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第58話
二人でお好み焼きを作ってくれた。一人一枚大きいお好み焼きを食べている。
「すごい!これ二人で作ったの?お好み焼き久しぶり。嬉しい。美味しいよ」
「二人で、じゃないよ。俺が作ったの。この人ビール飲んでるだけだから。何にもやらないくせに、いつも自分勝手に文句言ってくるんだよ」
「やったじゃねえかよ!混ぜただろ?」
二人で言い合いしているのが新鮮で何だか可笑しい。この家で笑うのは久しぶりだ。
「見て!ほら、悠の皿は、うーちゃんの皿だよ。俺、後3.5ポイントでまた新しいうーちゃん皿貰えるんだ」
乙幡が悠のお好み焼きを指差して教えている。お好み焼きが乗っている皿は、うさぎの皿だった。悠が昔からパンを買ってはポイントを貯めてよく貰っていた皿だ。
「そういえば、これ一枚家にもあるよね?プレゼントしてくれたやつ。あれ?エド、ポイント貯めて貰ったの?」
そうなんだと、胸を張って乙幡は言っている。何だかかわいらしくて、嬉しいありがとうと答えてあげた。
「あれ?今年の引き換えは先週で終了してるよ?だからもう皿の交換出来ないよ」
和真が思い出したように言い出した。
「えっ…これ、期限なんかあるのかよ?」
「ポイント用紙に書いてあるじゃん。ダセェ…後ちょっと足りなくて貰えないのってウケるんだけど」
和真が乙幡を指差してゲラゲラと笑っている。何だか可笑しくてつられて悠も笑ってしまった。乙幡が3.5ポイント足りないって言っているのも面白い。
「じゃあ貯めたポイントはもう使えないのかよ!いつならいいんだ?」
「また来年だよ。1年に一回のイベントだから、うさぎの皿は。だけど、毎年一からポイントは貯め直しだからな。今のやつはもう使えないね。マジでウケる」
そう言ってまた和真はゲラゲラと笑っている。
「えーっ、じゃあお前、来年はポイント集めてうーちゃんの皿交換しとけよ。それを悠にプレゼントしろ」
アメリカにはもう来週に行く予定だ。たまに帰ってくることはあるが、二人共生活の基盤はアメリカとなる。日本には当分帰ってこないため、和真と会うのも今日が最後となる。
「…いつ行くことになったの?」
和真は、悠ではなく乙幡に聞いていた。
「来週だな」
ふーんそっかと、お好み焼きを食べながら和真は答えた。アメリカに行くことは聞いていたようだ。
「悠、気をつけてね。俺はもう大丈夫だよ。今の仕事結構楽しいしさ。あっ、後、お墓参りもしたよ。これからちゃんと生活していくから心配しないで。責任持って行動して、人に迷惑をかけないって悠に誓うよ」
和真がはっきりと悠に向き合って伝えていた。ずっと一緒にいると良くない結果になってしまったが、離れている間に自分を見つめ直したのだろう。悠も同じだった。和真は少し大人になったような気がする。
「それと、さっきのテレビ見たよ。反響すごいじゃん!また仕事のオファー来るんじゃない?身体に気をつけて頑張ってね。乙幡さんがしつこかったら言ってね。すぐここに戻ってきていいよ?」
悠を真っ直ぐ見て和真が言う。学生時代の和真を見ているようだった。こんな感じに心配された時もあったなと思い出す。
「お前さ…何で俺がしつこいって思う?
顔に書いてあるのかよ…まぁ、とにかく俺は悠を悲しませないから心配するな」
さてと、と乙幡が立ち上がるので悠も続いて立ち上がる。玄関までの間に和真に話しかけてみた。
「あっ、そういえば和君、焼きそば作ってあげなかったね。今度日本に帰ってきたら作りに来るから」
「あ、悠!大丈夫だよ、こいつ焼きそば自分で作れるから。紙みたいなキャベツ入れて作ってたよ?この前。なっ?」
「その紙みたいなキャベツは誰が買ってきたんだよ!悠、この人いっつも買う物を間違えるんだけど」
最後まで二人は仲が良さそうに戯れあっている。
「本当に、二人はすごく仲良くなってるんだけど…僕より兄弟に見える」
「えーっ」と二人で同じように嫌な顔をしているので、悠ひとりでゲラゲラと笑ってしまった。
じゃあ元気で、と言い合い和真と別れた。
乙幡は何故か最後まで、「何かあったらお兄ちゃんに言えよ?」と和真を揶揄い、和真は「絶対言わない」と言っていた。
帰りもタクシーでホテルまで向かう。
あと少しで日本を立つことになる。
日本でやり残したことはもうないだろうなと、タクシーの中で悠は考えていた。
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