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第26話

ロッキングチェアを作った工場を見に行かないか?と誘った。そして、一泊だよと追加で伝えておいた。 そのメッセージが既読になってすぐ、嬉しいというメッセージと、猫がハートをいっぱい持っているスタンプが送られてきた。猫は悠に似ていて可愛らしい。 家に帰ってすぐ、ただいまと言う前に悠を抱き上げてしまった。ちょっと困った顔をしていたのが可愛い。好きな人と遠出して一泊すると思っただけでこれだから、海外にバケーションなんてしたらどうなってしまうのだろうか。 「悠、明後日大丈夫?行ける?」 「行けます。嬉しくってメッセージもらってからふわふわしてた」 悠は、恋人として心を許しあえることも多くなり、砕けた口調になってきたが、まだ敬語が抜けない時もある。一生懸命になると出るようだ。言うと気にするから内緒にし、乙幡だけそれを聞いて楽しんでいる。 「エド、お願いっていうか、相談があるんだけど」 夕飯後、ダイニングのタブレットで検索している乙幡に声がかかった。 「ん?何、旅行の?」 「それもなんだけど…僕ここに住んでるけど、家賃とか光熱費とか何も払ってなくて、気になっちゃってるんです。生活していく上で、僕がここを出て行くまでの間、家賃支払いたい。あんまり高いと払えないけど…」 「えっ、悠、ここを出て行くつもり?」 「いつまでもお世話になってちゃダメでしょ。一人暮らしして自立しないと」 悠のノートに『自立、自律』という文字があったのは知っている。和真とのことが終わったから早く自立しなくてはと思っているのかと乙幡は察した。 「悠、ちょっと話しようか。こっちおいで」 ロッキングチェアに誘う。真剣な話をする時や、お互いの気持ちを伝え合う時はこっちによく座るようになった。 「慌てなくていいと俺は思ってる。と、同時に悠が気になってるのもわかる。俺さ、プランって立てるんだよね、仕事でもプライベートでも。とりあえず目的決めて、どの道を歩こうかなとか考えるんだ。途中寄り道とか、違う道とか歩こうかなとか思って、そっちに行ったりすることもあるんだよ。その為には今の状況から逆算したりしてね。それが楽しかったりもするんだ。で、何が言いたいかって、俺は今のプランの中にもう悠がいるわけ。寄り道しても真っ直ぐ歩いても悠と生涯一緒にいると思ってる。悠も同じ気持ちか確認したいけどいい?」 「嬉しい…僕もエドとずっと一緒にいたいと思ってる。いい?」 「うん。よかった。とりあえずひとつクリアだ。そしたら次いくよ、悠、自立って何をどうしたい?どう考えてる?」 「自立はひとりで生活出来ることです。だから僕は、お金を作って一人暮らしをしなくてはいけません。それに今、光熱費も払ってなくてここにいるのはダメだと思ってます」 敬語になってるのが可愛い。一生懸命考えているんだなと思うと嬉しくもある。 「悠、一人暮らしをしようと思えばすぐできる。お金を稼げば誰でもできることだろう。だけど、それは経済的な面からしか考えていない状態だよ。何故、一人暮らしをするのか?だよ。今二人でお互いの考えを吸収し合ってる時に、わざわざ離れることで自立が出来る?人生を豊かにするためのプランを考えた時、その自立が果たして本当に経済的にも精神的にもプランを豊かにする自立だと思う?」 「わかんない、僕…本当はこんな状態の僕とエドは釣り合わないって、だから何かしないとって焦ってるのかも。エドはプランを豊かにするための自立って何?」 ロッキングチェアを揺らしながらだから、悠がいつも以上に素直に話をしてくれると感じる。 「俺はね、今の悠と日々一緒に暮らすことかな。悠が来てから、ものすごく自分の考えが豊かになってるって感じる。だって、毎日過ごしていても同じ日なんて一日もないよ。ひとりでは作れなかったものが二人だと作れているって思うんだ。それに、君がいてくれるから、自分を信じて行動でき、責任を持つことが出来るからね。悠が俺に責任を持たせてくれたって思ってるよ。ねえ、悠…もう二人になったから、二人でプランを考えて作っていこうよ」 「二人でって、どういう風に?」 「例えば、悠のノートを見てヒントもらってプランを考えたり、見直しするとか、二人で出来ることはたくさんあるよ。これから、うーん…そうだな50年?60年くらい?一緒にいることになるでしょ、俺たち。そんな長い時間の中の今なんて、ほんの一瞬だよ。今だけを見ないでもう少し長いプランを考えよう一緒に」 「どうしたらいい?僕は相談するしか出来ないかも。考えられるかな一緒に」 「こうやって相談し合うことが俺は好ましいよ。相談だけで一年経っても面白いよね。俺たちさ、相手を考える自律の方を目指そうよ。プランに入れてさ」 「エドにはいつも教えてもらってる本当に。少し気持ちが楽になったかも。自律の方か…そうだよね。一人暮らしだから自立ってわけじゃないし、無理して離れてしまったらコントロールの方の自律からかけ離れてしまうね。難しいけど」 「いやいや、悠が一人暮らしするって言い出すから必死だよ俺。離れたくなくて言ってるところもある。でも、最近考えてたのは本当。二人で色んな道を歩ければいいなって」 「とりあえず、今僕が出来るプランを一緒に考えて、エド」 「そこはエディって言って欲しかった」 もう…と言う悠にキスをする。 悠が悩んだり、考えたり出来るようになったのが乙幡には嬉しかった。こうやって相談し合う時間が出来たことも、今までなかったことだ。 悩んでる姿、考えてる顔、楽しんでる横顔、そういうのを見逃したくないなと思う。例えぐにゃぐにゃの道だって、一緒に歩ければ楽しいと思う。

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