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第56話

朝の情報番組に出演することが決まった。 自分がテレビに出ることになるとは思わなかったが、乙幡からの後押しもあり悠は、出演することを決めた。 ジュエの展示会から始まり、悠のデザイナー生活はあっという間に忙しくなった。 夢中になってデザインの仕事をやっていたら、世界最高峰のデザインアワードと言われている『B&DAaデザインアワード』で、SILVER賞を受賞することが出来た。 そのため、テレビや雑誌からの出演依頼が相次いで入ってきている。 今日出演するテレビ番組は、以前ジュエの社長として乙幡が出演した番組だ。この話をした時、「その日は休みだから一緒に行くよ」と言ってくれたので、テレビ局には乙幡と一緒に行くことになった。 この情報番組は、メインパーソナリティーの男性と、コメンテーターの女性、男性、アナウンサーの女性がいる。テレビで見ている時と同じだった。 アナウンサーより悠は紹介された。おはようございますと言いながら出ていくが、緊張していた。 「木又悠さんです。今回はB&DAaデザインアワードで、SILVER賞を受賞されました。おめでとうございます」 アナウンサーの男性から言葉をもらう。ありがとうございますと返しながら、着席する。 「木又さん今すごく活躍されてますよね。今回受賞されたデザインは、俺でも知ってますよ。流行りましたよね」 パーソナリティの男性が説明してくれている。悠が受賞したデザインは、食器の広告デザインだった。ちょっと奇抜なアレンジをしたので、その広告を真似た写真の撮り方をしてSNSにアップするのが、一時世間ではブームとなったようだ。 「私も同じように真似してSNSに上げました。下から光で照らすんですよね。それで食事を共にしてる人の手とかをチラッと見せるんですよ」 「これみんなやってますよね。家族でやったり、友達とかもちろん恋人同士とか。SNSに上げると可愛くて、おしゃれ」 コメンテーター達も同じように携帯で撮っていた話で盛り上がる。悠は、ニコニコとしながら聞いていた。 テレビの映像はアワードの受賞式の模様や、悠のデザインが映し出されている。 受賞式はアメリカですか?と言われ、そうですと悠は答えていた。 デザインの制作やこれからの活動など、悠への質問は矢継ぎ早に聞かれ、それぞれに答えていた。 「木又さんのデザインをモチーフにした写真を、SNSにみんながアップするっていうのがブームになってどうですか?」 パーソナリティの男性から質問をされた。 映像はまだ受賞式の模様が続いていた。 「すっごく嬉しいです。こんなに反響があるとは思いませんでしたから。これで食事が更に楽しくなればいいですよね」 ふわっと悠が笑った。その場の雰囲気も和んでいく。映像からスタジオに戻り、出演者達の楽しげな会話が映し出される。 「木又悠さんは以前、家具の広告デザインもやってましたよね?」 コメンテーターの男性から質問があった。 「あ、はい。そうです。ジュエのロッキングチェアとかの時です」 「あれも凄く反響あったじゃないですか。広告パンフレット欲しさに多くの人が殺到したから、ジュエのショールームでは整理券出してたって聞きましたよ」 「ありがとうございます。あの時のデザインは思い出深いです」 悠が答えると、パーソナリティの男性とコメンテーターの女性から、「あーっ!」と言う声が上がった。 「わかった、だからだ」 「そうそう。見覚えあると思った」 次々とスタジオの出演者から声が上がる。 皆の目線は悠ではなく、スタジオの端にいる乙幡を見ていた。 「すいません、テレビの向こうの視聴者の皆さんには見えてないんですが、スタジオのテレビカメラの横に、仁王立ちしてこっちを睨んでる人がいるんですよ。誰とは言いませんけど」 パーソナリティの男性が面白くカメラに向かって伝えている。 「笑ってるけど、木又さんに失礼なこと言ったら怒られそう」 コメンテーターの女性は笑いながら、パーソナリティの話に乗って伝えていた。 カメラの横に乙幡が立ってこちらを眺めている。パーソナリティやコメンテーターの言葉を聞き、乙幡は笑いながら手を振っているが、それを見て悠は真っ赤になってしまった。 なんで?なんで?とアナウンサーもコメンテーターも乙幡の姿を確認し、何故いるのかとびっくりしている。 そりゃそうだ。子供じゃないのに保護者同伴で来ているのはおかしい。カメラは真っ赤になってる悠を映し出している。 「心配してついてきちゃったんですか?」 パーソナリティの男性は大声でカメラの横に立っている乙幡に聞く。それを聞いた乙幡が「Yes!」と大声で返した。「とうとう声の出演しちゃったよ」とパーソナリティの男性の言葉で、スタジオ中のみんながゲラゲラと笑い出した。そこでコマーシャルとなった。 「ジュエの社長でしょ?なんで?」 コマーシャル中、隣にいるコメンテーターの女性がニコニコしながら悠に聞く。 「いや、一緒行くって言ってくれて…」 悠はしどろもどろに答えた。 「もしかして木又さん、あの人に豆腐の味噌汁作った人?」 隣の女性が乙幡を指差して悠に聞く。 乙幡の出演の時、豆腐の味噌汁の話になったのを思い出して悠の顔は更に赤くなったが、質問には小さく頷いた。 「えーっ?社長そうなの?あの時言ってた色っぽい人?一緒にいるって言った」 パーソナリティの男性がまた大声で乙幡に聞くと、「そうだよ!」と乙幡はまた大声で返していた。 「社長隠さないね」との声に、「全く隠してないね」と乙幡は答えている。 すげえなオープンかよ、やるね社長との声も続く。 そこでコマーシャルが終わりスタジオにカメラが戻ってきた。 「また今日はSNSが荒れそうです。前の時も色々なワードが急上昇してましたから、何とは言いませんけど、みなさんわかってください。ロッキングチェアですよ」 と、パーソナリティの男性が笑いを誘う言い方をする。スタジオ内もまだ笑いを引きずっていた。悠は照れてしまい、恥ずかしさから顔が熱くなっている。 「木又さんはこれから海外に拠点を置くと聞きました。もうすぐでしょうか?」 アナウンサーの女性が話題を戻してくれた。 「はい。そうなんです。アメリカで生活することを決めました。どこでも仕事は出来るんですけど、今はアメリカに拠点を置いた方が色々と都合がよくて…なので、近いうちに引越しするんです」 悠はこれから日本を離れ、アメリカで生活することに決めていた。 「えっ?あの人も一緒に行くの?」 コメンテーターの女性が乙幡の方を指さしながら聞くので、そうです…と小さく答えると、おお!っと皆から声が上がる。 「木又さん、本当に受賞おめでとうございます。これからの活躍も期待しています。また素敵なデザインを見せてください。それと、お幸せに?ですかね、海外での生活も楽しんで過ごしてください。日本に帰ってきた時は、またスタジオに遊びに来て欲しいな」 パーソナリティの男性が締めの挨拶のように話をしてくれていた。 「それから、最後にこれだけ聞かせて。今もうSNSの反響が凄いんだって。木又さん、豆腐の味噌汁を作るの得意ですか?」 「…はい」 おお!っとスタジオ全体が笑い声と騒めきで溢れる。悠が答えたところでコーナーは終わりとなり、「ありがとうございました」と言いながら悠は席を立ち上がった。周りに挨拶をしながらカメラの向こうに立ち去ることになる。 「木又悠さんでした。本日は来てくれてありがとうございました。そちらのボディーガードの方もありがとうございました」 カメラの隣にいる乙幡にも目を向けて、最後までパーソナリティの男性にイジられながら退席することになった。 テレビ局の駐車場を出てやっと落ち着いてきた。乙幡をテレビで見ていた時とは違い、自分が出演するとなると反省点ばかりであった。乙幡のように上手く返せない。 「もう…ダメ、落ち込む。あんなすごいトークに答えられないよ」 「悠!最高にかわいかったぞ」 何を言っても乙幡はご機嫌なのでポジティブな回答しか返ってこない。 「ちょっと休憩してから行くか…」 「そうだね。まだ早いし…」 アメリカへの引越しのため、今二人はホテルで暮らしている。乙幡のマンションから必要な物は既に送ってあるので、後はちょっとの荷物をスーツケースに入れて二人でアメリカに行くだけだった。 車はホテルの駐車場に到着した。 スイートルームを自宅代わりに使っているため、専用エレベーターで部屋まで上がって行く。 部屋に入ると、ソファにグダっと座り、悠は何もやる気が起きなくなっていた。乙幡は隣で水を渡したり、悠の上着を脱がせたりと、色々世話を焼いている。その姿からウキウキしているように見える。 「エド、ありがとう。休みなのに色々やってくれて。運転もしてくれたし。でも、僕はまだダメージ引きずってる…」 「悠!見て、すごいよ!SNSの反響がある。急上昇ワードに入ってるよ」 何事かと乙幡の見せる携帯を覗き込む。 「ええっ!SNSってすごいね。さっきの出来事なのに。もうこんなにコメントいっぱいになるんだ…」 そこには『あのデザイン作ったのこの人なの?』とか『あれ真似して写真を撮った』などデザインについてのコメントが多くみられた。手がけたデザインが多くの人の目に触れていたと思うと嬉しく思う。 「アワードで受賞おめでとうってやつが多いな。あ、でも、悠がかわいいってコメントも多いぞ。真っ赤になってるとか」 「…えっ、恥ずかしい」 よく見ると、豆腐の味噌汁が急上昇ワードの中に入っていた。それに、『映ってないけどジュエの社長いるんだよ』『これ絶対この前の答え合わせでしょ』などのコメントも見かけた。 スタジオの空気に煽られて変なこと喋ってないだろうか。やっぱりテレビ出演は向いてないと思う。 「エド…ちょっとキスして欲しい」 恥ずかしさから甘えてしまう。誰もいないからいいだろう。乙幡は、なんだエディって呼ばないのかと笑いながらキスをしてくれた。乙幡が一緒にいてくれて良かった。 「愛してるよ、悠」 乙幡が抱きしめてくれる。 「僕も…愛してます」 ちゃんと答えられるようになっていた。

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