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第36話:欠損

「しかし凄いよね、身内ながらアキラはそこそこのドラマーだし、ギターと作詞作曲はあの水沢タクトと来た」  改めて俺はソファに座り、普段は自分で入れるコーヒーをタケルさんに煎れてもらっていた。話によると、この部屋はアキラの名義だが、管理をしているのはタケルさんらしい。 「そしてフロントマンは、失礼ながら言うけど、無名のベース&ヴォーカル・須賀結斗くん。アキラが声に惚れ込んで、ベースも水沢タクトが承認したレベル。その真の実力はまだまだ未知数、みんなの期待も高い」 「ちょ、ちょっとそう言われてしまうと身の置き所が——! もちろん俺もバンドメイトとしては必死であの二人に食らいついてるつもりですけど、あの二人神過ぎて……」 「じゃあユウくんは二人の神に選ばれた天使だね」  そう言ってタケルさんがアイスコーヒーのグラスを渡しに来てくれた。 「て、天使……」 「シンデレラ・ボーイの方がよかった?」 「どっちも嫌です……」 「そう? 俺の知り合いには黒い天使がいるけどね」 「はい?」 「いやいや、とにかく神二名の帰りを待とう。どうせなら結斗くんサイドからの馴れ初めも聞きたいしね。一目惚れだったってホント?」 「ぎあああああああアキラそんなことまで言ってたんですかあああああああああああああああ」 「大丈夫! 夜のドラムスティック云々については詳しく聞いてないから!」 「だああああああああああああああああああきらあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 「なんでストーキングしてたの? ベース弾けるなら気軽に声かければよかったのに」 「え」  俺は思わず絶叫を停止した。 「例えば、『ドラム上手いね、俺とバンドやんない?』とかってさ」 「いや、レベルが違いすぎて、そんなおこがましいことは——」 「結斗くん」 「え?!」  俺が大声をあげたのは、タケルさんが大きな手で俺の小さな頭をがっと掴み、自分の方に向けたからだ。

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