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第27話

「俺の骨となり血となるものを作るのは悠である、それを忘れるな」と、冗談なのか本気なのか、実際のところわからないが乙幡は笑って言っていた。 それはかなり大事なこと、お金では買えないものだと。 「悠、眠かったら寝てていいぞ。着いたら起こすから。昨日、張り切りましたからね」 ニヤニヤと笑いながら運転する乙幡を横から見ている。確かに昨日は旅行前日なのに、何度もいかされてしまった。 「最近の話してもいい?」 「おっ、いいぞ。エロい方?」 「違います。もう…。今日はノート持ってきたから後で見てもらうけど。最近ね、ちょっとずつデザインの勉強を独学で始めています。何が出来るかわからないけど、何か作りたいなと思う」 最後は声が小さくなってしまった。初めて乙幡にも話する事だった。あんなに迷惑をかけたのに調子が良すぎるかもしれない、デザインの事なんて。 「いいね。悠のやりたいことをやってみるのは良いよ。それと、やっぱり俺はデザインをするの悠に向いてると思うよ」 真剣な顔で乙幡は言う。デザインの話になると全く茶化したりふざけたりしない。車を運転している横顔を見ても真剣だ。 「そうやって、真剣な顔してるとカッコいいのに…」 「ええっ?いつがダメだった?」 「さっき、エロいこと言うとすぐダメ」 そんなことを言い合いながら笑い、車で三時間弱でロッキングチェアの工場に到着する。その後は一泊することになっている。恋人と初めての旅行なので浮かれてしまいそうになる。 「こっちかな。すげえな、こんな道走ってて到着するのかよ」 カーナビの指示通りに走るが、道が狭くなったり広くなったり、ここが何処かはわからない。まもなく到着しますのアナウンスからもう数分経っている。 「ああ、あった。ここだね」 急に広い場所が現れた。工場に到着したようだった。 社長が来ると聞いていたようで、従業員達がわらわらと集まってきた。年代は幅広く、若者から定年近い人までいた。人数はそんなに多くはいない。 「どーも、初めまして乙幡です」 「木又です」 今日はプライベートで遊びに来ましたと、乙幡は挨拶をしている。若者達からは、「社長、外人なんだ」と囁かれ、それが聞こえた乙幡が「HI」と手を振っている。 がらんとした空間にぽつぽつと椅子やテーブルなどが置かれている。修理中の物が多く見られた。工場内は中村という男性が案内してくれている。 「今はリペアをメインにやってます。椅子の張り替えとかテーブル足の付け替えとか、修理です」 新しい家具の生産ではなく、修理の仕事が主になっているという。こんなに広い場所が閑散としているのは、少しさみしい。 「昔はここでぎゅうぎゅうに人がいて働いてましたけど、今は新規で生産しても需要ないですからね。リペアでもあれば嬉しいし、ジュエが参入してくれて、何とかやれてるからありがたいですよ」 紹介してくれながら話を聞く。すると、乙幡の家に届いたものと似たようなロッキングチェアを見つけた。大きさも同じである。 「おお、これ届きましたよ。ありがとうございます。でかくて最高だよ」 嬉しそうに乙幡が伝えている。 「これはその時、試行錯誤したサンプルです。こんな形のオーダー初めてだったのでみんなで考えて作りましたよ。うちの一番古い職人達と、若者達とがケンカしてね。それでやっと出来上がったので、今でもここにサンプルとして置いてるんです」 大きくてゆったりと座れるロッキングチェアにして欲しい、安定感とデザインも凝って欲しいと要望があり、指示をされたと言う。 古い職人達は安定する揺れを求めるがため、サイズは小さめにしたかった。だが、サイズもデザインも決められている。 若者達は決められたデザインに興味を持ち、揺れについては二の次だったという。そのため、制作中は両方の意見がぶつかっていたらしい。 最終的な出来上がりを見ても職人達は、ロッキングチェアの醍醐味である揺れが出なかったと言い、反面、若者達はデザインはしっかり指示があった通りに出来て、最高だと言っていたと聞いた。 「あの、これですけどかなり快適ですよ。大きいのに、安定感があります。足が細くないっていうか…」 悠が説明してくれる中村に伝える。周りに人が集まって来ているから、実演して伝えようと悠は思い立つ。 「ちょっと座っていいですか?」 「はい。どうぞ」 悠がひとりでちょこんと座る。これだとただのソファのようである。初めて乙幡の家で座った時と同じだなと思った。 みんなが見ているのがちょっと面白い。 「エド、ここ来て」 「あ、はい」 いつも家で座るような座り方をしてみる。お互いの顔を見て笑い合う。 「ほらね」と、乙幡が両手を広げみんなに伝えている。ゆらゆらと揺られて気持ちよさそうに見えるようだ。皆、興味津々といった顔をしている。 「社長これ、二人用でオーダーしたんですか?」 「違うよ。結果二人用にしてるけど」 しっくり座る二人をみんなまだ唖然とした顔で見ている。そこに若者達の声がした。 「あの、ちょっとこっちを見てもらえますか?」 まだ紹介されてない場所に連れて行かれた。そこには背中が籐で出来ているロッキングチェアがあった。大きさは同じくかなり大きめだ。 「えっ、これ素敵。背中がラタンなんですね。座るところと足はしっかりしてる感じですけど」 悠は新しい家具を前に興奮していた。 ラタンで出来たロッキングチェアは、クッションをたくさん置くと可愛いだろうと想像が出来る。涼しそうなので別荘地に似合う気もする。 「同じように座ってもらうこと出来ますか?」 「えっ、あ、はい。いいですか?」 若者達に促され、悠と乙幡で座る。 「えっ、軽い。こっちは凄く軽いです」 軽いので揺れも軽快である。素材でこんなに違うのかと悠は面白く感じた。二人で座っても安定感あり、やはり大きめなのでゆったりとしている。 「最初、こっちのイメージかなと思って作ってたんですけど、じいさん達にこれじゃダメだって言われて。これはお蔵入りなんです。でもキャンプ場とか野外のフェス会場とかにあると気持ちよさそうだなとか思ってて。でも大きすぎてダメだなと思ってたんですけど、二人だと、しっくりきますよね」 俺も二人で座ってみたいと言う声が後ろの方から聞こえ、「貸さないぞ」と乙幡が悠の肩を引き寄せる。すると、「えーっ」とか「俺も彼女と一緒に座りたいって言ったんです」と元気な声が更にかかり、みんなで笑った。 閑散としていて少し寂しいけど、従業員達は元気なようだ。工場を後にしようとした時、若者達から「何やってる人?」と悠は聞かれた。答えに詰まっていると乙幡が代わりに答えていた。 「ジュエの広告デザイナーだよ。今回の展示会もこの人にデザインを手掛けてもらったんだ」 へー、すげえ、と若者特有の声が漏れている。デザイナーとして紹介されていいものなのだろうかと考えていることが乙幡に通じたようで、そうだろ?と目で聞かれた。悠は、こくんと頷き乙幡にふわっと微笑んだ。

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