていたことなんて、どうでも良くなってしまう。今日もまた一緒に夜更かしできるかなと、年甲斐にもなくワクワクしてしまう。昨日から俺は何だかおかしい。いや、悠とメッセージで会話していた頃からおかしかったのかもと、考えていたら視線を感じた。
「お腹空きました?」
「そうだな。今日は何をしようか」
幸いなことに明日もまだ休日が続く、昨日と同じことをしてもいいかもしれない
「夜は色々なものを作りたいと思います。特に食べたいものありますか?」
「ビールとワインを飲みたいな。それに合うのがいいな」
「スーパーでエドが食べたいって言ってたバッファローウィングとケサディア、あとイチジクのサラダと、ちょっとお肉も焼きますか?あ、ブロッコリーチーズは?好き?」
「ああ…悠、腹減ってきた…そんなご飯ここで食べたことないよ。よし、手伝うから、俺をキッチンで助手にしてくれ」
いいですよ、やらなくてと悠は笑って言うが、俺が一緒にいたいから譲れない。
今夜も楽しく過ごせそうだと思う。
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「どうする?見る?やめとく?」
食事が終わったので、次は何しようかとなり、少し前にヒットした映画を見るか見ないかと話をしていた。ジャンルはホラーに入るため、悠は少し苦手だと言う。
「見たいけど、苦手なんです。でも一人では絶対見られないから、見るなら今がチャンスだと思う」
必死で言う悠は可愛くて笑ってしまったが、苦手なのはかわいそうだと思い「じゃあ、やめとくか」と言うと残念そうな顔をする。
「わかった。あそこで見よう。おいで」
今日届いたロッキングチェアで見ようと手招きして誘う。ここからなら十分映画も見れるし、隣に座ると身体が密着するので安心するだろう。案の定、悠は安心したようにこっちを見て笑ってくれた。
昨日は二人の会話が盛り上がり、映画は流しているだけだったが、今日は本腰入れて見たいようだ。
(始まりから飛ばすな、この映画...)
ヒットしただけあり、序盤からホラー全開で迫ってくる。ファンにはたまらないだろうなと考えていると隣にいる悠が、ビクついているのがわかった。
ホラーお決まりのシーンにビクッと体を震えさせ、目を伏せたりしているので、後ろから抱きしめてあげようと、座り方を足の間に挟む恰好に変え、乙幡は座り直した。
「背中に何かないと怖いんだろ。ほら、ここ座って。俺に寄りかかって」
「うっ…そうです。背中がゾワッとしちゃうんです」
悠の身体を後ろから覆いかぶさるように抱きしめてあげると、悠は乙幡の腕をぎゅっと掴んできた。全身を包み込むような格好なので、これで悠の背中に寒気が走るのはなくなるだろう。
上から悠の顔を盗み見すると、真剣な顔で映画を見ているのがわかる。
テレビは見ているが乙幡は映画より、ロッキングチェアの座り心地に夢中になっていた。
(二人で座っても、密着しても、安定している。しかも座り心地はすこぶる良い。さっきはこのまま寝てしまったし、無理言って職人にオーダーしたけど、これ良かったな)
映画を見ながらも別のことを考えている乙幡の腕を、またぎゅっと握ってくる感覚があった。
画面から視線を外すと悠のつむじが見える。なんだか可愛らしい形だなと、乙幡は喉の奥で笑いをこらえる。
ちょうど抱きしめている目の前にあるため、つむじにキスをしたくなるような衝動を感じた。
(ん...? キスしたいって思ったか?俺...)
おいおいつむじにキスってなんだよと、考えているうちに映画が終わってしまったようで、悠が振り向いて興奮気味に乙幡に話しかけた。
「すごい!ホラーなのに最後はハッピーエンドになるなんて。こんなのある?他に見たことありますか?」
「えっ、ハッピーエンド? 嘘だろ?ホラーなのに?」
「ちゃんと見てましたか?」
見ていなかった。途中からはロッキングチェアのことを考えたり、悠のことを考え始めてしまったから、内容はよくわからない。
「ごめん、よく見てなかった。見てたのは、悠のつむじだった」
笑いながら乙幡は言うが、悠はつむじを抑え怪訝な顔をしている。
「悠の髪は、サラっとしていて綺麗だよな。初めて会った時から少し伸びたか?」
右手で髪を触るとサラっと零れ落ちる感触がある。乙幡の行動に悠の顔がさっと赤くなった。首まで赤みが差しているのがわかる。オーバーサイズの服の中全身に赤みが差し込むのを想像してしまう。
「つむじなんて面白くないのに」
「はは、そうだよな」
慌てる。
何を考えてしまったんだと、自分がわからなくなる。顔を赤くした悠を、強く抱きしめてしまいそうになった。
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