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第37話

展示会会場は多くの人で賑わっている。 入り口からすぐ目を引くのは八雲家具だった。たくさんの人がブースの中に入り、写真撮影をしている。可愛らしいブースデザインは家具にも合っている。 「やっぱり八雲家具の場所は有利だよね。ここだとみんな必ず通るから、全員足が止まって入り込んでる感じだもん」 水城が小声で悠に囁く。八雲家具を見て悠も同じことを思った。 かなり奥の方にジュエの展示ブースがあった。人は入っているが八雲家具程ではなく、まばらな感じだった。それでも、圧倒される展示に悠は驚く。 「すごい…このディスプレイ、すごい」 悠はジュエのブース全体を見回して、驚きと嬉しさの声を上げていた。頭の中で考えたデザインがそのままブースディスプレイとなっていた。 床にメッセージを見つけた。 『あなたは何を想像する?』 これは確かブースデザインの人にメールでやり取りしてた時に聞かれたなと、思い出した。 「木又さんですか?」 声をかけられたので顔を上げると、男の人が、にこにこ笑って立っている。 「初めまして、瀬戸です」 「あ、瀬戸さん。初めまして木又です」 瀬戸はジュエのブースデザインの責任者だ。実際会うのは初めてなのだが、メールでは何度もやり取りをしていたので、初めて会う感じはなく、ずっと知り合いのような感覚があった。改めて実物の瀬戸と会い、悠は想像通りの人だと思った。 瀬戸はブースを作るにあたり、悠に広告デザインについていくつか質問をしてきていた。その時悠は、この床のメッセージのことも話をしている。お互い感覚が似ていますねと、メールで言い合ったことを覚えている。 「見ました?このメッセージ」 瀬戸が床のメッセージを指をさした。 「これって…」 悠が笑いながらもう一度、床のメッセージを見る。瀬戸はこっちは『贅沢な日常』ですよと教えてくれた。 「木又さんが教えてくれたことが頭に残ってて。何か使わないと勿体無いなって思ってたんですよ。ほら、ここに立ってメッセージ読んでからフレームを覗くと…」 言われた通りにしてみると、悠が作った広告デザインの画があった。 「わっ、すごい。すごいです。これ、あのパンフレットのままですよね。ソファに座ってる人を、ここから写真撮るって感じですか?」 「そうです。ここから見たら何が見えるんでしょうね。みんな違うのかな。でも木又さんが言ってたメッセージは受け取ってもらえると思います。今回はジュエも派手にやりましたからね。僕達ブースのデザインチームも楽しく出来ましたよ」 ブースも突然デザインや方向が変わったことには、大変だったと想像する。時間は多くはなかったが、妥協せずに作り上げたと瀬戸が言っている。 作り上げ終わりではなく、こうやって次を繋げていくように、沢山の人が関わっている。乙幡が言っていたことがわかる気がした。 「瀬戸さん、ありがとうございます。このブース素敵ですね。圧倒されて息が止まりました」 いくつか質問をしたり答えたりと、瀬戸とやりとりを繰り返す。お互いジュエのデザインを手掛けただけあり話は尽きない。 瀬戸は笑って名刺を差し出す。 慌てて悠も名刺を出した。 乙幡からデザイナーとしての名刺を作っておくようにと言われた。今日のために作っておいて良かった。初めて名刺交換をした。 瀬戸と話をしていた時、外国の女性や男性数人が、ジュエのブースに入ってきた。ゴージャスなディスプレイに悠と同じく圧倒されているようだった。 「カッコいいわね、ジュエ。このメッセージ何?何で床に貼ってあるの?」 床のメッセージを見て英語で話しているのを耳にする。瀬戸は、その団体の中の女性ひとりに説明をし始めた。 「ここから写真を撮ると金のフレームに入った絵画みたいになるんです。ジュエのパンフレットのようになります。ソファに座りますか?僕が写真撮りましょうか?」 悠も咄嗟にその団体に向かい、英語で話に参加する。 「あーっ、そういうこと?なるほどね、ちょっと、写真撮って。あ、あなた一緒に来てくれる?ソファまで、いい?」 「いいですよ」 悠は瀬戸に挨拶をして、女性をソファまで誘導した。

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