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第14話

「このロッキングチェアいいですね。二人用なんて、おしゃれで凄く素敵です」 「二人用じゃないよ。たまたま大きいサイズでオーダーしたらこうなったんだよ。悠より大きい人だと、俺と一緒に座れないし」 ゆらゆらと揺らされて、気持ちいい。 「ジュエの家具は高級だけど、どこか遊び心があるっていうか…それで心地いいなんて、家に帰るのが楽しみになる」 「ああ、そう言ってくれると嬉しいな。 悠…あのデザインのこと聞いていい? 俺さ、実はあのデザインすごく気に入ってるんだよね。それで作った人に会いたかったから、何とか水城に頼んだんだ」 デザインの話になると少し悠は緊張してしまう。まだ後ろめたさを感じているからだ。 「悠、今はエドに話すると思って。ジュエの社長じゃなくて。単純にどうやって思い浮かべたデザインか、どう発想したのかを聞きたいんだ」 ゆらゆらとロッキングチェアを揺らしながら、乙幡は悠の手を握る。顔を上げると笑っていた。まだホラー映画を見ていた時の格好のまま、乙幡の足の間に悠は挟まって座っている。 ジュエのデザインは楽しく描けていたのは事実だった。 それに今回は、ジュエからの依頼内容が面白く印象的だったのを覚えている。 『子供が家具を汚しても母親に怒られない。そのための特殊加工した生地だから』と汚すの前提でデザインして欲しいと思わせる内容だったので、それを見てクスッと笑ってしまったのを思い出す。 小さい頃の自分や周りの友達を思い出して描いたと悠は乙幡に伝えた。 「悠、覚えてる?ラフ案に、picoとかキャンディとかって走り書きしてあったよ。それを見て俺、笑っちゃった」 「えっ、覚えてないです。書いてありました?確かにそんなお菓子を子供が食べてるイメージで…あ、そうだpicoって食べてると手がベトベトになるから、その手をソファになすりつけて友達が怒られたことがあったんです。小さい頃に。それをイメージしてました」 「悠…」 急に抱きしめられた。大きな身体の人からぎゅっと強く抱きしめられて身動きが出来なくなる。ハグとは違う抱きしめ方は、苦しいのになんだか気持ちがいい。乙幡に抱きしめられるのは胸がキュッとなるのに気持ちがいい。 「悠、俺すごく嬉しい。イメージ通りなんだよ悠のデザイン。俺にはpicoとか発想は無いけど、今、悠が言っていたこと全てが俺のイメージなんだ。そんな家具を作ってみたかったんだ。だからずっと君に会いたかった。俺のメッセージを読み取ってくれてありがとう」 ぎゅうぎゅう抱きしめられて離してくれない。こんな時自分の手はどこに持っていけばいいのかわからず、悠も乙幡の背中に手を回したら、つむじにキスをされた。 いつまでも二人でぎゅうぎゅう抱きしめ合っていたら何だか可笑しくなってきて、ゲラゲラと笑い合うことになった。 今日こそはベッドで寝た方がいいと悠は乙幡に伝えた。もう既に日が変わって深夜になっていたが、乙幡は連日の仕事と、悠という急な同居人が現れて疲れているだろうからという理由を伝えた。 乙幡は、明日はまだ休日だし、だったら朝までベッドで動画を一緒に見ようと言い、乙幡の寝室に悠を招き入れた。 「大きいベッドですね」 「もう俺は何もかも大きくないとダメ。身体がはみ出すのは嫌なんだよ。そもそも、俺が家具会社を作ったきっかけはそれが理由だし」 「へぇ…そうなんだ。何だか納得です」 「どうぞ、このベッド気持ちいいよ」 「お邪魔します。わっ、本当だ。気持ちいい…大きなベッドなのにふかふか」 二人で寝ても広々としているベッドだった。寝返りを打ってもぶつからないんだろうなと、悠は感心してしまう。 「もう遅いけど、何見る?見ながら寝落ちしようか」 寝室にはタブレットが置いてあった。 ひとつのタブレットを、ベッドに寝転び二人で見る。 「あの、水城ちゃんのコスプレ動画ってこれで見れます?僕、見たことなくて、一度見てみたいなって…」 「あいつ、仮装してんだってな。ちょっと待って、えっと…どれ?これ?」 「あっ、これ。水城ちゃんですよね」 「うっわ、こんな感じか」 場所が変わっても話は尽きない。 今日はゆっくりベッドで乙幡に寝てもらいたいと思っていた。だけどまた二人で話し込むことになる。人と一緒に過ごして楽しい思いをするのは初めてだった。

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