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第37話:How About You?
タケルさんは俺の頭を掴んだまま言う。
「同じ業界の先輩として言わせてもらうよ。別にナルシシストになれとは言わない。でも表現者たるもの、最低限のナルシシズムと自信、自負が無いと音に説得力が生まれない。だからあまり自己卑下しない方が良い」
その眼は、先ほどまでのからかいモードとは全く異なる、プロフェッショナルのギタリストの魂が透けて見えるような輝きを宿していた。
俺は目をそらすことができない。
そしてさっき気づいた既視感の正体を知る。眼が少しアキラに似ているのだ。
「アキラは」
思わず声が出ていた。
「アキラはその辺りの自信やセルフプロデュース力は高いと思います。でも、恋愛のことになると、その、とても、経験値が低いというか皆無というか、そういった印象を受けるんです。何か事情があるんでしょうか。それって俺がタケルさんに聞いて良いんでしょうか。俺はただアキラに楽になって欲しいだけで——」
「誰だって割れ目や破片やら欠片はあるよ」
タケルさんは俺の頭から手を離し、立ち上がってキッチンに戻った。
「アキラの場合はたまたまそれが恋愛だっただけ。きみの場合はそれが自己肯定感だっただけ」
これは遠回しに『聞くな』と言われているな、と感じていたら、タクトからメッセージが届き、『キツネさんち』で練習を開始した、とあったので、二人で向かうことにした。
廊下で俺の前を歩くタケルさんの背中に問いたかった。
『じゃあ貴方は何が欠けてるんですか?』
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