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第59話
最初の数日は、どこに何が入っているか分からず、段ボールを開けたり閉めたりしていたが、何となくそれもなくなってきた頃には家の中も随分と片付けられてきた。
サンフランシスコに引っ越してきて、やっと生活が出来るようになっていた。
荷解きがたくさんある時は近くのダイナーに行って食事をしていたが、段ボールの数も少なくなり、何とか家で作ることも出来るようになってきた。
サンフランシスコに引っ越して来て、家で最初に食べたご飯はハンバーガーヘルパーだった。
「最終的にはさ、これにお世話になるんだよな。まあ?いいっちゃいいよ?楽だし、食べれば美味しいしさ、でも俺にもカッコつけさせてくれよって思うんだよね」
ハンバーガーヘルパーを前に、乙幡がぶつぶつと文句を言っている。
家で最初に作るご飯は、引っ越しで疲れているであろう悠に作ってあげたいと乙幡は張り切っていた。
うどんを作ると乙幡は言い出したが、うどんスープの元が見当たらない。まだ開けていない引っ越しの段ボールをひっくり返しても見つからなかった。
「あっ和真?俺、俺、お兄ちゃんだよ。
あのさ、お前がくれたうどんスープの元が見当たらないんだけど、どこに入ってると思う?うどんスープのパッケージとさ、色とかデザインどんなだっけ?教えてくんない?」
段ボールの中をガサガサと探しながら乙幡は和真に電話をかけていた。
「寝てるから変な時間に電話してくるな」
時差があるのに気にせず和真に電話をしたため、怒られブチッと切られてしまったと、乙幡はガッカリして言っていた。
仕方なく、ハンバーガーヘルパーを作り二人で食べることになったが、始めは悠の好きなうどんを作りたかったと、乙幡はぐずぐず言っている。
そんな乙幡の隣で悠は、ずっとクスクスと笑いが止まらなくなっていた。
「日本で最初に二人で食べたのも、ハンバーガーヘルパーだったでしょ?何か思い出して嬉しいよ?懐かしいね」
「悠…ごめんね」
クスクスとした笑いが、ゲラゲラとした笑いに変わっていく。なんて愛しい人なんだろうと乙幡を見て思う。
「エディ、大好きだよ」
「おっ?スイッチ入った?どこで?」
「さあ?どこでしょう。ご飯食べて、掃除しよう。やることはいっぱいあるんだから」
ええーっと乙幡が声を上げている。
乙幡もそろそろ仕事再開になる。サンフランシスコに本社を移したので、これから忙しくなると言っていた。
乙幡の秘書の長谷川は、まだアメリカに来ていない。少し時期をずらして来るらしいので、その間は乙幡のスケジュール調整は、現地スタッフが行うことになり、それもまた大変らしい。長谷川早く来ないかなと、乙幡は呟いていた。
悠の方も、そろそろアシスタントをつけようかと思っていた。ひとりでやるには仕事の量も多くなってきているため、限界がある。Webで面接を繰り返し行い、やっと先日、アシスタントが1人決定した。
日本のデザイン事務所で働いていたが、退職し、サンフランシスコの自宅に帰って来るという青年だった。まだ実際会ったことはないが、何度かオンラインでやり取りをしていて、明るく真面目な若者だなと感じている。楽しく仕事が出来ればいいなと願っていた。
「悠…」
食器をキッチンに置きにきた悠の後ろから乙幡が抱きしめてきた。首筋と頸にキスをされる。
「なあ…悠…掃除は後でもいい?」
逞しい腕を前に回して悠を抱きしめながら、甘い声を出してくる。やっぱりそうきたかと悠は思い、乙幡の方に向き直る。
「エディ…唇、噛んでくれる?」
嬉しそうに乙幡は悠にキスをし、唇を噛んでいる。掃除はいつでもいいやと悠は考えた。
やることはいっぱいあるが、二人の道は長い。今はまだ、ぐにゃぐにゃの道かな。ちょっとは真っ直ぐな道になってきただろうか。後50年?60年?考えると道は長い。
「悠、何考えてる?俺の方見てよ」
「すごいね、何でわかった?」
こら、と抱き抱えられベッドルームに運ばれた。ここのベッドも規格外に大きい。
「やり直しね…エディ…唇、噛んで」
end
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