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第49話

悠の帰国が少し延びていた。毎日メッセージでやりとりはしているが、時差もあり電話で話は出来ていない。 悠はアメリカで、打ち合わせを始めたが、そのまま具体的な話にまで進んでいるらしく、寝る時間が遅くなるほど忙しいと言っていた。 忙しそうでも、メッセージからは、悠が楽しそうにしているのを読み取れるので、乙幡も安心する。 そんな日々を過ごしていたら、やっと悠の帰国が決まり、明日帰ってくることが決定した。 悠は、打ち合わせが終わったから、後はデザインを作るのに家に籠って作業するだけだと言っている。日本に帰り、家で仕事するので少し落ち着くだろうとメッセージに書いてあった。 長谷川にお願いして、悠の帰国と同時に乙幡も休みを貰うことにしていた。 「明日の昼過ぎに悠さんは到着しますので、迎えに行ってそのまま休暇に入ってください。それと、また海外で打ち合わせがあるので、来月出張が入ります」 「また?海外行くの?今度はどこ」 「サンフランシスコですね。アメリカ企業からの申し出が多く入っています。うちはアメリカに工場もあるし、需要が高くなってきているんです」 「わかった。これが軌道に乗ったら大きいもんな。OK、よろしく頼むよ」 サンディエゴの空港で二人が会ってから少し関係が変わってきた。お互いが近くにいないと寂しくて、会いたくてたまらない気持ちは変わらないが、ちょっと頑張れば少しの間でも時間を作り会うことが出来たからだ。 無理だと思っていたことでも、一度やってしまえばそれは実績となり、難しい問題だと思っていたことのハードルは下がる。 結局、二人の問題は、話もしないでお互いがひとりで考えていることだと、わかったからだった。 キスをしたい。キスをして欲しい。 抱きたい。抱かれたい。 そんなこと言わなくていいかと思うことが、言葉にして言った方がいいとわかった。二人の間に『そんなこと』なんてないということも。 あれ以来、『キスしたい』『会いたい』『抱きたい』と乙幡は毎日のようにメッセージを悠に送っている。 通話は出来なくても、悠は安心はしているようだった。悠からも『キスして欲しいエディ』と返事が来ていたからだ。 「久しぶりに、ニヤけるのが戻ってきましたね。悠さんが明日帰国するからでしょうか。今度は数時間じゃなく、ちゃんと会えるからよかったですね」 サンディエゴ空港で過ごした数時間の事を言い出し、長谷川は笑っている。 時差もあり、日付を間違えたから、ホテルで一緒に過ごせなかったと長谷川に伝えた時、「間抜けですね」と言われ、盛大に笑われた。 「悠さんも忙しそうですね。帰ってきたらゆっくりソファで寝かせてあげてください。初めて社長の家に行った時も、手を握って熟睡していたんでしょ?ジュエの社長だけあって、あなたはいいソファなんですから」 「俺はソファかよ。ソファ扱いするなよ。つうか、長谷川…お前、案外ロマンチストなんだな」 長谷川の写真を、数枚携帯で撮ってやった。最近、水城に写真送ってなかったから、撮った写真をそのまま送ってやる。 撮られている長谷川は嫌な顔をしていた 「早く明日にならないかな…」 「子供みたいなこと言ってないで、仕事モードになってください」 ほら、早くと長谷川に急かされた。

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