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第43話

晴れ渡る空も、清々しい空気も俺には何にも関係ない。イライラもしなければ、ワクワクもしない、ただそれだけ。 最近撮った写真をフォルダから眺める。 ほぼ、悠の寝顔だった。その中からお気に入りを携帯の待ち受けにした。 ここ数週間、お互いの仕事が忙しくなり顔を合わせるのは数時間だけ。休みが一緒になるのも数時間。それに二人とも疲れているので、ダラっと過ごしてしまう。掃除、洗濯、家事をして終わりだ。 悠にデザインの仕事のオファーが殺到している。嬉しい悲鳴であるが初めてのことでもあり、悪戦苦闘しているようだった。それに、塾の仕事もあるので、忙しくし過ぎる身体が心配である。 乙幡の方も展示会以降、更にジュエの知名度が上がっているため、忙しく動いていた。 社名が売れた相乗効果で、ポッシュシリーズだけではなく、他のシリーズの家具の売り上げも上がり、海外の企業からの買付も増えてきている。 また、新しい企画やイベントなどが引き続きあり、帰宅する時間も遅くなっていた。 お互いが忙しく、やりがいがある仕事をこなしているのは、大変喜ばしいことだが、プライベートの時間が取れなく、二人はすれ違ってきている。 「今日はまた盛大に不服そうですね」 長谷川に揶揄われているのはわかるが、返す気力もない。 「ショールームが大盛況です。連日、整理券配布して入場規制もしています。それと、ロッキングチェアが好調で、予約が殺到しています。あの工場は喜んでましたよ。フル稼働で生産するって言ってました」 「ありがとう。当たりだな。工場も使えてよかったよ。これで職人たちも救われたか」 「それと、出張の件ですが、来週から予定しています。それまでに片付けることもあるので、今週もまた忙しくなりますね」 「ニューヨークだろ?どれくらい?」 「二週間ってとこでしょうか…」 海外のホテルから、ジュエの家具を全面的に使用したいという話が入った。ビジネスチャンスであり、熱烈なオファーだというので断る理由はない。 もっと海外に展開することを常に考えていた。そのため、乙幡が直接出向き周りにもアピールすることを戦略としている 上昇傾向で嬉しいことだし、願ったり叶ったりなのだが、プライベートの時間は、どんどん削られていく。 「出発する日教えてくれよ。あとスケジュールもな。悠に伝えておかないと」 仕事は順調と自分に言い聞かせ、自宅へと足早に帰る。 家に帰ると、悠はリビング隣の部屋からおかえりなさいと出迎えてくれた。 最近は、デザインの仕事が忙しいため、この家の空いてる部屋を仕事場にしている。無駄に部屋がたくさんあってよかったと乙幡は思った。 仕事するための部屋を探すって言われないでよかったと、つくづく思う。 忙しいため、一緒に夕ご飯を食べることも、中々出来なくなってきている。それでも今日は久しぶりに、ダイニングで二人揃っての食事を取ることが出来た。 「二人で食べるの久しぶりで嬉しい」 「俺も。今日一番嬉しかったことだよ」 乙幡の好きな生姜焼き定食を用意してくれていた。今日もとても美味しい。そして、悠はかわいい。 「来週から出張になった。ニューヨークだよ。二週間くらいだって」 「ジュエの人気すごいもんね。仕事頑張ってきてね。あれ…?来週から二週間?」 「うん。何で?何かあった?」 「あっ、うん。さっきね、決まったんだけど、僕も今度ロサンゼルスに行くことになったんだ。瀬戸さんと現地で待ち合わせするんだけど、新しい仕事なんだ」 またすれ違いが続きそうだと、乙幡はガッカリとしてしまう。自分も忙しければ、悠も忙しく、以前のようにイチャイチャと出来ていない。ベッドに入ってもうすぐに寝てしまうだけだった。 「ロサンゼルスどれくらい行くの?」 「一週間くらいだと思います」 スケジュールを聞くと、乙幡が日本に帰ってくる頃に、悠がロサンゼルスに行くのがわかった。ほらな、やっぱりすれ違いだよと乙幡は心の中で舌打ちをする。一ヶ月近く会えない日が続きそうだ。 「まあ…いつまでもこんなに忙しいわけじゃないだろうからさ。それと、寝る時はお互いの時間帯が違っても、あっちのベッドで一緒に寝ような」 乙幡の寝室を指差して言うと、悠は嬉しそうに「はい」と微笑んでくれた。 結局、こんな感じに笑いかけてくれると、「何て小さいことで舌打ちしてたんだ俺は!」と反省してしまう。悠は偉大だと改めて思う。 「それじゃさ、今日は同じ時間帯にベッドに入れるから、ご飯食べたら行こう」 明日の朝に片付けをやっておくからと言い、ちょっと強引にベッドまで連れて行く。キスをして抱き合って寝るのは久しぶりだった。ゆっくりしてもらいたいと思っている。 まだ乙幡と悠は最後までは出来ていない。いわゆる挿入というやつが出来ていなかった。ローションで悠の後ろをいじるところまではしていたが、ここ最近は悠も新しくデザインの仕事が入っているので、触り合うこともしていない。キスだけだ。 中々タイミングが合わないのが理由だ。 最後まですることにこだわることはない。今のままでも幸せである。悠に負担をかけることもしたくはない。言い訳っぽいがそれは本当だ。 なので、相変わらず乙幡はバスルームでひとりで扱いている。悠がイク姿を思い出しながら扱いているのだった。性欲が強いので、一度では足りず何度もバスルームの壁に射精している。 虚しいが仕方がない。あまりに強引にして、悠に嫌われたくはない。キスをして、悠が気持ちよくなってくれればそれでいい。 でも、いつか最後まで身体を繋げたいと思っている。そんな日は来るのだろうかと、バスルームで呆然と考える日が続いていた。

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