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第23話
和真との話し合いは問題なく終了した。夕方には塾講師の仕事をこなす。
オンラインでの授業も慣れてきた。いつもダイニングテーブルに置いてあるタブレットで授業をし、そのまま毎日の日課であるノートへの書き出しも行う。
夕方には乙幡と食べるご飯の準備をする。合間の時間に今日はランドリーの掃除をした。
時間毎にスケジュールを立てて、忙しく動くのが楽しい。今までは和真の都合によって振り回されていた。自分の都合で時間配分を考えることが出来るのは、効率的だとわかる。
悠は、この後のことを考えるようになっていた。自分は何がしたいのだろう。
自立という言葉を携帯で検索してみる。
『他人から支配や援助されずに、自分の力で生きていけること』と検索結果が教えてくれた。
自立と一緒に自律という言葉も検索ワードに引っかかり、こちらも検索をしてみた。『他からの支配や制約を受けることなく、自分自身で立てた規範に従い行動すること』と出てきた。
外から見た自立と、自分自身の自律と両方共、悠には足りないところだとわかっている。
自分の力で行動を起こすには何が出来るだろうと考えている。ノートに延々と書き込みを続けていた。勢いに任せて書き続けた後、携帯のメッセージを見直す。
さっき乙幡から送られてきたスタンプをもう一度見る。ハートを持った可愛らしいくまが動きながら『好き』と言っている。
メッセージはなく、スタンプだけだったのも可笑しく笑ってしまった。そういえば返信してなかったと思い出し、悠もスタンプを送る。迷ったが、猫が手を広げて『好き』と言ってるスタンプにした。
ノートに書き出すことが増えたように感じる。以前は一日1回だったが最近は一日何度も書き出すこともある。
一度乙幡にノートの内容を見られ恥ずかしかった思いをしたが、悠は決心していることがあった。
それは、乙幡にもノートを見てもらおうと思っていることだ。恥ずかしいことも書いてあるだろう、だけど言葉で上手く伝えることが中々難しい悠は、乙幡に今の気持ちを知っておいて欲しいと思っている。
人は頼れる人がいると強くなるって聞いたことがある。何となくわかる気がしてきていた。
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「悠、いる?ただいま」
今日は仕事も早々に退社した。長谷川もわかっているようで、うるさくは言われなかった。
悠からスタンプのメッセージが送られてきた時、ピコンと携帯が鳴ったのですぐに飛びついてしまった。長谷川がいつものように嫌な顔をするかなと思ったが、今日はそうでもなかった。
悠からは、『好き』という文字が入ってる動物のスタンプが送られてきた。これだけで、早く家に帰ろうと思える。
それに和真との話し合いもあったから、今日は悠も疲れているだろう。寝ているかもしれないなと思いながら、家に帰ってきた。
「おかえりなさい。お風呂先でもいいですよ」
悠の声が聞こえた。
シャワーを浴び、改めて悠に向き合う。
「ただいま」
キッチンの隅で、身体を押し付けるようにキスをしてしまった。昼からずっと抱きしめたかった。
「おかえりなさい」
そのままの場所で悠は少し背伸びをして
キスをしてくる。上手く口に出来ず、ずれたところにキスをされた。
唇が気持ちいい。
「お腹空いてますよね?今日は生姜焼き作りましたよ」
「Ohhh…my crush」
日本食で一番好きなのが生姜焼き定食ってやつだ。いい匂いがしていたが、これだったのか。急にお腹が空いてきた。
乙幡が感激しているの見て、悠は笑っている。ダイニングに移動して食べようと、率先してテーブルセットを乙幡は準備し始める。
「あのね、後で、ノートを一緒に見て欲しいって思ってるんだけど、いい?」
悠の生姜焼き定食は甘辛く、白米が多く必要になる。おかわりをするためキッチンに行っていた乙幡に悠が声をかけた。
「ノートって毎日書いてるやつ?何かあった?」
「何もないよ。悩みとかじゃなくて、エドには、ただ見て欲しいなって思って。僕、上手く言葉で伝えられないから、毎日書いてあることを一緒に見てもらえたらなって。カンバセーションピースって感じもあるかな…」
なるほど、悠が自分から提案してきたことだ、受け入れたいと思う。ノートには素直に書けることもあるみたいなので、それを見て一緒に考えようというのか。コミュニケーションのひとつでもあるようだ。しかし…
「ノートって見ていいの?そういうのって嫌なんじゃない?」
生姜焼き定食を頬張りながら、乙幡から悠に尋ねる。
「自分の気持ちなんて大層なものじゃないけど、これから変わる考えもあるかもしれないし、だから今こうだよって書いてあることを見ておいてもらいたいなって…」
「いいよ。悠がそう言うなら後でソファ行って一緒に見よう」
ありがとうと、ふんわり笑ってくれた。
俺にだけ笑ってくれていると、乙幡は噛み締めていた。ジェラシーなんて、やっぱり起こさないよと心の中で呟く。
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