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第39話

「エド、おかえりなさい」 「寝てなかったか…ただいま」 玄関から音が聞こえたので、悠は慌てて出迎えた。乙幡は驚いた様子ではあったが、笑顔で悠を抱き寄せる。 かなり忙しい一日であっただろう。乙幡から疲れが見られるが、仕事の気配をまだ纏っているので、逞しさを感じる。 「悠、寝られなかった?ご飯食べた?」 「同じこと聞きたかった。ご飯は?何か作ろうか?」 忙しさから食事は簡単に済ませているだろうと思っていた。ほら、と乙幡をソファまで連れて行き、そのまま悠はキッチンに入る。何を作ろうかと考えていた。 「腹減ってるかどうかもわかんないよ」 「じゃあ、おにぎり?みそ汁つける?」 「YESSS…みそ汁はトーフをリクエストしていい?」 乙幡の好きなツナマヨのおにぎりを握り、豆腐のみそ汁を簡単に作る。ソファにスーツを脱ぎ捨てている乙幡は、Tシャツ姿になっていた。ツナマヨおにぎりをテーブルに置いてあげると嬉しそうに飛びついている。 「悠は?ちゃんと食べれた?」 「大丈夫、食べたから」 疲れたと言いながらも、あっという間におにぎりとみそ汁を平らげそうである。 「どうだった?予定変更とかあるの?」 悠の一番心配なことだった。何がどうしたかわからないが、とにかく忙しいのだろう。予定していたことから大幅に変更したりするのだろうかと、家に帰ってから考えていたのだった。 「そんな大きな変更はしないよ。でも、もう既に反響があって、問い合わせとか沢山入ってるんだって。元々一般の人向けにショールームを展開する予定だったんだけど、日程を早めて明後日から展開することにした。会社の一階にあるんだよショールームが。そこにポッシュシリーズを置く。展示会と同じディスプレイにする予定」 はぁ、と食べ終わって乙幡は、一息ついている。 「一般の人は展示会に入れないもんね。今日、銀座駅とコンコースで見たよ。ジュエの広告すごかった。写真撮ってる人も見かけた。あっ、だからそういう人達が見たいってことなのか…だからショールームに置くんだよね?」 「そうなんだよ。一般の人からの問い合わせが多いみたいで、それもロッキングチェアを購入したいって問い合わせが多いらしいよ。俺がメディアに出たのと、あのアメリカの大使のSNSと、両方が宣伝効果になったって感じかな。あっ、それとさ、」 脱ぎ捨てたスーツの上着から携帯を取り出している。 「悠から届いた写真、すごいブレてたよ。笑っちゃった。一瞬何だかわかんなかったけど、銀座の駅で写真撮ったんだな。悠、可愛いなって思って、今日一日携帯の待ち受けにしてたんだ」 ほら、と見せる。 「えっ、何これ。ひどいね、うーん、よく見ると改札かなって感じ?」 シャッターを押したまま動いたのだろうか、横にも縦にもブレていて、かろうじてジュエのあの広告かなという感じだ。悠は、自分で撮った写真をよく見ずに乙幡に送っていたようだった。 二人でその写真を見ながらゲラゲラと笑い合う。今日は、お互い忙しくて疲れていたが、家に帰ってきてこんなことで笑い合えるのが楽しい。 待っていてよかった。きっとこんな日は、乙幡も話をしたかったんだろうなと、悠は思っていた。 「明日、朝の情報番組にちょっとだけ出るんだ。だから昼に戻ってくるから、そしたら一緒に展示会行こう。銀座の駅を通って行ってみようよ」 「えっ!すごいテレビに出るんだ。頑張ってねエド。じゃあ、明日僕は昼過ぎに行く予定だったから、一緒に行けるように準備しておく。あ、そしたら明日はちゃんとブレないで写真が撮れるようにしよう」 「俺、この写真でいい、他はいらない。これが一番好き」 ブレてる写真の待ち受けを眺めている。 何がそんなに気に入ったのかと聞くと、「だってこれ最高じゃん!」とよくわかんないことを言う。 そういえばpicoの画像も待ち受けにしていたのを思い出す。気に入ったものを待ち受けにしているのだろうか。自分も何か気に入ったものを携帯の待ち受けにしてみようかなと、悠は考えた。 「それとさ、悠も忙しくなると思うから。水城にフォローするように伝えてあるけど、わからなかったり不安だったらすぐに相談して」 「何で?僕は忙しくならないでしょ」 「悠、君のデザインはもう既に注目されている。これから、デザイナーとしての依頼が入ってくるんだよ」 乙幡は真剣な顔でそう言うが、悠はそんなことは無いだろうと思う。 「さ、明日は早いからもう寝ましょう」 「悠…なあ…ベッド行ったら色々やっていい?」 「今日はダメ、落ち着いたらね」 NOOO!と叫んでた乙幡は、ベッドで齧り付くようなキスをしてくる。でも、やはり疲れていたようで乙幡はすぐに寝てしまった。 乙幡の体温が高いので、隣に寝ていると気持ちがいい。寝ている乙幡は無意識に悠を抱き寄せる。そんな小さな仕草も嬉しい。 (数日は忙しいだろうから、好きなものいつでも食べられるように準備しとこ) 疲れて帰ってきた時に、好きな物を食べさせたいなと、寝ている乙幡を見ながらぼんやり考えていた。

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