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第47話
サンディエゴからサンフランシスコ経由で日本まで帰ってきた。少し無理をしてでも会いに行ってよかったと思う。
自宅に到着してすぐ、悠に言われた通りに冷蔵庫の中にある牛乳の確認と、掃除、洗濯をやった。
悠が戻ってくるまでの一週間なんか、あっという間だと思う。それでも久しぶりの家にひとりでいるのは変な感じだった。
会社に出社し、いつも通りの仕事をこなしていると、お祭り騒ぎから少し落ち着いてきたのがわかる。軌道に乗ったといったところだろうか。相変わらず、海外からの依頼は続いているようだった。
アメリカと日本、それぞれある工場も稼働している。オーダーが多く入り、忙し過ぎて今度は人手不足らしい。悠と工場を見学に行った時に案内してくれた中村から、みんな俄然やる気が出てますよと報告が入ったそうだ。どこも好調で何よりだ。
明日は休日だが、悠がいないので張り合いがない。ダラダラと過ごすのかと思いながら、長谷川に依頼して手に入れたカードを眺めて、乙幡は考えていた。
カードに書かれた電話番号にかけてみると、数回コールがあり相手が出た。数分会話をして、明日の休日に改めて会いに行くことにした。悠には、相変わらず『好き』というスタンプを送っておく。
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翌日、コンビニのビニール袋をぶら下げた乙幡はインターフォンを押していた。
「…はい」と怪訝そうな声が聞こえる。
「来たぞ。開けてくれ」
乙幡が言うと玄関が空き、木又和真が顔を出した。
「何で来たの?乙幡さん」
「お前と話しに来たに決まってんだろ」
ズカズカと勝手に上がり込み、リビングのソファに座る。部屋を見渡すと荒れた様子はなく、きちんと整理整頓されていた。ひとりでも生活出来ているんだなと感じる。
「展示会、盛況だったね。派手にやってたじゃん。広告もありとあらゆるところに出してさ、テレビとか雑誌とかにも出てたでしょ?めちゃくちゃ売れてるって聞いたよ」
「そりゃどーも。気にしてくれてたんだな。お前、あの広告見てどう思った?」
ビニール袋からビールを取り、和真に一本渡し、乙幡も開ける。
すぐそこのコンビニで買ってきたばかりだからまだ冷えていて美味しい。
残りは、勝手に冷蔵庫に入れておく。
「どうって…悠が作ったデザインだろ?何かもう、単純にすげえなって思ったよ本当に…」
うつむいてはいるものの、和真はビールを飲みながら、悠を素直に認める発言をしている。
「お前の方はどうなんだよ。悠のデザインをパクって八雲さんに売ったんだろ?あれで上手くいったのかよ」
「パクったっていうか、ちょっとアレンジ?して八雲に売ったよ。まあまあ売れたらしいけど、ジュエがそれより派手にやったから、影が薄くなったらしい。その後、俺にも声はかからないし」
ふーんと乙幡は和真を見ながら、ビールをあおる。
「アレンジとかいうなよ。元は悠のデザインだろ?でも、まあ、あの八雲さんのデザインを悠が見て怒った結果、うちの新しいデザインが出来たから、俺はよかったけどね」
「悠、怒ったの?」
「うーん、最初にお前がアレンジ?したやつを見せた時、前より可愛くなってる、全体のバランスもいい、和君やれば出来るじゃん!って喜んでたぞ。ただ、これは僕のデザインではありませんってきっぱり言っててさ、怒ってたって感じ?」
「そうか、あれは悠のデザインじゃないのか。何が違うのかな、センスがある人と俺と…悠はこれからデザインの世界で生きていくんだろ?」
「悠は今までお前とやってた時は、責任がない仕事のやり方だったと言い、それを反省していた。だけど、今はデザインの仕事をやるって決めて腹括ってるぞ。それにお前のやったことに対しては、アイデアを盗まれて腹立てたりする時間は無く暇も無いってさ。アイデアはいくらでも出せるし、それにいつまでもそのデザインにしがみつくつもりもないって言っててカッコよかったよ」
乙幡は二本目のビールを取りに冷蔵庫迄行く。お前は?と和真に聞くと、まだいらないと言っていた。さっきより更にうつむいているように見える。
「あーあ、俺は何してんだろう。それにもう悠は遠くに行っちゃった感じだ。帰ってこないんでしょ?乙幡さんが手放さないんだろうし」
和真も乙幡と悠の関係を知っているのだろう。チラッとこっちを見て言う。
「俺が悠を手放すわけないだろ。悠も自分の名前で勝負し始めてるし、お前のことなんて構ってられねぇだろうよ。それよりお前、今何やってんだよ」
「何もやってない。仕事も全部断ってる。だって、俺出来ないもん。デザインなんて作れないし…悠の名前が出始めたのも耳に入ってきてるから知ってるよ。あれから俺は夜も寝られないくらい荒れてた。悠を取り返そうかとか、見返してやろうとか考えたけど、結局何も手出しはできなかった。それからずっと家にこもってる」
「だからって、このままじゃどうしようもないだろ。デザイン出来ないっていうんならディレクターにでもなって、新人デザイナー発掘すればいいだろ。とにかく何かやれよ。悠が心配するから」
「やっぱそこかよ、悠が心配するって。乙幡さん俺のこと、ぶっ潰したくせに、よく家に来れたと思ったけどさ」
「当たり前だろ。お前のことなんか誰が心配するかよ。悠が心配してる姿を見るのが俺は嫌なの。だから心配かけるな」
和真が冷蔵庫に二本目のビールを取りに行くと、ああ?と大きな声を上げた。
「なんだよあれ。何、買ってきたんだよ」
「あっ、そうだった。お前、焼きそばの作り方を俺に教えろ」
冷蔵庫にはビールと一緒に、焼きそばが入っているのを和真は確認していた。
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