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第5話:音像

 そこには十人足らずの新入生と、十人以上の上級生がいた。  壁際にシングルのライダース・ジャケットを羽織った三津屋アキラを発見し狂喜乱舞した俺がいたが、俺は入部用紙を書きながら違和感を覚えた。    一番注目を浴びていたのが三津屋アキラではなく、長身だが超絶猫背で、ひょろひょろとした新入生だったからだ。 「え、おまえ、が、水沢タクト? マジで?」  上級生のひとりが確認するように聞くと、そう問われた猫背くんは着座してあぐらをかき、 「はい〜」  と間延びした声で肯定した。  部室内はざわつき、俺も衝撃を隠せなかった。 「え、じゃあさ、この前YouTubeで一千万回数突破した『Nobody Nobody』書いたのって……」 「はい〜、僕です〜」  ひょろひょろと上半身を揺らしながら、『水沢タクト』はあっけらかんと言った。 『現役高校生の天才作曲家がいて、頼めばどんな曲もタダで書いてくれる』  こんな話、そう易々と信じられないし、俺も都市伝説レベルに思っていた。実際何曲か水沢タクト名義の曲を聞いたこともあったけど、ピコピコのキュートでポップなボカロ曲からブラストビート炸裂しまくりのデスメタル曲まであって、てっきり数名の作曲者がそう名乗っているのだと考えていたのだが。 「なあ、今なんか音源ねえの?」  そう先輩に言われると水沢タクトは若干迷惑そうな顔をしたが、ボロボロのリュックから古いMacBookを取り出し、何度か操作して、合図も何もなく、曲をスタートさせた。  その瞬間、室内の空気が完全に変化した。  曲は波の音から始まり、まるで水面から海か湖の奥底へ段々沈んでいくようなイメージが浮かんだが、曲自体は狂っていた。  え、ここで転調? なんで今三連符? は? ここのシンコペおかしいだろ! あ、このギターソロ、イントロのピアノとユニゾンしてる?! からまた転調?! 複雑なのにメロはキャッチーで一発で覚えられる! テンポ落ちた? あ、リットか。この音源編成の最後になんでストリングス入れられるの? あ、これ…… ……この音楽は、美しい。  この三津屋アキラ・ストーカーの俺が四分弱彼の存在を忘れるほど、水沢タクトの曲の世界観は圧倒的だった。  そして思った。 ——この音楽の中に、住みたい。

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