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第38話
「すごい!見て、この写真。あのパンフレットと同じになったわ。あのロッキングチェアもいい?座っても問題ない?」
ゴージャスだ、パーフェクトだと写真撮影が始まった。主に女性達がソファに座り、男性達が写真を撮っている。
ロッキングチェアは二人で座ると、心地いいですよと悠が教えると、素直に二人で座り楽しそうな声を上げている。
この団体がブース内で、はしゃいでいるので、それを見て沢山の人が入ってきては、ソファに座り写真を撮っていた。少しずつ賑わってきている。
「ロッキングチェアはプライベートに欲しい! ソファは仕事場用に考えようと思うわ。それにしても美しい!SNSにアップしてもいいの?」
ブースアテンドが、どうぞどうぞと言っている。SNSに流しても問題は無いそうですと悠が伝えていた。
「このシリーズって本当に汚れが落ちるの?不思議だわ…」
「そうですね、例えばワインこぼしても落ちるって言ってました。後は、お菓子とか…picoを擦り付けても落ちるそうですよ」
何となくこの団体の人達は、アメリカのアクセントで話しているなと感じたため、悠はpicoの話を出してみた。
「えっ、picoってあのお菓子の?懐かしい!あなた知ってるの?何だっけ、ジェリーみたいなやつでしょ」
「ええ、そうです。小さい頃、picoを食べてベタベタになった手を、ソファで拭いてたのを怒られました」
悠がそう言うと、私も俺もとみんなが笑って口々に言っていた。何であの頃は、ソファに擦り付けてたんだろうと、全員口を揃えて言うので、悠も一緒になって笑ってしまった。
「あー、懐かしい。pico食べたくなっちゃった。ありがとう、パンフレットも貰っていくわね」
そう言い立ち去って行った。その団体のおかげで少しづつ人がジュエのブースに入り始めていた。
悠と水城はジュエのブースから離れ、周りの企業を周ろうとなった。
インテリアなどの展示ブースがたくさんある。どこのブースデザインも刺激的だ。カッコいいもの、可愛いもの、時間をかけて見ていきたい。水城と色々と会話しながら見ていくと、どんどんアイデアが出てくるようだった。時間がいくらあっても足りないくらいだ。
乙幡から「どこにいる?」とメッセージが入った。やっと展示会に到着したようだ。
たくさんのブースを見て周っていたら、意外と時間がかってしまい、もうそろそろ閉会時間になりそうだった。
「水城ちゃん、乙幡さん到着したみたいだから僕ジュエのとこ戻るね」
水城と分かれて悠だけジュエのブースに戻ると、乙幡を中心にスタッフ達が慌ただしく動き出していた。
「エド…」と隣までささっと寄り、小さく声をかけた。
「悠!待ってた。これ見て?悠が話してたって聞いたけど、この人達わかる?」
乙幡は携帯の画像を悠に見せてきた。そこには、さっきはしゃいで撮影していた外国人達が写っている。さっそくSNSにアップしたようだと悠は思った。
「あ、さっきの人達ね。ちょっと話したよ、アメリカ人だったと思う。picoの話したら知ってたから」
「悠、この人達はアメリカ総領事館の人達だ。これが公使で大使はこっちの女性」
乙幡が携帯の映し出した画像を指差し、悠に説明している。
「えっ、うそ。全然わからなかった」
「今、この人達がSNSにアップしたからものすごくバズってる。明日、ヤバいかもしれない…」
「は…?バズる?ヤバい?」
よくわからない言葉ばかりだが、ジュエが急上昇ワードに入り、世間的に注目を集めていると説明された。なので、展示会二日目の明日はかなりの来客が予想されるという。
「俺も今日メディアに出て来たし、雑誌や配信のイベントにも顔出してきたから、明日は来客が多くなるだろう。この後の展開をちょっと練り直しすることになったから、悠を送ってこのまま一旦会社行くことになった」
「う、うん…わかった。頑張って」
何だかわからないが、周りは忙しく動き出している。乙幡に教えてもらい携帯でさっきの女性のSNSを探してみた。やっぱりアメリカ総領事の人だった。
失礼は無かっただろうかと心配する悠に、乙幡は問題ないと言う。
「この写真のメッセージに、ロッキングチェアでうたた寝すると気持ちいいと言う可愛い子に会ったって書いてあるし…picoが急上昇ワードに入ってる。これ悠のことだろ?」
「うっ、そうだけど。そんな人だと知らなくて、普通に喋っちゃった」
「いいんだよ。アメリカ総領事館はジュエの家具を購入するだろう。すごい宣伝だよ。今日ごめんな、遅くなりそうだから先に寝てろよ?」
忙しそうであり、嬉しそうでもあるが、悠の心配ばかり乙幡はしている。
車で送ってもらい、コンシェルジュを通るまで見送られた。
家に入りもう一度SNSをよく見てみる。
『あなたは何を想像する?』という床のメッセージの写真があり、その次に大使がソファに座っている写真に「私のゴージャスな日常はここで過ごすわ!」とメッセージが書かれていた。
二枚が対になった写真は、カッコいい女性そのものに見えた。
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