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第20話
青く晴れ渡り清々しい、気持ちのいい日、こんな日に会社に出勤できるなんて最高だ、仕事も捗る。と、乙幡は思った。
悠と気持ちが通じ合った週末、お互いを好きだと思いあう気持ちを、じっくり確認しあった。
言葉に出して伝えれば伝えるほど、狂おしいほど好きになっていく。
こんな時、世の中の人はどうしているのだろうかと疑問に思うくらいだ。
本当は、仕事はせずに家でイチャつきたい。きっと世の中の人の多くは同じ気持ちになったことがあるだろう。大人であれど、人間だ。恋って素晴らしい。
「何かご機嫌なようですが、そろそろ木又和真が乗った便が到着する予定です。よろしいでしょうか。この後、話し合いもあるので、今のような、にやけた顔はしないように気を付けてください」
長谷川の声で現実に戻るが、まだ時間はあるだろう。長谷川を無視し、乙幡は悠にメッセージを送るために携帯の画面からメッセージアプリを開く。
キスをした。それ以上のことも出来た。
興奮しすぎて少し度を超えてしまったかもしれない。
悠は視線を逸らすくせに、次の瞬間には上目遣いで見てくる事がある。
無意識なのか、癖なのかどうかはわからない。それを見ると乙幡は抑えきれず、暴れ出してしまう。何度もキスを繰り返し、きつく抱きしめてしまった。
裸になり抱き合って過ごした週末だが、最後まではしなかった。だが、いつかしようと約束はできた。二人の約束だ。
「ほら、もう仕事モードに切り替えてください」
「わぁぁかってるっ。悠、元気?っと。後は、スタンプだな。よし…」
「元気って...30分前まで家にいましたよね?一緒に」
「何かあってからでは遅い。俺は俺なりに悠をケアしている」
人って、こんなに冷たい視線を送れるんだなって長谷川を見て乙幡は感じた。
「で、何時の便で到着するって?」
「後、2時間ってとこですね。木又側に契約違反があるため、契約解除通知書を作成しています。目を通してください。それと、どうなるかわかりませんが、即合意で契約解除となった場合のため、契約解除合意書も作成しています。こちらも目を通してください」
「わかった」
主な契約の解除理由は、債務不履行となる。乙幡は、損害賠償について請求するつもりはなかった。とにかく、木又和真とは関係を切りたいだけだった。
悠とのことも切り出さないといけない。和真と契約を解除し、悠と新たに契約を締結することも伝えるつもりだ。
和真は違反をしたので関係を切る、悠の名前でデザインは使うという意思表示をしたい。
「あまり感情的にならないように気を付けてください。嫉妬などしないように」
「嫉妬?なんで?そんなことするわけないだろ。俺、今までジェラシー起こしたことないよ、大人だから自分のことコントロールできるし…まあ、感情的にならないようには気を付けるから」
和真が帰国しすぐに話し合いをする。
話し合いの場所は、和真と悠の自宅だ。
今日には決着をつけると乙幡は決めていた。
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水城から連絡があった。新しい携帯を乙幡から受け取った時、水城の連絡先だよと、メモも渡された。その時から悠は水城に連絡を取り合っていた。
水城が「和真が帰国する」と教えてくれた。その帰国が今日だというのは乙幡が教えてくれた。もうすぐ飛行機は到着するそうだ。
和真は水城に何度も連絡をし、悠のこと、展示会のことを聞いていたという。その事は、水城から聞き悠は知っていた。
悠は、水城にお願いをしていたことがあった。それは、和真の帰国が決まったら、悠は乙幡の所で暮らしてると伝えて欲しいということだった。理由も含めて伝えて欲しいと言ってあった。
日本に帰国してから、悠がずっと乙幡の所にいたとわかったら、和真は感情的になり、契約解除の話が出たらきっと拗れると思っていた。拗れると展示会にも間に合わず、影響が出てしまう。なので、帰国してすぐに結論を出すために、事前に伝えておきたかった。
感情的になってもすぐに日本に到着するわけではない。帰国の飛行機の中で考える時間は多くあるだろう。ジュエのポッシュシリーズの広告デザインは、悠が手がけたものだと、ジュエは知っている。和真がやってきたことは、契約違反なので直ちにジュエへ謝罪をして欲しい、今までの自分と向き合って欲しいと悠は思っていた。
水城も和真に説得したという。悠がデザインを手がけていたことは、水城も知っていたことだったため、水城自身もジュエに謝罪をしている。なので、和真もジュエに謝罪するよう伝えたという。また、水城は和真からの仕事は今後引き受けないとも伝えたという。
「悠、私も話し合いの場所に行くから、デザインは悠のものになるように後押しするよ」
「和君と連絡取れなくなった?」
「うん。メッセージは読んでると思うけど、その後は連絡がなくなったよ。和真もわかってると思うんだ。こんなこと長くは続かないし」
「水城ちゃん、和君と離れて仕事大丈夫?」
「大丈夫よ!それは何とでもなるから。元々、私は悠と仲良いから使われてただけだし。契約なんてもんはないからさ、その辺は問題ないよ。それより、私は悠のデザインの方が大切だから」
頼もしいと感じる。今、悠の周りにいる人はみんな頼もしい。これは自分が蒔いた種である。責任などなく、言われたままやったことが大きな問題となり、迷惑をかけていた。
「水城ちゃん、ありがとう」
「乙幡社長は何て言ってる?」
乙幡にも、もちろん伝えていた。
悠から伝えたければそうしてもいいよ、だけど無理せず、任せてくれてもいいからと言われていた。
「無理しないようにって言われてる」
「そうだよね、ちょっと心配だけど」
「とりあえず、後で行くから」
そう言って電話は切れた。
和真と離れ、考えを改めるきっかけを作ってくれた人に恩返しできるよう、強い気持ちを持って和真に伝えようと決心していた。
変わりたい。
前の自分には戻りたくない。
好きな人と同じように堂々としていたい。そう思っていた。
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