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第20話

「ただいま帰りました~」  文維(ぶんい)の車が、(とう)家の門を通過し、玄関前に停車した。  そこで待っていた唐家の有能な執事が、当然のように後部ドアを、(うやうや)しく開ける。  その途端に飛び出した幼い姿の煜瑾(いくきん)は、元気よく執事に声を掛けた。 「お帰りなさいませ、煜瑾坊ちゃま」 「!」「?」  (わずか)かばかりの動揺もなく、(ぼう)執事は冷静に煜瑾を出迎えた。 「これは包夫人、ご機嫌いかがでしょう」  煜瑾を追うように降車してきた恭安楽(きょう・あんらく)に対しても、茅執事は動じない。  そのことに、文維も包夫人も違和感しかないのだが、何を言えばいいのか分からない。  あの幼く、可愛らしい煜瑾を前に、驚いた様子が全くない執事が、文維にも恭安楽も、とにかく信じられないのだ。 「あ、あの…。茅執事?煜瓔(いくえい)さんは、まだ?」  それでも貴婦人らしく冷静に振舞いながら、包夫人は小さな煜瑾を見守りつつそう訊ねた。 「はい。旦那様はまもなくお帰りになります。客室の方でお待ちいただくよう、(おお)せつかっております」 「そう…」  当惑する文維と包夫人だったが、そのまま茅執事と共に唐家の邸内に入った。 「おかあしゃま~、こっちでしゅ~」  玄関ホールから続く階段の上から、煜瑾の声がした。  この階段の上にある南向きの、一番日当たりが良く明るい子供部屋が煜瑾の部屋だった。 「煜瑾ちゃん…」  どうして良いのか分からず、恭安楽は広々と豪華な唐家の玄関ホールで立ち尽くしてしまった。

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