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第46話

サンディエゴ空港は改装中だった。国際線発着のメインターミナルの改装は終了しているが、ニューヨークからの便は、改装中のターミナルの方に到着する予定と、機内アナウンスがあった。 改装中のターミナルは狭く、発着も限られているらしい。到着ゲートまでの間もかなり閑散としている。これならすぐ悠を確認できるだろうと、乙幡は思っていた。 ゲートから乙幡が出てきたのが確認できたのか、悠が小走りで近づいてくるのがわかった。久しぶりに見た悠は、相変わらずかわいらしい。 「悠!」と声をかけると嬉しそうな笑顔になった。これを見れただけでも、遠回りして、サンディエゴに来てよかったと思える。 「エド!よかった。会えた!」 トンっと抱きついてきたので、思わず荷物を置きキツく抱きしめる。おでこにチュッとキスもした。 昨日のダメージがまだあるらしく、悠は乙幡と会えたことに、かなりホッとしていた。 簡易的な椅子が並ぶ空港ターミナルの待合室に、二人で座る。 時間も無いし、また数時間後に悠はここからロサンゼルスに向けて出発するため、どこかに移動はせずここで時間ギリギリまで二人でいようという事になった 発着フライトがなくなると、更に空港ターミナル内は閑散としてくる。フライトデスクも次の便まではカウンタークローズするらしく、人はいなくなった。ここに残っているのは、乙幡と悠、それと清掃の人がたまにいるくらいだった。 改装中のターミナルなので、エアコンの効きは良くない。だけど、サンディエゴは日本のように湿気がない分カラッとしていて気持ちがいい。 「あっちに新しいターミナルがあるから、ここは寂しいですね」 「ああ、そうなんだな。俺は後でそっちのターミナルから乗るよ。ここから日本に帰るからさ」 「今日、ここに一泊しないの?ここからまた飛行機に乗って帰るの?」 「うん、ホテルはキャンセルしちゃった。悠がいないと泊まる必要ないし。18時のフライトがあるから、それでそのまま日本に帰るよ」 「僕に会いに来ただけになるの…?」 「そういうことになるか。でも、一番重要だからね」 誰も近くにいないし、日本語も誰もわからないだろう。近づいてキスをしても問題ないと思い、隣に座る悠を見つめ、キスをした。 「来てくれてありがとう。嬉しい。昨日は僕のミスで本当にごめんなさい。自分のダメさ加減にガッカリしたよ」 「俺は笑ったけどな!でも、こんなことするのはまだ若いってことかな。好きな人に会いたいから、会いに行くなんてさ。じいさんになったら思い出そうぜ。あの時フットワーク軽かったなってさ」 本当にどうかしていると思う。以前だったら、こんな面倒なことはしていない。 好きだから、会いたいから会いに行くには、場所も時間もかなりスケールが大きいとわかっている。身体もそれなりに疲れるだろうし。 ただ、今の悠に、海外で活躍すると覚悟を決めた悠に、会っておきたいという気持ちが強かった。 日本に帰ってくる前の、これから頑張ってくる悠の姿を見たいと思ってしまったのが、ここまで来る理由だったように思う。 家に帰ったら何かやっておくことある?と聞くと、牛乳買ってしまったから、期限を見ておいて欲しいと言われる。 OK、期限切れたら捨てておくと伝え、その他は何かあるかと、悠の髪を触りながら、たわいもない話をダラダラと繰り返す。 久しぶりの悠との会話が楽しい。仕事とは関係なく、深い話をするわけでもなく、以前のように、お互いのたわいもないことを話しているのが幸せに感じる。 「次に会えのはどこだろう」 「日本だろ?またアメリカだったら泣くよ俺。家で待ってるからさ」 一緒に住んでいる。日本に帰ればいつか会えるとわかっていても、悠は不安になっているようだった。 「それから…」 「ん?どうした?」 悠が乙幡の手を握ってきた。もうそろそろ悠のフライトの時間も迫ってきている。 「エド…何で最後までしないの?」 一瞬何を言われているかわからなかったが、真っ赤になっている悠を見て理解した。身体を絡め合うことを言っている。 「悠、俺は最後までしたいよ。だけど、堪えているっていうか、悠も忙しいし、負担にならないようにタイミングを見てるっていうか…堪えるのは大変だよ?だけど、それだけじゃなくて、勢いって思われるのも…」 言えば言うほど、言い訳に聞こえるが、口から出る言葉が止まらなくなっているところを悠が遮った。 「何か理由…ある?嫌になったとか」 すれ違いの生活で、不安にさせていたのかもしれない。仕事も忙しいのに余計なことで悩ませていたかもしれない。思わず抱きしめてしまった。 「理由なんかないよ。嫌になんかならない。ごめん、悩んでた?大事にし過ぎてたかもな…俺は悠が欲しいよ、ものすごく。いつも悠のことを考えている。身体も欲しいけど、気持ちはもっと欲しい。そうだな、かっこつけないでちゃんと言えばよかった。身体も気持ちも俺にくれ。好きだよ、悠」 「変なこと言ってごめんね」 悠がまだ赤い顔をしたまま、下を向いている。乙幡の腕の中にいる。 「前にも話したけど、俺のプランの中には悠が入っているんだ。これから先、ずっと一生だよ。悠のこと離さないからそんな心配しなくていい。だけど、忙しいなんて言い訳にしててごめん。これからはきちんと話をするよ」 両手で強く手を握り伝える。そのまま抱きしめて、つむじにキスをする。 「日本に帰ったら抱いていい?多分、俺しつこいよ?」 悠は、こくんと頷いていた。このまま連れて帰りたいと思ってしまう。 サンディエゴからロサンゼルスまでは大体1時間のフライトだ。もうそろそろ、悠が乗るフライトの時間になる。 名残惜しいけれど、仕方がない。 髪を撫で、頬も撫でる。 ゲートまで一緒に歩き出した。 「I Love You」と乙幡が真剣な顔で悠に向かって呟くと「I Love You,too」と悠が乙幡の目を見て答えてくれた。 「おっ、やっと返してくれたな」 いつも悠は、愛してるという乙幡を、 I knowと軽くかわされていたが、今は真剣な顔をして答えている。 「うん、やっと…自分に誇りを持てるようになったから。あなたにちゃんと答えられるようになったと思う」 乙幡は悠を、抱きしめて、キスをして唇を軽く噛んでやった。 「頑張れよ」 うん、と返事をしてる悠は凛としている。

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