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第4話:水沢タクト

 俺は緊張しながら部活棟の階段を登っていた。軽音楽部は四階で、三階の踊り場まで到達すると足が止まってしまった。  三津屋アキラが軽音部に入るか否か、これも様々な憶測が飛んだ。  曰く、レベルが低いからもうインディーズやサポートのドラム業に専念する云々  曰く、同世代とまともにバンドを組んだことがないから仲間を探している云々  曰く、すでにここの軽音部OBと組む段取りに入っている云々  しかし、理由はどうあれ、三津屋アキラは軽音部に入部した。  ベースとヴォーカルの俺が入らない理由がどこにある。  いや、かなりのストーカーであるという自覚はある。  っていうか高一の時から想い続けていて、でもろくに話したこともなくて、なのに進路まで彼のために変えてしまった。  もう相当ヤバいくらい俺は三津屋アキラのストーカーだろう。    でも——  止まらないんだ。  話したことがなくたって、目が合ったことすらなくたって、オフステージの彼をろくに見たことがなかったって、好きなんだ。  もしかしたら性格は最悪かもしれないし、或いはドラム命で恋愛沙汰なんか二の次かもしれないし、それ以前に男の俺が……  俺はそこでハッとして、両手で顔面をぱしっと叩いた。  始まる前からビビって被害妄想を自ら生んでしまうのは俺の悪癖!  何も知らない顔で軽音部に入る! それだけだ。  そして俺は四階まであがって部室のドアを開いた。

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